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134……トリの手

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、年齢不詳の幼い村長さん。たくさんの人と触れあって。


初めての夏。村のお祭りがすぐそこに迫っていた――。


      ♪


 みなさんお久しぶりです、トリのユウレイ、トトリです。羽の生えた女の子だよ!

 今日も村の平和のためにがんばります。

 季節は移ろい、夏も静かに。年に一度のお祭りを前に、ワタシの見回り範囲は村全体に広がる。特に商店街。みんなお祭りの準備で道の隅に木の板を置いていたりけど、それがたまに崩れてるから、直さないといけない。

 それから広場。広場に飛び出て刈られてしまう場所に咲いちゃった花を、きちんと道端に植え直す。地道だけど、これもすべては村の平和のため。

 それがひと通り終わったら、村外れへと向かう。村はずれの一軒家から広場への道、その道が狭くならないように、草たちを踏んであげて。

 そして最後は丘の上の大きな樹、ハテノキへ。


      ♪♪


 この丘の上に子供たちがよく遊びにくるから、走り回って怪我しそうな小枝とかはちゃんと避けておく。こんな小さな気配りが、村の平和につながる。

『さっすがワタシだね!』

 ぶいっとハテノキに向かって指を突き出すと、

『……』

 白いワンピース姿の女の子がいた。

『……』

『……あ、照れた』

 う、うるさいなあ、口にしなくてもいいじゃないかっ。いじわるめ!

『ふふ、ごめんなさい。こんばんは、トトリ』

『はいはい、こんばんは。今日は――ちょっと濃い?』

『そうかも。昼間にレイミとファナが来たから』

 ハテノキの精霊。この村の守り神である彼女は、けれど、信仰心がなければ気配が希薄になるという面倒な体質。ワタシみたいなユウレイよりよっぽど偉い人(?)のはずなんだけどね。

 その分、お仕事も大変だから、ワタシは今のユウレイが気楽で好きだ。

『あ、机がちょっとずれてる。直して』

『はいはい。触れられないって不便だね』

 偉いのに、信仰心が少ないと物にも触れないのはほんとに大変。木の実をついばむこともできないし、お腹すいたらどうするんだろう。


      ♪♪♪


 ひと通りのお掃除が終えて、ワタシは彼女と並んで村を見下ろす。明かりはなくて、虫たちの声と、彼女の呼吸だけが耳に届く。

『トトリはどうするの? お祭り』

『昼間だしね、寝てるんじゃないかな?』

 夜行性じゃないけど、幽霊だから昼間に出歩くと先輩方にやいやい言われる。それに、その日は、ガッコでユウレイの方でも一年の安全祈願をするから来いと言われてるし。

『そう……』

『ワタシがいなくてさみしい? んん?』

『っ――そ、そんなんじゃ……ないし』

『ふうん。でも訊いてくるってことは、考えてるってことでしょ? 悩んでるの?』

『だって』

 彼女の心配はわかる。出店のある広場まで顔を出すかどうか。

 もちろん、精霊だから、ハテノキへの祈願の儀式のときはその場にいるだろうし、意思疎通ができる数少ない住人である村長とも話はするだろう。ただ、それは義務として、だ。

 姿が見えないし触れられない自分が、お祭りに行ってなにができる――?


      ♪♪♪♪


『いっそユウレイになればいいのに』

 そしたら、物にも触れられるし、なんなら誰かに乗り移ったりも――、

『あれ? ねえ』

『なに?』

『いいこと思いついちゃったかも。知りたい? ねえ、知りたい?』

『……べつに』

『ぇ……』

『……わかった聞いてあげるからさっさと話しして帰って寝たらどう』

 小さく首を振った彼女の耳元で、ワタシの考えをささやく。興味なさげなそぶりをしていたのも最初だけで、彼女の頬に朱が差したのを見逃さなかった。

 ――今年は楽しくなりそうだ。ワタシも寝不足覚悟で遊びに行くのもわるくないかもね。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


トトリみたいな明るい行動的なキャラは,、好き勝手やってくれるのでとても楽です.


それでは次回,

『135……みんなだから』

お祭りは準備のときも楽しいの!――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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