表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/150

36……ゆうやけこやけ

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

そうして2人の生活は始まりを告げる.

リトと過ごす内に,村の人とも仲良くなり,彼女の世界は少しずつ広がり始め――

      ♪


 夕焼けは、太陽が精いっぱい輝くのが目で見える。それに、空と雲が、夕暮れ色と夜空色のグラデーションに染まってとてもきれいで。だからファナは夕暮れが好きだった。

 しかも隣を歩くのはリト。ファナの現在の保護者だ。手をつないで歩く二人きりの帰り道はとっても嬉しい――はずなのに。

 なのに――雨雲が近づいているみたいに、心の中が重いことにファナは気づいた。

「遊び疲れたか?」

 ちょとした表情の変化をリトが目ざとく指摘する。

「えへへ……ちょっと」

 ただはしゃぎすぎただけか、ファナはそう納得しようとした――のに。

「俺はもうファナの家族だからな。笑ってない顔も、見せていいんだぞ?」


      ♪♪


 リトは以前、太陽みたいに明るい笑顔を浮かべられるファナなら友達をたくさん作れるだろうと言った。だから、ファナの初めての登校だった今日、不安はたくさんあったけれど、ずっと笑っていた。

 リトは、ファナが笑う努力をしていたのを、ちゃんと見ていた。

「たくさん訊かれただろ? 前の村のこと、竜のこと。それと遊びのこと。……思い出すよな」

 ファナは竜の子だ。ここに来る前は、山深くの村で暮らしていた。そこには、ファナと同じように羽としっぽを持つ、ヒトによく似た姿の子供たちがいて。

「わるい子なの、かな」

「うん?」

「ファナは今はこの村の子で、レイミちゃんにノエルに、もちろんリトも。たくさん家族ができて。それなのに、前の村のことを思い出したり、比べたりしちゃうの」

 ぽつりぽつりと話す。

「みんなはファナのこと見てるのに、ファナだけ自分の中の、別の場所を考えちゃってる」

 目の前で触れ合っている人たちに、向き合えていないのでは――それがファナの不安だった。

 なんと答えるのがいいだろうか、リトが迷ったほんの数秒。そのとき、

「ファナちゃんっ――」

 二人は同時に振り返った。歩いてきた道。その先にいたのは、一人の少女だった。


      ♪♪♪


「ごめんなさいっ」

 ファナと同い年くらいの彼女――ノエルは、傍に来るやいなやこれでもかと腰を折った。

「えとっえっとっ、リトリトっ、なにしたの!? ノエルいじめちゃだめなのっ」

 混乱するファナ。けれど、リトが二人の小さな頭に手を乗せれば、魔法のように落ち着いて。

「……その、わたし、昼間にファナちゃん困らせたから」

 ノエルは、二人の顔を交互に見て、ゆっくりと切り出した。

「来たばっかりだって知ってたし、なんでこの村に来たのかも知ってた。前の村のことが気になってるの当たり前で、さみしいって思ってるのも簡単にわかるのに。それなのに、いっぱい質問して、わたしたちが知りたいことばっかり訊いて。話すとき、さみしそうな目するのわかってた。でも笑うから。笑ってるから、また訊いて。だから、――ごめんなさいでっ」

 精いっぱい伝えようとするノエル。小さく口を開いたファナに、リトは小さくうなずく。

「ノエル。ファナも、ごめんなさいっ。みんなと一緒なのに、違う場所のこと気にしたり、さみしがったり。心の、えっと奥から? 笑ったり、楽しんだり、しなくてっ。でも、ファナ、好きだからっ。前の村も前の村のみんなは好きだけど。ここのみんなも、好きなの。やさしくて、あったかくて、一緒にいたいって思えて、自分もなにかしたいって思えて。今はまだ、前のこと引きずっちゃうけど、でも、ちゃんと、ちゃんとっ……っく、えっく、ふあぁぁぁあ」

「ファナちゃん……」

 ついに声を上げて泣き出したファナを、ノエルはぎゅっと抱きしめた。

「ううん、いいの。どっちの場所も、ファナちゃんの大切な場所なんだから。忘れちゃだめ。前のを忘れて、ここだけになったら、さみしいよ。だからそのままでいてよ。その代わり」

「……ふぇ?」

「その代わり、前のところに負けないくらい、ううん、それ以上にこの村のこと好きになってもらえるくらいに、わたしたちがんばっちゃうから!」


      ♪♪♪♪


 二人を照らすのは夕日色で、それは一日の終わりなのにとてもとてもまぶしくて。

 きれいで、三人の今の時間が嬉しくて、ファナはさよならを言うのがいやになった。

「だめだよ、今日はもうお別れ。でも、さみしくならないマホウの言葉――あるから」

 ノエルが笑う。夕焼け色に染まった空に手の平を掲げて。大きく、振って。

「またあした!」






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


夕焼けは好きだけど,

なんとも言えない寂しさを感じると弱気になってしまう.

弱気ファナもたまにはいいのではないかと!



それでは次回,

『37……ファナがこねるのっ!』

みんな大好きなあれを手伝う!――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ