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13……おるすばん

      ♪


 リトの背中が道の向こうに消えるのを見届けて、ファナは家の中へと戻った。

 ほんとなら一緒についていきたかったし、リトとなら机に並んで勉強してもいいと思った。実際、リトを追って一歩だけ足を出してしまった。

 でも、大人しくおるすばんと頼まれたから、ファナは踏みとどまった。子供じゃないんだから、ちゃんとるすばんできるんだから――玄関で、誰にでもなく胸を張った。


      ♪♪


 リトの家は小さい――物置みたいに静まり返った家の中を見回して、ファナは思った。

 ただそれはひどく主観的なものだ。ファナが以前に暮らしていた家屋が、寮と呼ばれる集団生活向けの建物だったため、相対的に小さいという感想に至ったのだった。

 竜の子たちとの賑やかな集団生活に慣れているから一人は苦手。

 だから、実はおるすばんは好きじゃない。

 早く帰ってくればいいのに――リトを見送った五分後、ファナはつぶやいた。


 こういうときは気を紛らわせることが大切だ。

 いい子におるすばんしているよりも、掃除とか水汲みとか、自分にできることをやる方が偉いのだと知っていた。偉いと、ご褒美がもらえる。きっとリトに頭を撫でてもらえる。

 そういうわけで、さっそく掃除に取り掛かろうとしたが、ほうきが見つからなかった。置いてありそうな階段下には、首の長いカメみたいなものが収まっていた。白くて、車輪のついた。

「……? へんなの」

 ファナは、ほうきを諦めて雑巾を探した。こちらは、洗面所のところに置いてあるのを知っていた。銀色のゾウの鼻みたいなものから水を出すやり方も見て覚えていた。

 しぼった雑巾を持って、まずは居間。リトと一緒に食べたご飯を思い出しながら、せっせせっせと床を拭く。きれいになると心もぴかぴかになって。ファナのしっぽと翼が左右に振れる。


      ♪♪♪


 居間、キッチン、玄関の廊下、リトの寝室と使ったことのある部屋をきれいにしたところで、

 ――リンリンリン

 そんな音が家に響いた。なんだろうと首を傾げる。

 すると人の声も聞こえてきた。――玄関からだ。「留守って話だっただろ」「いやそうですけど」「誰かが通りかかる前にさっさと終わらせるぞ」「はいはい」「はいは一回」「はーい」

「……はい?」

 耳のいいファナには、二人の男の会話が届いていた。一人は低くてちょっと怖い声、もう一人は頼りなさそうな若い声。寝室の窓から、直下の玄関を覗こうと思ったところで、

 カチャリ――と、玄関の鍵が開けられる音が大きく響いた。

(ど、どろぼう!?)

 ファナはその存在を知っていた。るす中の家に忍び込んで、大切なものを盗んでいく悪い人のことだ。ファナのお菓子をどろぼうする子がいて喧嘩になった記憶がよみがえる。

(り、りとぉ)

 お菓子どろぼうじゃないどろぼうは怖いと聞いていた。逃げたい。でも、思ったのは一瞬だった。リトのるすを守ると決意したのだ。雑巾をベッドの下に隠す。

 ――ぎしぎし

 足音は階段を上ってきた。やがて廊下を歩く音に変わり、寝室に近づいてくる。

(不意打ちしかないっ)

 ファナは急いで、かつ静かに布団に隠れた。頭からすっぽりかぶったちょうどすぐ後に、足音は部屋の中に入ってきて。そしてベッドの前で立ち止まる。

「ここか」

 低い方の男の声だ。弱そうな方ならよかったのに、思いながらこぶしを握り、

(いち、にの、さん!)


      ♪♪♪♪


「うあああ――――――」

 ベッドから跳び出した――のにシーツで足を滑らせた。頭から床につっこみそうになって目をつぶる。そんなファナをつかんだのは、他でもないその男だった。

 ファナは顔を上げた。リトの二倍(大げさな主観)はあろうかという大男だった。クマかゾウかと頭を混乱させながらも、怖い顔をした男に、

「か、帰れどろぼうっ」

 と声を上げる。男はファナの言葉に――きょとんと眼を丸くして、すぐに豪快に笑った。

「わるいなお嬢ちゃん。俺ぁどろぼうじゃねえ。マホウツカイだよ」

「マホウ、ツカイ?」

「おうさ。家具から穴の開いた屋根まで、なんでも直せる建物専門のマホウツカイさ」






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


少し間が空きましたが,最新話です.

リトが出かけて,1人留守番することになったファナ.

いろんな意味でじっと待ってない彼女でした.


それでは次回,

『14……お迎え』

やっぱり来ちゃった――というお話です.

よろしくお願いします.


感想ありがとうございます.

今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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