35……色鬼、リト色
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる.
リトと過ごす内に,村の人とも仲良くなり,彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
初夏。強まり始めた日差しの下でも、変わらずにはしゃぎ回る子供たちの姿がそこにあった。飛び跳ねるたびに揺れる髪が、照りつける太陽を受けてきらきらと光る。
そんな子供たちの中でもひときわ輝いていたのは、赤い癖っ毛の少女だった。
昼下がりの校庭を、誰よりも元気いっぱいに駆けている。
「赤――なのっ!」
その少女ファナが色を告げれば、石のように止まっていた少女たちが一斉に走り出した。
向かう先は、各々が見つけた赤色たち。ブランコであったり、鉄棒であったり、飛び石のように遊ぶ段々の丸太であったり。
色を告げたファナの役目は、色に触る前の誰かにタッチすることだ。そうすることで、その子とファナの役目が交代する。
「むぅ……」
けれどあと一歩のところで、誰も捕まえることができなかった。
「えっと、じゃあ次の色は――」
♪♪
「いろおに?」
午前の授業を終え、みんなで食事をとってお腹いっぱいになった後。なにをして遊ぶかの話になった。
ファナが首と一緒にお尻から伸びたしっぽを傾げた。実は彼女は竜の子供で、とある事情でこの村で暮らしている。そして今日はファナの初登校の日だった。
「えっと色鬼っていうのは」
ファナと同じくらいの年の少女ノエルが答える。丁寧な説明が終わると、
「それ、山採りに似てる!」
「やまとり?」
今度は子供たちが興味深々にファナを向く。
「うんと、山採りっていうのは、一人が身の回りにあるものを示して、この色って言うの。それから、みんなで山を歩いてその色を探すの。木の実とか、花とか。秋だったら、赤とか黄色い葉っぱもあって、季節によっていろんなところにいろんな色があって、飽きなくって」
いい頃合いで次の人が別の色を指定し、色決めする人が一週から二週したら終わり。
その頃には、いろとりどり自然が手元に集まっている。
それらを世話役のお兄ちゃん、お姉ちゃんに見せて、名前や生態を勉強する。遊びと学びが一体になったもので、そうして竜の子供たちは自然への知識を深めるのだった。
「でもね、きのこだけはどんなにきれいでも採ったらだめだって」
いやほんとやばいんだぞ、いつになく真剣な表情をしていた彼に、ファナたちは揃って笑ったのを覚えている。
♪♪♪
山採りの話をすると、ヒトと竜の遊びの話題に花が咲いた。まったく同じだけれど違う名前であったり、同じ名前だけれど似た名前であったり。
「じゃあ、おにごっこはなんていうの?」
鬼に捕まると大変なことになるから逃げないといけない。そんな遊びだ。
捕まったら食べられてしまう、それを探して夜の山を探検した記憶が蘇った。竜の子供の遊びを話すときから脳裏をよぎるのは、幼馴染たちの姿。彼女ら、彼らは今どうしているのだろう。ファナの心がちくりと痛んだ。
だいじょうぶ? 周りの子供たちが心配そうな目をしているのに気づいて、ファナは慌てて首を振った。それから、その名を口にするのが恐ろしかったの、そんな口ぶりで、
「ヒトクイ」
と答えた。
♪♪♪♪
色鬼が始まると、時間は驚くほど速く過ぎた。
気がつけば日差しは眠る直前で、空は暮れ色に染まっていた。けれど、赤い校庭にはまだまだ遊び足りない子供たちの声が響いていた。
そんなところに、校舎から一人の少年が姿を見せた。
「リト先生っ」
誰かの声がすれば、他の子供たちは今日の遊びはおしまいと息をついた。
そんな中、ファナだけが、家に帰る鳥のように一直線に走り出した。リト――彼はこの村におけるファナの保護者だ。ファナは彼のことをほんとうの家族のように慕っている。
走ったままの勢いで跳びついたファナを、リトは驚きながらも受け止めた。
そんな心温まる光景に子供たちはみんなして笑い合う。
「リト色って言われたら、ファナちゃんが一番だね」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
文化の違い,遊びの違い,呼び名の違い……
色々な違いが新しい発見になって面白い,という話でした.
番外編で山採りやヒトクイの話も書いてみたいです.
それでは次回,
『36……ゆうやけこやけ』
帰り道のさびしさを吹き飛ばす魔法の言葉は?――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




