5……ぶかぶかー
♪
「これくらいファナ一人でできるもん」
バスタオルを抱きながら、ファナが薄い胸を張った。ファナも女の子だ。胸もお腹もおへそもその下も、ちゃんと真っ白なタオルで隠している。
けれど、肩や腕は完全に露出していた。濡れているだけではないみずみずしさがまぶしい。
ちなみにリトはシャツと青いジャージのズボン。すでに着替え終わっている。ファナの髪を乾かす時間を考えて、先に出たのだった。
ファナの顔だけを見るように努め、
「できるよな。俺がいなくても、ちゃんと身体ふいて、髪ふいて、ってできるよな?」
念押しは三度目だった。最初はお風呂から出る前、次はリトが着替えている最中、そして今。どうして信じてくれないの、とファナは頬を真ん丸に膨らませた。
「子供じゃないんだからっ」
「子供だろ……」
「……っ、見た!? 見たでしょ!」
「なんでそういう話になる。だいたい、お前が一緒に入るって言ったんだろ?」
「う、だって………………だし。あとお前じゃないし」
ほとんど聞こえない言葉をこぼしながら、力のない目で見上げてくるファナ。
「……わるかった。俺がわるかったから。とにかく――頼んだぞ、ファナ。信じてるからな」
「っ――、ま、まかせてよリト。ドラゴンに乗った気でいてね!」
ファナの笑顔を背に、リトは脱衣所を出た。ぱたりと閉めてから、背中もちゃんとふくように言えばよかった、などと思っても後の祭り。
リトは、ファナに着せる服を探すために二階の自室へと急いだ。
♪♪
しかし、こういうときに限って服はない。
めんどくさがったせいで、最低限の着替えでローテーションを組んでいるリトには、そもそも選択肢がなかった。洗濯し終わったばかりの白いシャツ。もう少し暑くなったらはこうと思っていた青いハーフパンツ。
「……すまん」
リトはつぶやいて、ばん! と音が響いた階下へと駆け下りた。
♪♪♪
「だいじょ――」
ドアを開けた瞬間、ファナのパンチが顔面に突き刺さった。
――そして。
「……ごめんなさい」
リトは赤くなった額から、ぺちゃんこの蚊を取って――横を向いた。
ファナがタオルもなく、素っ裸だったからだ。生まれたままの姿。いや、ドラゴンって生まれたときはどんな姿なんだろう、とリトは現実から逃避した。
そしてファナは、リトが顔をそむけた理由に気づいて、慌てて後ろを向いた。床に投げ出していたバスタオルをぎゅっと抱きしめる。羽としっぽが背中を隠すように動いて、
「リ、リト……」
「な、なんだ?」
「……………………背中、うまくふけなかった」
♪♪♪♪
「ぶかぶかー」
ファナはシャツの裾をぱたぱたさせ、その場でくるりと回った。ひらりとシャツが浮かび、おへそがぽっかりと顔を見せる。確かにぶかぶかで、短いワンピースのようだ。ハーフパンツも紐をぎゅっと締めてあり、スカートみたいな末広がり。完全に着られている状態だ。
「リトぉ、これよかったの?」
ファナは背中を向けて羽をぱたぱたさせた。そう、リトは羽の存在を失念していた。切れ込みを入れることで解決したが、ファナ専用になってしまった。
「……気にすんな」
言って、リトはまたまたそっぽを向いた。ファナの真っ白な背中を思い出しそうになったからだった。顔だけ振り返っていたファナは小さく首を傾げ、
「あれ? なんだか顔赤いよ?」
「…………暑かったか――」
「ああっ」
ファナが突然、声を上げた。どうしたんだよ、とリトが視線を戻すと、ファナはお日様みたいなきらきらした笑顔をしていた。
「えへへ――リトのズボンとファナのこれ、お揃いなのっ♪」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
あと,ぶかぶかは正義です.
それでは次回,
『6……ヒメブドウの実』
夜ご飯!――というお話です.
よろしくお願いします.
今晩か明日に掲載できると思います.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.