47……今日はベッドなのっ!
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
「リ~、トっ♪」
そんな掛け声とともに少年――リトの背中になにかが降りかかった。
振り返るまでもない、ファナだ。
「くっつくなファーナ。ていうか濡れてるからっ」
「ファーナじゃないし、ファナだしっ」
「それを言うなら、俺だってリートじゃなくてリトだ」
背中に負ぶさってきたファナを引っぺがす。十歳くらいの小柄な少女、見かけ通りの軽さなので重くはないが、風呂上がりにくっつかれるとさすがに熱い。
「むぅ、リトリトのいじわる」
「いじわるじゃなくてしつけだ」
「そうやってファナをペット扱いするしっ」
「人に対してもしつけって使うからな?」
「ファナ、しつけが必要なほど子供じゃないのに」
「じゃあ訊くが。風呂上りの髪を自分で拭けない子供にはどうすればいいんだ?」
保護者代わりであるリトの問いに、ファナはすぐに満面の笑みを浮かべて、
「リトに拭いてもらうのっ」
♪♪
ファナをその場に座らせ、バスタオルで髪を拭っていく。赤色の長い髪はたっぷり水分を含んでいるときは素直だが、乾き始めるとすぐに好き勝手な方向に跳ね始める。
「ファナ、大人しくしてくれ」
「ふえ? ファナ、大人しく座ってるよ?」
「ファナは、な。羽としっぽの方だ」
「そ、それはえっと……」
ファナが困ったようにしっぽをへにゃりと曲げた。羽としっぽ――竜の子供である証だ。
彼女はある日空から降ってきて、それ以来、リトの元に身を寄せている。
「動かしてるつもりはないんだけど」
本人はそう言うが、深緑色の一対の羽とお尻から伸びる同じ色のしっぽは、ブラッシングされる犬のしっぽのようにぱたぱたと揺れている。
「ていうか、羽としっぽは拭けるのに、なんで髪は拭けないんだ?」
「えっ?」
ぴくりとしっぽが立つ。それはファナが驚いたときのしぐさ。同時に、隠しごとを指摘されたときに無意識的にしてしまう癖であることにも、リトは気づいていた。
「ま、いいけどな」
「いいの?」
「……だって、この間まで背中も拭かな……拭けなけなかっただろ? でも今はちゃんと拭けてる。だから、髪拭けるようになるまでは、頑張ってるごほうびで拭いてやっても、な」
「ほんとっ?」
「俺が嘘ついたことあるか?」
「……。…………。……ある。マホウのアメダマって言って普通のみかんアメくれたり、いじわるな顔してジュースくれたり、それに玄関に偽物のおばけ貼ってファナを怖がらせたり」
最後のは違うだろ――言い返したくても、それ以外のことには身に覚えがあったため、偉そうに言い返すこともできず。
「俺がわるかった。今度のはほんとだ。なんならゆびきりしてもいいぞ」
「……んーん、いい。嘘ついてないときのリトはわかるもんっ」
ファナはお日様の笑顔で答える。
♪♪♪
リトもお風呂を終え、二人並んで歯をみがく。そしてリトがベッドに横になったところで、
「よいしょ」
と、ファナが同じベッドに自身の枕を置いた。
「……えっと。お風呂一緒に入るか、一緒に寝るかのどっちかって言ってたよ? 髪拭いてもらうのは、お風呂じゃないよね?」
「……まあ、な。でも、ちゃんと一人でできるようにならないとだめだぞ?」
「わ、わかってる。……だけど、もうちょっとだけ――一緒がいい。…………だめ?」
♪♪♪♪
隣ですやすやと眠るファナを見る。その寝顔はあまりに平和で幸せそうだ。
数か月くらいなら今のままでもいいかと思ったが、思えばもうすぐ夏が来る。
暑くなれば一緒に寝るのも難しいだろう。その時期が意外に早いことに気づき、小さな温もりが少しだけ恋しく感じられた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
リトに甘えてばっかりのファナも、
けれど初めに比べるといろんなことを一人でするようになって.
そのうちお風呂も一緒に入ってくれなくなるんでしょうか.
……サービスシーンぽくならないので特にあれですが.
でも,夏が来れば水着とか着替えとかありますし!
ファナの日々はまだまだ楽しみに溢れているはず!
それでは次回,
『48……雨降り家族とお日様の竜』
こうやって歩くの、家族みたいで楽しいのっ――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




