46……羽があったら
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
雨上がりの村の小道を、二人の少女が歩いていた。
一人は、十代半ばに見える。淡い水色のポニーテイルとそれを束ねた青いリボンが軽やかな風に揺れる。襟のついた白いシャツと青いハーフパンツは彼女の仕事着だ。
見習い保育士。今日は午前中だけの日で、門を出たところで妹の姿を見つけたのだった。
『おつかれさま、お姉ちゃん』
『迎えに来てくれたの?』
『そ。おまけにこれとね』
右手の布の手提げを示して笑う。買い物して帰ってこいといういつものやつだ。
『……いつものなら、お迎えがおまけじゃないの。どういう風の吹き回し?』
『うーん、気まぐれ?』
♪♪
すっかり反抗的な態度を取っていた妹が、ここ最近は素直な態度を取っている。
なにがきっかけだろうかと、自分の隣、パン屋の紙袋の匂いをかいでいる妹を覗き見た。
肩くらいまでの髪は藍色で、父親の色と母親の素直な髪質を受け継いでいる。シエルは、油断すれば癖が出てくる自分の髪、ポニーテイルの先っぽを恨めしくいじった。
ポニーテイル。……そう、ポニーテイルだ。
妹のノエルが、短い髪を後ろで束ねて、小さなポニーテイル(おさげもどき)を作っている。
もうずっと、『お姉ちゃんが伸ばすんならあたしは短くするし』と同じ髪型を避けていたのに。
「それ、自分でやったの?」
「え? あ、髪? うん。……でも、お姉ちゃんみたいに長くないと難しいよね」
ノエルの髪は、昔はシエルが結っていたし、最近は下ろしたままにすることが多かった。
自分でやったというそのおさげは、少し形がくずれ、不慣れさが目立っている。
「帰ったら教えたげる。短くてもきれいにできるやり方」
「ほんと? ……なんか考えてない? お姉ちゃんが優しいと不気味」
「失礼ね。わたしはいつだって優しいし。素直な妹に対しては、ね」
「…………。う……、あ、あのさお姉ちゃん」
「どうしたの?」
「…………その、手……つないでいい?」
「へ?」
「……だからっ、素直な妹みたいなの、してもいいかって!」
その、自分から言い出しておいて怒ったような口調になってしまう、自分でも直したいと思っている癖に苦笑して、シエルは妹の手を握った。
♪♪♪
「あ、虹」
他愛もない雑談の途中で、ノエルが声を上げた。
すぐそばの山の稜線から虹が伸びている。まるで、山から空への道のようで。
山中にあるここハテノキ村は周囲のほとんどが山で囲まれているため、虹の多くは、今日みたいに山から伸びているように見える。
「昔、虹に触りに行くとか言ってあっちの山まで行こうとした子がいたわよね」
「リトお兄ちゃんだっけ」
「あなたでしょ……ノエル」
「でもあたしよりお兄ちゃんとかお姉ちゃんの方が言いそう」
「言いそうなだけで言わないってば」
「そっか。……ファナちゃんなら、飛んで行こうとするのかな?」
ファナ――この村に住まう竜の少女だ。歳はノエルと同じくらいで、十ちょっとに見える。深緑色の羽としっぽを持った可愛らしい子で、竜ゆえか昔のシエルたち以上に活発だ。
「あの子ならありそう。……でも、わたしは空から見た虹がどんなのか知りたいかな」
「っ――それ、気になる。虹の両端とか、どこから虹が伸びてるかとか。今後訊いてみよっと」
えへへ、とノエル。シエルは、その笑顔がどことなくファナに似ていることに気づいた。
「あたしも羽があったらよかったのに」
「カラスみたいに真っ黒な?」
「天使みたいに真っ白な」
「そ。でもわたしはノエルに羽なくてよかったって思ってるけどね」
「なんで?」
「……だって。ベッドにもぐりこんできたときに、後ろからぎゅってしにくいじゃない」
くすりと浮かべたいたずらっぽい笑み。リトお兄ちゃんに似てるよね、とノエルは思った。
♪♪♪♪
雨上がりの村の小道を、二人の少女が手をつないで歩いていく。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ファナ×リトは一回休みで,シエルたちのお話でした.
『どら×どら』にならって『える×える』なんてのも考えたのですが,
今後さらにバリエーションが増えると大変なことになりそうなので,
ボツにしました.
ファナの訪れによって変化する村人たちの日常,
という意味での『どら×ひび』です.
それでは次回,
『47……今日はベッドなのっ!』
一緒に寝るとぽかぽかするの!――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




