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2……翼なき竜

      ♪


「わるいな」

 悩んだ末、少年は少女を自室のベッドに寝かせることにした。ソファの上が本やらなにやらで埋まっていたのが主な理由だった。

 少女はいまだ眠りの中だ。歳は十歳くらい。白い肌に頼りない四肢、あどけない顔。赤い髪の毛は珍しいが、それらだけを見れば普通の子供と変わりはない。

 けれど少女はそれだけではなかった。

 おでこの少し上には親指の爪程度の長さをした白い円錐のでっぱり、背中には深緑と薄緑の一対の翼、そして桃色ワンピースの裾の中からは同じく深緑のしっぽが伸びている。

 竜を模した飾り? 都会ではそんなものが流行っているのだろうか。

「しかしよくできてるな」

 しっぽに触れる。竜といえば硬い鱗で覆われているイメージだが、触ってみると硬くも痛くもない。顔を近づければ細かな鱗が見えたが、一枚一枚は小さくて柔らかい。中に骨があるようで真ん中は硬いのだが、さわり心地はすべすべと滑らかだ。

「……くぁ?」

「へ?」

 なにか聞こえた――気がした。それに、しっぽ飾りがくねっと動いた気も。

「……まさかな」

 竜が実在するというのはまれに聞くが、女の子の姿だなんてのは聞いたことがない。

 羽をつついてから額へ。小さな円錐のでっぱり――角の先っちょに人差し指を当て、

「っ――」

 マリョクが急激に高まるのを感じた。反射的に身体をそらしたすぐ後、少女の口から、さっきまで少年がいた空気を焼き尽くす赤い炎が放たれた。ただそれも一瞬のことで。でも見間違いじゃないよなと近づくと、少女の目が開いているのに気づく。

「……」

 少女は目を覚ましていた。黒い瞳が宙をさまよい、そして少年を見つけた。

 ――少年と竜の少女が、初めて視線を交わした瞬間だった。


      ♪♪


「ここ、どこ?」

 身体を起こして、ベッドの淵に腰かけた少女はまっ先にそう言った。ヒトの言葉で。竜が高度な知能を持っているのは聞いたことがあるが、やすやすと話せるのは驚きだった。

(いや待て、まだ竜って決まったわけじゃ)

 少年は心の中で否定する。

「俺の家。地理的には大陸の隅っこで、山に囲まれた村だ。ハテノキ村っていうが」

「隅っこ? 山に囲まれた? ハテノキ……翼の死に場所?」

 翼の死に場所? 不穏な単語が出てきて、少年は眉根をひそめた。

「もしかして、こーんなおっきい樹が」

「ああ。あそこに見えるだろ?」

 開けてあった窓の外を示す。背の低い緑の木々の向こうに小高い丘があり、頂上には見事な大樹がそびえている。ハテノキだ。

「うそ……」

 少女の顔に浮かんだ表情に少年は戸惑った。それは恐怖だったからだ。

 少女はばっと立ち上がり、小さな身体で窓の向こうにジャンプした。

「ちょ、待て――二階っ」

 慌てて窓から顔を出すと、少女は玄関先に立てかけたままだったハシゴを上っていた。二階から飛び降りたが無事らしい。それだけ確認して、少年は部屋を飛び出した。

 後を追った少年が屋根の上に着いたとき、少女は屋根の端に立っていた。

 翼をいっぱいに広げ、ぶぉんぶぉんと動かしている。まさに竜の羽ばたき。少女の小柄でこれなら、成長した竜なら家くらいは吹き飛びそうだ。圧倒的な力の前に腰が抜けそうになる。

 そして最後の一振り――思いっきり羽ばたいて、少女の身体が宙に浮かび、


      ♪♪♪


 ジャンプの距離にも届かない程度で、屋根へと墜落した。


      ♪♪♪♪


 三角屋根のてっぺんにぺたんと座り込んだ少女に近づく。さっきの羽ばたきのときに感じた力強さなどみじんもなく、ただただか弱い年相応の存在に見えた。

 少女が振り返った。黒い瞳。浮かんでいたのは大粒の涙だった。雨のように頬を伝うが、拭うことをしない。拭うことを知らなかった。だって竜はめったに泣かないから。

「っ……っつ――――く――くぁぁああああアアアアァ、くぁあぁぁぁぁァァァぁぁぁん」

 空を翔る力をなくした竜の少女は、悲しみの慟哭をただ響かせることしかできなかった。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

竜の少女攻めの少年の日々受けです.

なので『どら×ひび』.


遅々として進まないのは,

ローカルルールに基づいた結果です.

このあたりのことはまた別の機会に…….


それでは次回,

『3……お前じゃないのっ』

目覚めた少女に対して少年は――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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