どら×どら11……お祭りの夜
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
……これは、ファナがまだ竜の村にいたときのお話。
♪
「今日の授業は、ふもとの街のお祭りに行くことです!」
「「「おおっ~~」」」
十代後半ほどの月色の髪をした少女が宣言すると、並んで話を聞いていた子供たちが歓声を上げた。十歳ちょっと、赤毛の少女、金髪の少女、黒髪の少年に、黒髪の少女。個々の反応は違えども、期待がこもったきらきらの目は変わらない。
「たっだ~し、ふもとの街はニンゲンさんの街です。そしてキミたちは?」
「リューなの」「竜ね」「竜だな」「ヒト」
「あー、ルル?」
少女が、一番背が低い黒髪の女の子に視線を向けた。
「だって……そういうことでしょ? ヒトの街にリューが来たら大変だから、ヒトにばれないように行くんだよね? 羽としっぽを隠して」
「うん、そうなんだけどね。うん。お姉ちゃんの意図をばっちり理解してくれてうれしいんだけど」
「……お姉ちゃんが言いたかった?」
「……うん。ありがとう。――ていうことで! みんなには街でお祭りを楽しんでもらうけど、その代わり! ぜったいにヒトに竜だってばれないようにすること! いいね!」
「はい! 羽はどうすればいいのっ?」
赤毛の少女――ファナが手を上げ、背中の深緑色の羽をぱたぱたさせた。それは、外見は人の姿をしているものの、彼女たちが竜の子供であることの立派な証だ。
「そんなときはこれだよ。伝統のやつだから、破ったりしないように」
♪♪
光夜祭――その夏祭りはそう呼ばれていた。レンガ造りの建物を色とりどりの電球で飾り、広場や大通りには、これまた電球で縁取られた馬車、船、動物など様々な造形物が並んでいる。
街の人々もスーツやドレス、伝統衣装や妖精姿などきらびやかな衣装に身をまとう。別の広場では屋台のテントが食欲をそそる匂いで人々を誘い、サーカス団が光る玉や輪っかで周囲を沸き立たせる。
周囲が暗くなった頃、四人の竜の子供たちは街に降り立った。
蝶の羽やマントを羽織った仮装姿で、羽としっぽを上手に隠していた。
「さーて、はぐれないようにね」
金髪の少女――レアがマントを揺らして言う。ヒトのことを学ぶ授業の一環として、街のお祭りに参加する。お金も持たされているから、これで遊んだり、夕食を買ったりする。
「っ、あっちからお肉の匂いがするのっ」
「こら、ファナっ、勝手にいかないの!」
「ファナ、はぐれたら迷子になる……」
ルルに言われて、ファナは赤髪をなでで、舌を出した。
そうして、四人は祭りの夜へと仲良く足を踏み入れた。
♪♪♪
特産のソーセージにサイコロステーキの串焼きを食し、ソーダを飲み、まと当てやくじ引きを楽しみ、きらびやかな光の作品に感嘆の息を漏らす。まもなく花火が始まりますというアナウンスが流れたところで、ファナが道の隅で顔を下げている少女を見つけた。十に満たない小さな子で、光る猫耳カチューシャをつけていた。
「どうしたの……?」
「……っ、おかあさん、いない」
四人は顔を見合わせ、同時にうなずいた。
(目立ちすぎないようにね)
(む、むずかしいの……)
女の子と手をつなぎ、歩いてきた道をいっしょに戻りながら、女の子のお母さんを呼ぶ。しばらく歩いたところで、街の人が広場に迷子センターがあるよと教えてくれた。
果たして、女の子はお母さんと再会し、四人に笑顔を向けて、ありがとう、と言った。その日、四人が見たどの光よりも輝いたきれいな笑顔だった。
女の子はお母さんの手をしっかり握り、にこにこと笑う。
「ちょうちょの妖精さんに助けてもらえてよかったわね」
「ううん、お姉ちゃんたちは、竜だったよ♪」
♪♪♪♪
その街には、ひっそりと伝えられるお話があった。光夜祭には、竜の子供たちが遊びに来ることがある。その子供たちは純粋に遊びに来たから、驚かしたり騒いだりせず、歓迎し、仲良くするように。そして、出会った人には、きっと幸運が訪れる――と。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
過去編『どら×どら』,夏祭りのお話です.
日本のお祭りもいいですが,海外のお祭りもまた違って楽しいですよね.
さて,次回からはリトたちの村も夏祭りに向けた準備が始まります.
それでは次回,
『131……ハテノキさん』
彼女は村の守り神じゃよ――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




