48……雨降り家族とお日様の竜
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
しとしとと雨が降っていた。
昨日一度はやんだ雨は、けれど夜からまた降り始め、リトは少なからず気落ちしていた。
「いこ、リト!」
そんなリトに呼びかけたのは、雨雲を吹き飛ばすような明るい声だった。
リトの家で暮らしている女の子のファナ。赤い癖っ毛と竜の証であるしっぽを跳ねさせて。
そんな姿に、雨だからって気落ちしていたら笑われてしまうな――リトは顔を上げた。
♪♪
「……傘が一本しかない」
それは昨日のことだった。パン屋に出かけたリトとファナは、村の女の子に傘を貸した。小さな村だからそのうち返しに来てくれたらいい、と言って。
「かたぐるま? おんぶっ?」
「さすがに朝からそれはきつい。そんなに強い雨じゃないしな」
リトがさす傘の中にファナの小さな身体が収まる。俗に言う相合傘だが、二人からはそんな雰囲気は感じられない。よくて兄妹だ。
「今日もリトのお話、楽しみ」
「いや、ファナのクラスはないぞ?」
「え……?」
今日は二日に一度の学校の日。リトは先生として、ファナは生徒として学校に向かう。
リトは今年で十七。ここハテノキ村では十六から仕事を始めるのが一般的で、彼はマホウツカイ見習いの立場を活かして、マホウについて教えている。
こんな山奥の村でマホウについての知識が役に立つのかという話もあるが、街に行けばお医者様とは別にマホウツカイや薬師がいる。セカイの常識として、マホウを知っておくことはわるくない、というのが村長を兼任する校長の考えだった。
「――リートぉ。聞いてる?」
「え、あ、わるい。ちょっと考えごと」
「……むぅ。リトはすぐそうやっていじわるするしっ」
「ファナもすぐそうやっていじめられてるみたいな言い方するぞ」
「だ、だってっ」
ファナは、弱りと恥じらいを混ぜたような表情を向けてくる。それだけ好かれているのだと思えばうれしくもあるが、必要以上に甘やかすのはよくない。
ファナのためにならないし、また別に拗ねる誰かさんもいるわけで。
「あ――ノエル! シエルおねえちゃんっ」
ファナの声。まさにリトが思い浮かべた少女が、妹と仲良く並んで歩いてくるのが見えた。
♪♪♪
「おはよっ」「おはよっファナちゃんっ、リトおにいちゃん」
「おはよう、ファナちゃん。リトも」「おはよ。俺はおまけか」
二人はリトの幼馴染だ。つい先日村に降ってきたファナも、持ち前の明るさですぐに打ち解け、ノエルに至っては、歳が近いこともあって親友と言ってもいいくらいになっている。
「あはは、ごめんってば。もう拗ねないの。あとでなでなでしたげるから」
「いらん。俺は子供かっ」
「でも、ファナ。リトになでなでしてもらえたらうれしいよ? ぽかぽかするよ?」
「あたしもっ」
ノエルまで手を挙げて答える。
「あのなあ、俺は――」
「シエルお姉ちゃんと手、つなぐだけで十分なんだよね? えへへ、ファナ、知ってるの!」
にっこりと笑う。そうして、ファナがリトの腕から離れ、ノエルからなぜか傘を受け取った。さらにノエルがシエルの傘を半ば奪い取る形で受け取る。
すると当然、シエルが濡れてしまうから。
「どっちがいじめっこだよ……」
ため息をつきつつ、シエルに並んで傘を少し傾けた。
♪♪♪♪
ひとつの傘を分け合うリトとシエルの前を行く年少組。その一人がくるりと回れ右して、
「こうやって歩いてると家族みたいで楽しいの!」
「子供は親の言うことは聞くもんだぞ」
「じゃあ、いい子にしたらお風呂とベッド……――――あ、やんだのっ♪」
言いかけた言葉を切って、ファナはふと傘を下ろした。
リトとノエルも傘を閉じる。見上げれば、雲の切れ間に太陽が見えた。
舞い降りた朝の光を受けて、小さな竜の少女の笑顔がさらに明るく心を照らす。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ファナもリトのいじわるに慣れてきて,
次第に言い返したり,いたずらし返したり.
そういう距離感は互いの信頼の上で成り立っているので,
十分,家族と言ってしまってもいいのかもと思ったり.
リトと家族になり,ノエルやシエルと家族になり,
きっと次は村のみんなと家族になる.
ファナの世界はこれからも広がっていくはずです.
それでは次回,
『49……目玉ぐるぐるなの』
ファナこういうのはちょっと……――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




