123……親友2
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。
学校のみんなに、年齢不詳の幼い村長さん。たくさんの人と触れあって。
訪れた夏は新しい波乱も連れてきた――
♪
「リトと知り合いだったなんてびっくりなの……」
村のはずれからの道を広場に向かって、ふたりの少女が歩いていた。赤いくせっ毛と薄緑の竜のしっぽをはねさせるファナと、黒いツインテイルをひらひらさせるイオ。
ファナが暮らしている村はずれの家から、イオの家に向かうところだった。リトに挨拶したいと言うので連れて行ったが、家に着いてからリトが用事で出ていることを思い出した。
「泊まったこともあるんだから!」
「ファナは毎日お泊りだもん!」
ふふんと薄い胸を張るイオとファナ。十歳ちょっとのふたりは、背丈も発育具合もお揃いだった。それでか、今日初めて会ったときからやたらと対抗意識を燃やしている。
「あたしの方が先よ」「ファナの方がいっぱいだし」
やいやい盛り上がっていると、
「イオ、ちゃん」
道の先で女の子が手を振りながら声を上げた。用事で村を離れ、今日帰ってきたばかりのイオの出迎えに姿を見せなかった、イオの親友の少女だ。
「エルっ!」
イオは駆け出した。ツインテイルが羽のように揺れる。
♪♪
「エルっ、広場にいないし家にもいないし!」
イオとノエルは胸元で両手を握り合う。
「ごめんなさい、お兄ちゃんに頼まれごとがあって」
「リト兄から? そんなことのためにエルを束縛するなんてお説教ね!」
「あんまりお兄ちゃんをいじめないであげて……」
「だめよ。女の子の友情のじゃまをする男には天罰が下るのよっ」
「もう、またそんなこと言って。だめだよイオちゃん」
……なんて、リトのことで盛り上がる。そんなふたりをよそに、ファナはふたりがとても遠くに行ってしまったように感じた。ノエルとは親友といってもいいくらい仲が良かったし、イオともさっき会ったばかりで、むぅとなるところもあったけれど、歳が近いこともあって居心地はよかった。きっかけがあれば、きっと仲良くなれる――確信があった。
なのに、どうしてだろう――。
言葉が出たのは、つい気持ちが先だってしまったからだった。
「ノエルは、イオがいいの――?」
♪♪♪
「ファナ、ちゃん?」
驚きの顔を向けたノエルを見て、ファナは自身の失言に気がついた。
「ちが、そうじゃ――」
「あたしはエルの親友だしっ」
ファナの言葉にエルの言葉がかぶせられる。こちらも、ただの焦りがそうさせただけ。けれど、ノエルは同じ表情を今度はイオにも向けた。
「イオ?」
「え、あ、そのあたしは――」
「ふぁ、ファナも親友だしっ、ノエルのこと大好きだしっ」
「あ、あたしだって!」
気がつけばふたりはノエルに詰め寄っていた。
「エルはどっちが大切なの!?」
「ノエルはどっちが大切なの!?」
「わ、わたしは……」
「あたしだよね?」
「ファナだよね?」
さらに一歩ずつ詰め寄るふたり。三人の間はもう半歩もない。
「わたしは――」
少女は一度ぎゅっと目を閉じ、それから顔を上げてふたりをまっすぐに見て、
「そんなこと言うふたりはきらい――」
♪♪♪♪
藍色の髪をひるがえして、ノエルは駆け出した。小さくなっていく背中を、ファナもイオも追いかけることができなかった。
きらい――ノエルからそんな言葉を投げられるとは思ってもいなかった。その衝撃に言葉を返せず、足は動かず、ただ茫然と立ち尽くすだけ。
夏を彩るセミの声が、とてもとても遠くて。陽炎のように視界が揺らいだ。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
修羅場.
親友は何人いてもいいはずだし,
みんな個性があるのだから,いろんな分野の親友がいたっていいはず.
話し上手な親友に,モノづくりが得意な親友…….
得意分野を生かして互いに助け合えればいいのに.
自分は誰かにとってのその分野の一番であればいい,はずなのに,
総合的な一番を目指してしまう,というイメージでした.
それでは次回,
『124……悪友』
もうひとつのメイン,リトとシエル側の情勢は?――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




