どら×どら10……ふたりのじかん
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
……これは、ファナがまだ竜の村にいたときのお話。
♪
(ルルはファナのこと、どう思ってるんだろう)
たまに思う。
特にこうして、何をするでもなく、ふたりでぼんやりと空を眺めているときには。
幼馴染のレアとマグはお姉ちゃんたちの手伝いに行ってしまった。ファナたちも手伝うと言ったのだけど、人数が多すぎても効率がわるくなるからと断られた。仲間外れにされたみたいでちょっとむっとしたけれど、でも、こうしてルルといられるのならいいかなって思う。
でも――。
ひなたぼっこでもしようかと、屋根の上に上ったものの、次第に会話は減り、いまはお互いになにもしゃべらずに空を見上げているだけになった。ほんとに、いっしょにいるだけ。
でも――。
実はファナはこの時間が好きだ。なんとなく傍にいて、ひとりじゃなくて。
言葉はなくても、隣に座っているだけで、心が穏やかになる。不思議な時間が、好きだ。
♪♪
(ファナ、つまらないって思ってないかな。だいじょうぶかな)
たまに思う。
特にこうして、何をするでもなく、ぼんやりするファナを眺めているときには。
こんなふたりきりの時間は、あんまり話さないことも多い。ファナはどう思っているのだろう。つまらない子って思われたくないけど、でも――。
レアとマグはお手伝いに行ったから、ルルとファナのふたりきり。
話すのは得意じゃなくて、ファナのお話にもうまく相槌を打てなくて、ファナはずいぶん前から静かになってしまった。そうなると、ファナは空を見上げる。
わたしも空は好きだけど、それ以上にファナを眺めるのが好きだ。
隣に座っているだけで心がざわざわとする。ファナのしぐさや横顔を見ていると、どきどきして、なのにとても落ち着く。「ん?」とたまに視線に気づいてこっちを向いて。「なに?」と首を傾げるのがとてもかわいい。
うん。ファナは、かわいい。
♪♪♪
山のてっぺん、そこに立つ木造の建屋の三角屋根の上に、ふたりの少女が腰かけていた。
ひとりは赤い髪と緑の羽の女の子。
もうひとりは、黒い髪と紺色の羽の女の子。
半人分の間を空けて座っていたふたり。
「「あ――」」
と、ふいにふたりの手が触れた。ファナは伸びをしようと、ルルは自身の顔にかかる髪が気になって、それぞれが動かした手。一瞬だけ触れ合い、すぐに引っ込める。
視線が交わる。
「ファナ――」
先に口を開いたのは、黒髪の少女だった。
「手、つなぎたい……」
「手?」
「うん……、……だめ?」
「べ、べつにだめじゃない。うん、だめじゃない」
と、赤髪の少女は自身の手のひらを眺め、スカートの裾でくしくしとぬぐってから、ルルへと差し出した。
何度も握っているはずなのに――黒髪の少女は震える手でその手を取る。
♪♪♪♪
「ファナ――、ルル――、ふーたりともーっ」
少女の声が響く。ファナが屋根の端から顔を出すと、「まーた、そんなところで」と少女が手を腰に当てる。「降りてきなさい、お昼ごはんよ」と。
ふたりは屋根からぴょんと飛び降り、ふわりと着地する。
「屋根の上好きね。ふたりでどんな話してるの?」
少女の問いに、けれど、ファナとルルは顔を見合わせて、困った顔をした。
「あんまり話してない。座ってただけ」「……うん」
「いやいや、そんなことないでしょ。少しくらいしゃべったりするでしょ?」
「うーん」「……なにしてたんだろう」
ふたりは鏡合わせのように首を傾げた。
「ま、いいわ。仲がいいのは見ればわかるし」
少女はふたりの間を見て、いくわよーと歩き出した。
そんな少女に、ファナとルルは慌ててついていく。ふたりの間、手は握られたままで。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
過去編『どら×どら』,ファナとルルがメインのお話です.
リト相手だとよくしゃべり,甘えがちなファナも,
同い年の竜の子相手だと変わり,特にルル相手だと実はとても静かだったり.
言葉を交わさなくても傍にいるだけで安心する,そういう仲のふたりです.
それでは次回,
『121……親友1』
突然空から降ってきたあんたなんかよりよっぽどあたしの方が親友だし!――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.