19……カサハネ
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げ――
♪
家族――。
『リトとファナは家族なのっ』とはっきりした言葉で言われたことがやはり嬉しくて、マホウツカイ見習いの少年リトは、軽い心で空を見上げていた。
村はずれの丘の上、村の守り神である巨樹ハテノキの根元。
ただ、夕暮れまでには時間があるが、空は少しずつ暗くなっていた。
「ファナ、雨降りそうだからそろそろ――……」
隣で一緒に村を眺めていた少女ファナに視線を移すと、
「すぅ、くぅ……」
と規則正しい吐息を漏らしながら、丸くなって眠っていた。安心しきった顔はあどけなくて、まだまだ子供なのだと認識させられる。
赤い癖っ毛をそっとなでると、くすぐったそうに「んぅ」と鳴いた。深緑色をした背中の羽と、お尻のしっぽがぱさと揺れた。猫みたいだな、とリトは口元を緩め。
起きるまで待つか――、竜の子供である彼女を眺めながら、あくびを漏らした。
♪♪
ぽつんと頬を叩くものを感じて、ファナは目を開けた。
「リトぉ?」
「まだ眠たいか?」
「んー……」
ふあとあくびを手で押さえながら身体を起こす。すると、頭がぽつんと叩かれた。
「雨?」
ファナが鼻をひくひくと動かす。竜の彼女は、人よりも鼻が利くらしい。
「降ってきそうだ。早く帰るぞ」
「……もしかして、ファナが起きるまで待っててくれたの?」
利くのは鼻だけではないらしい。「ぼーっとしてただけだよ」と笑うリトに、ファナはありがとうの気持ちを込めて微笑みを返した。
そんな和やかな空気は、けれど一瞬だけだった。次の瞬間には、灰色の空から雨粒が降り注いできた。豪雨というほどではないが、ちょっと強いと感じる。
「……樹の下に入るぞ」
ファナの手を引いて、すぐ近くのハテノキの葉の下に退避する。木の葉の密度が高いおかげで、雨粒はほとんど落ちてこない。手をつないだままで空を見やる。
「やまなさそうだよ? リト」
ファナが口を開いた。確かに長くなりそうな雨だった。それに、だんだん強くなっていきそうな気配もあった。濡れるのを我慢して走った方が良いかもしれない。
そう提案しようとしたリトに、
「リト。肩車なのっ♪」
ファナが満面の笑みで言った。ただその笑顔は――いたずらっ子の笑みだった。
♪♪♪
「……これでいいのか?」
ファナを肩に乗せて、リトは立ち上がった。
「うんっ。えへへ、リト背高いね♪」
高いところは慣れているのか、ファナは上機嫌に答えた。
「よいしょ、っと」
急に上が暗くなった――そう思って見上げると、
「っひゃいっ。リトぉ! ひゅうに上向かないでよはにゃがぁっ」
頭になにかがぶつかったと思ったら、ファナの鼻だったらしい。わるいと謝って、今度は慎重に上を確認する。するとそこには、深緑色の屋根があった。
「羽?」
「えへへー、飛べないけど、こういうことにも使えるんだよ?」
誇らしげに笑うファナだった。
♪♪♪♪
「とうちゃーく」
玄関にて。ファナを下ろしたリトは、「ここで待ってろよ」と言い置いて家の中に入っていった。一分もしないうちに戻ってきて、手には真っ白なタオルを持っていた。
そして、ありがとうを表すように、ファナの髪と羽を丁寧に丁寧に拭いていく。
「くすぐったい♪」
ファナはじゃれるように、タオル越しに頭に置かれたリトの手に自身の手を重ね、目を細めた。雲の切れ目から光が舞い降りるような、明るい明るい顔をして。
「言い忘れてたの。――リト、おかえりなさい」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
雨が好きです.
ただし自分が濡れない立場にいる場合に限って.
でも雨の日に散歩するのも普段と違って面白いと思います.
あとファナは水が苦手ですが,雨などの自然現象なら多少は我慢できるみたいです.
ファナが顔くらい一人で洗えるもんと言いながらつけ加えてました.
それでは次回,
『20……お風呂かベッドなのっ!』
ほんとはどっちもがいいけれど――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




