6……ヒメブドウの実
♪
さく、ファナは小さなフォークを握って、ハムに突き刺した。あーんと、小さな身体に似合わない大きな口を開けて、
「はむっ、んむっ」
と頬張って食べる。目の前のお皿に盛ったハムサラダは、もうすぐなくなりそうだ。リトの分より少ないものの、そこそこの量はあったはずだ。ファナが育ちざかりなのか、竜だから食欲旺盛なのか。リトの予想はその両方だった。
「リトー」
「リトーじゃなくて、リトだぞ? なんだ?」
「えへへ、ぜんぶ食べたよ」
空になったお皿を持ち上げて示してくる。顔には「えらい?」という期待に満ちた目。
「ああ、えらいえらい」
リトが答えると、ファナは目を細める。イスからぴょこんと降りて、向かいに座っているリトのもとに駆け寄ってきた。
「……、えらいな」
赤い猫っ毛をなでなですると、ファナは気持ちよさそうに目を閉じる。
「でも、ご飯中にうろうろするのはあんまりよくないぞ? あとほっぺにキャベツついてる」
「えっ? どこどこっ」
目を見開いたファナのほっぺに指を伸ばす。するとファナが「あーん」と口を開いた。リトがぽいと投げ入れると、ファナはかぷりと指ごと口に含んだ。慌てて引き抜くと、
「ありがとう、リトっ」
いたずら成功とばかりにファナはにっこり笑った。
そんな笑みを見せつけられて、リトは「こいつめ」とファナの髪をわしわしと撫でた。
♪♪
リトは、自分がこんなにも子供に甘いとは思っていなかった。
目つきも微妙に悪いらしくて、村の小さい子供たちはあまり寄ってこない。「悪いことすると、村はずれのマホウツカイに食べられちゃうぞ」というのが最近の流行りらしい。
もっともそれは、リトが立派なマホウツカイ(まだまだ勉強中だが)として村人たちから好かれていることの裏返しでもあった。
実際、村の大人たちとリトの仲は非常に良い。毎週末には居酒屋に呼ばれるほどだ。(ちなみにリトは未成年なのでジュース)
「リト、ご飯おわったよ」
「そうだな。じゃ、ごちそうさまするか」
「うんっ――ごちそーさまでした」
両手を合わせて丁寧に言ったファナを見て、リトも「ごちそうさまでした」と手を合わせた。すると、席を立ったファナがまたリトの隣にやってきて。ちょこっと背伸びをして、「なでなで」と、リトの茶色い髪に手を伸ばしたのだった。えへへ、と嬉しそうにしながら。
♪♪♪
「そだ、これ食うか?」
「ヒメブドウ!」
この間、村で仕事したときにお礼としてもらったものだ。冷蔵庫に入れていたのだが、一人で食べるのもあれだと置いておいたのだった。出した瞬間、見てもいないのに言い当てたところを見ると、どうやら竜も鼻が利くらしい。
ヤマブドウより一回り小さいそれを洗い、お皿に置いてテーブルに出した。
「食べていいの?」
「ああ。皮は――」
「あーむっ」
リトの言葉を最後まで聞かず、ファナはヒメブドウを房ごとつかんだ。大きな口を開け、逆三角形の先っぽからぱくりとかじりつく。房を引っ張ると、丸い実が半分くらいのところまできれいになくなっていた。とても豪快な食べ方だ。もっきゅもっきゅと、本当においしそう。
二口目できれいに平らげる。竜の少女にとって、ヒメブドウひと房はその程度の量らしい。
「おいしい!」
「好きなのか?」
「うん! ファナはヒメブドウ大好き。甘いの!」
とろける笑顔に、リトも自然と表情を和らげていた。
♪♪♪♪
「でも、でもね」
ファナは続けた。
「リトの作ってくれたご飯もすっごくおいしかった。ファナ、リトのご飯も好き!」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
小動物的にちょこちょこ食べるのも好きだけど,
元気いっぱいにぱくりと食べる姿も好きです.
嫌いな食べ物の話とかもそのうち書きたい.
それでは次回,
『7……一緒に寝るの!』
ベッドは1つだけ――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.