130……笑顔のマホウ
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。
学校のみんなに、年齢不詳の幼い村長さん。たくさんの人と触れあって。
訪れた夏は新しい波乱も連れてきた――
ファナは、ノエルそしてイオと喧嘩をしてしまった。
♪
仲直りを果たした三人は、広場の隅を流れる川にいた。大人しいノエルは川辺に腰を下ろして、靴を脱いで川でじゃれ合うファナとイオに笑顔を向けている。ふたりが跳ねさせた水しぶきが夕焼け色にきらきらと舞う。
「あ、いたいた。なんだよすっかり仲良しだな」
橋の上から声をかけてきたのは、十代半ばの少年だった。名前はリト。ファナの保護者だ。
「探してたんだ。川から上がって、三人とも学校に来てくれ」
「がっこ?」
そろって首を傾げる三人に、リトは微笑み、
「今夜はパーティだぞ」
♪♪
なんのパーティだろう、三人ではてなマークを浮かべながら教室に入ると、
――パンっパンっ
クラッカーが鳴り響いて、いろとりどりの紙テープが三人の顔に降り注いだ。目を真ん丸にした三人に温かな視線を向けるのは、村の人々だった。特に顔見知りの人が多い。
目をぱちくりさせ、やがて黒板に書かれた文字を見つけた。
おかえり イオ
ようこそ ファナ
「え、な、なに!?」
「ふえっ?」
名前を書かれたイオとファナは、けれど状況をさっぱり飲み込めなくて、困った視線をさまよわせる。助け船を出したのは、リトだった。
「イオがさくらんぼの収穫から帰ってきたのと、それからファナがこの村に来た歓迎会もまだできてなかっただろう? 来てすぐにやってもよかったんだけど、イオがいた方がいいなってみんなで話したんだ」
「みんな……」
ファナのつぶやきに、急に廊下が騒がしくなった。振り返ると、廊下にも村の人たちが集まっていた。三人が教室に入るのを待っていたらしい。
「ほら、主役は教壇に上がって、コップ持って」
ファナとイオが教壇に立つと、リトがコップを手渡す。続いて、金髪が美しい十代半ばの少女が、ラムネを注いだ。レイミ――こう見えても村長だ。
注ぎ終わったところで自身もグラスを手にし、みんなを振り返る。
「みんなグラスは持ったようじゃな」
子供はジュースを、大人たちはお酒を手に、右手を構える。
「それでは……イオの帰宅と、新しい家族ファナに――乾杯」
「「「かんぱーいっ」」」
♪♪♪
ファナとイオは休む暇もなく言葉を掛けられ、頭をくしゃくしゃとなでられた。喫茶店のマスター、洋服屋のコトリ、パン屋のコロさんにコロネさん。保育士のハニカに、大工のクガ。
「ファナちゃんっ」
「っ、ネナナちゃんっ」
以前、急に雨が降ったときにファナ傘を貸した少女だ。
ぎゅうっと容赦なく抱き着いてきて、ファナは笑顔で受け入れて髪をなでる。
「ほんと……この村ってば」
お祭り騒ぎの教室を見て、イオはそんなことをつぶやく。コップに隠された口元が緩んでいることに気づいたノエルとファナは、顔を見合わせてこっそりと微笑んだ。
♪♪♪♪
「リトっ」
教室の隅でしずかにジュースを飲んでいたリトの元に、ファナがやってきた。
「なんだ、俺とはいつでもお話できるんだから、みんなと話すればいいのに」
「うん! あのね、ファナ、リトに言いたいことがあって」
「?」
「あの、マホウのアメダマ。あれのおかげで、イオとノエルと仲直りできて、友達になれたの。あの……ありがとう、なのっ――」
ファナは頬を染めて、にっこりと笑う。イオに呼ばれてぱたぱたと駆けていき。
「……勇気の出るマホウのアメダマ、か」
リトはポケットの中で、雑貨屋に売っているオレンジ味のアメダマを転がした。
「そんなの、ファナの笑顔の方がよっぽどマホウらしいよ」
敵わないなあ、笑顔の中心にいるファナを眺め、リトもまた頬を緩めた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
――121話~130話はひと続きのお話なので,そこは流れで読んでもらえるとわかりやすいです.
子供たちが喧嘩してしまうお話です.
それでは次回,
『どら×どら11……お祭りの夜』
今夜はキミたちはネコだよ!――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




