37……ファナがこねるのっ!
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる.
リトと過ごす内に,村の人とも仲良くなり,彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
「リトリトっ。今日のご飯はなにっ♪」
夕食の準備を始めたリトのもとに、一人の少女がやってきた。現在リトの家に居候中のファナだ。竜の子供の証であるしっぽを振って駆け寄る姿は、竜というよりは犬に近い。
「今日はファナにも手伝ってもらいたい」
「ええっ」
リトの言葉にファナが目を丸くする。食事時のファナの手伝いといえば、お皿とスプーン、フォーク、それから調味料を並べることだ。だから、改まって手伝ってほしいと言われるなんて、どんな大仕事を任されてしまうのか、ファナは緊張にしっぽを固くした。
「そんな緊張しなくていいぞ。切るのじゃないから。イスのところで待っててくれるか?」
リトの指示に、ファナは大人しく従った。けれど、どんな仕事なのか気になって、イスに膝立ちになってリトの背中を見つめる。しっぽは不安と期待に揺れていた。
待つこと数分。ファナの前に半円のボウルが置かれた。
そこには、ひき肉と玉ねぎと刻んだ野菜、卵にミルク、調味料が入れられていて。
ファナはそれがなにになるか、すぐにわかった。だから、
「っ――こねるの!」
やるぞと半袖をさらに腕まくりして、一生懸命に気持ちを込め始めた。
♪♪
それから十分ほどが経ち。蓋をされたフライパンを、ファナがじぃっと見つめていた。
「やけどしないようにな?」
「わかってるもん。ファナちゃんと見てるだけだもん♪」
自分のこねたそれが焼かれる匂いにすっかり機嫌を良くしたファナは、普段ならほっぺを膨らませるような注意にも素直に答えた。
そして、いよいよ蓋が開けられると、お肉の香ばしい匂いが溢れ出した。嗅ぐだけでよだれが出てしまいそうなほどだ。
ファナがすばやくお皿を二つ差し出し、
「ありがとな」
リトに盛りつけてもらってからテーブルに並べる。
イスにぴょこんと腰を下ろせば、間もなくリトも向かいに座る。
「いただきます」
「うん! いただきますなのっ」
ファナは元気よく合掌し、湯気の立ち上るハンバーグに右手のフォークを突き入れた。
♪♪♪
とろけるチーズを乗せたハンバーグに、ファナのほっぺたもとろけてしまいそうだった。あっという間にお腹に収まった。添えてあるサラダも食べきり、もう一個、と立ち上がろうとしたところで、ファナはふと首を傾げた。
「リト? 食欲ないの?」
「……いや、そういうわけじゃないんだけどな」
リトのお皿に載ったハンバーグは、まだ半分ほど残っていた。食欲旺盛なファナと比べるのもあれだが、少なくともいつもより食べるペースは遅い。
「……もしかしてリトって」
食べているときに気づいたこと。そういうものかと飲み込んでしまおうと思っていたが、
「ピーマン、にがてなの?」
♪♪♪♪
玉ねぎよりも小さく刻まれた緑色。こねているときにはわからなかったが、食べてみればそれはピーマンだとわかった。
「……うん、まあ、すき好んで食べようとは思わないな」
「なら食べなくてもいいのに」
「……そういうわけにもいかないだろ。栄養だってちゃんと取らないとだし。それに、シエルが差し入れてくれるんだよ。時間あったら料理までするって言ってくれてるんだけどな」
いたずらっぽい笑みを浮かべた幼馴染の少女を思い浮かべる。その笑顔は関係ないとしても、もらったものを捨てることなどもったいなくてできないわけで。
「でも、刻んだピーマンをハンバーグに入れるって、なんだかかわいいね」
「もしかしたらファナもなんて思ったんだが……苦手じゃなかったんだな」
「ファナえらい?」
「ああ、偉いぞ」
偉いファナはおかわりもするのっ、とおかわりついでに隣に来たファナの髪を撫でれば、
「えへへ。リトもそれぜんぶ食べきったら、えらいえらいだね♪」
にっこり笑顔を浮かべたファナに、リトはよしとフォークを握る手に力を込めた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ファナの苦手なもの――と見せかけての.
たまに立場が逆転するのもいいもので.
というお話でした.
シエルやらファナやら村長やらみんなに子供扱いされる,
子供リトも見たくなってきました.
もちろん,ファナの前では兄・父親ですが,
周りから見ればまだまだ子供なわけで…….
そういう点では,一番背伸びしているのはリトなのかも?
それでは次回,
『38……星を見に行こう』
いつか空を飛んで星になってリトに見つけてもらうの!――というお話です.
(多分そんな話にはならないです)
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




