21……ファナの恩返し
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げ――
♪
マホウツカイ見習いであるリトの元に竜の少女ファナが降ってきて、三日目の朝。
リトより先に目を覚ましたファナは、背中の羽を静かにぱたぱた、お尻のしっぽをゆっくりゆらゆらさせて、そっと伸びをした。一人用のベッドにリトと一緒に眠ったことで縮まっていた身体を動かすと、腕や足が軽くなったみたいに感じて気持ちよかった。
彼女の隣、ため息をつきながらも添い寝を許したリトはまだ眠りの中だ。ファナは息をひそめてリトの寝顔を眺めながら、昨夜に思いついたことの続きを考え始めた。
♪♪
「ん……起きてたのか。おはよう、ファナ」
しばらくして、薄目を開けたリトが隣のファナが起きていることに気づいて口を開いた。リトも、ファナと同じで朝には強い。
「おはよ、リト」
「ああ。ふぁ――、起きるか」
もぞもぞとタオルケットを載せたまま起き上がろうとして、リトはすぐに横になった。
「? どうしたの? おねむ?」
「……いや。起きて朝ごはんにするぞ。ファナも着替えてこい」
「昨日、ちゃんと持ってきて、ほら、机の上に置いてあるよ?」
ベッドから降りて、机の上から畳まれていた服を持ち上げて示してくる。
「えらい?」
「……。ああ、えらいぞ。でも、一人で別の部屋で着替えられたらもっとえらいかな」
「ここで着替えたらだめなの?」
「ファナは女の子だからな。そういうもんだろ?」
リトは人の判断基準で物を言ったのだが。ファナは首を傾げた。
「うーん、でもネコもイヌも服着てないし。リューの姿だったら裸だし。でもでも、リューも人の姿してたら服着てるし……。あれ?」
「人の姿をしてる以上、人の習わしに従うべきなんじゃないかと俺は思うわけだが」
「えっと、リューの巣に入らずんば、リューの子を得ずってやつだね」
当たり前のことだよね、と言いたいらしい。
そうして、人の家に住む竜の子は、ころころと笑いながら部屋を出て行った。
♪♪♪
「ねえねえリトリトっ」
「どうどう、ファナファナ」
目をきらきらさせて、羽としっぽをぱたぱた揺らしているファナをなだめる。
「ウマじゃないしっ」
確かにウマではない。けれど、竜と言われても、という姿であることは違いない。深緑色の羽としっぽがなければ、ちょっと珍しい赤毛の女の子にしか見えない。
しかも、先日買った白い半袖ブラウスに薄赤色のショートパンツという、この村でも珍しくない服装をしているおかげで、そのことがより強調されているように感じる。
「で、どうした?」
「うん! あのね」
ファナはこれ以上ないというくらいに満面の笑みを浮かべた。そのまぶしさに思わずひいたリトの耳に、彼女の言葉が届く。
「ファナ、リトにいっぱいお世話になってるから。だから、ご恩返ししたいのっ、身体で!」
♪♪♪♪
「……」
リトは沈黙した。
「あ、あれ? 言葉が間違ってたかな? 人の言葉ってむずかしいよね。えっとファナね、リトにありがとうって伝えたくて。行動で示そうと思うの。だから身体でお礼をしたいんだけど」
聞き間違いではないようだった。
「……身体で?」
「うん! ちっさいけど、リューだから体力はそれなりにあるし、だいじょうぶだと思うの。羽はあれだけど、しっぽあるから、人じゃできないこともできると思うし」
「は、はぁ」
ファナの言葉にリトはただ相槌を打つだけだった。思考が追いつかない。ファナは、なんでリトは困ってるんだろうと首を傾げたが、次の瞬間には行動に移していた。
「まずは、牛乳とシンブン取ってくるねっ!」
「うん? 新聞?」
「うん! ファナいっぱいお手伝いするの! ご飯も、お掃除も、お買い物も。昨日よりいっぱいいっぱい、うんと働くのっ! 村のみんなも手伝う。それがファナのご恩返しだよっ!!」
両手でばんざい。小さな身体を精一杯大きく広げて、ファナは目を細めた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ファナが動き出したおかげで『どら×ひび』っぽくなりました。
これからもいっぱい振り回してくれると思います。
あとショートパンツは仕様です。
それでは次回,
『22……がるるるっ』
うー、わんわんっ――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.