120……虹の橋
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。
学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。
そうして、初めての夏がやってきて――
♪
水面を舞う少女たちは、さながら妖精だった。
しぶきはきらきらと跳ね、フリルはふわりと花ひらく。
夏の日の川遊びは、子供たちにとっては日課だ。昼過ぎ――太陽が最も高く昇り、気温が上がる時間帯に、好んで川に飛び込む。この時期のにぎやかな声は村の風物詩のひとつだ。
「リートーっ」
元気いっぱいに右手としっぽを振るのは、赤毛の少女だ。十歳くらい――年相応、と言うには小柄で、女の子らしさも控え目な少女だ。
白と薄赤のセパレートタイプの水着。実際にはわずかに膨らんでいる胸元が、フリルですっかり覆われていることも幼く見える理由のひとつだろう。それでも、水着は赤い髪と合い、白い肌によく映える。可憐と表すには健康的すぎる感じはあるが、とても可愛らしい。元気が身体中から溢れ、見ているだけで元気をわけてもらえるような。
「はしゃぎすぎてけがするなよー」
十五歳でありながら、少女――ファナの保護者代わりである少年リトは、念のために付き添っていた。ファナはひとりで遊んでいるわけではないし、村の中央広場から近い場所で村の人たちの通りも少なくないので基本的には大丈夫なはずだ。なので、念のため。
とはいっても、ただ見ているだけはあまりにも退屈であり、そして今は昼過ぎだ。太陽も気温も最も高い時間。木蔭とはいえ、じっと座っているだけで大変だ。
「よし、いっちょ遊んでやるか」
と、リトはポケットからアメ玉をひとつ取り出して、奥歯で噛んだ。
♪♪
けがなんてしないし! リトはファナのことをいつも子ども扱いする。そりゃ、子供だし、やっぱり子供だけど……でも、けがにはちゃんと気をつけている。
リトはやさしいけど、ちょっと過保護すぎるところがある。ファナは子供だけど、リューなんだから、身体は丈夫だし、簡単にけがもしない。
ほんとリトっては、
「ふにゃっ――!?」
頭の後ろが急につめたくなって、思わず声が出る。
「ファナちゃん?」
「ふあっ、あ、だいじょうぶなのっ」
遊んでいたノエルは前にいるし、周りを見ても、ファナの頭に水をかけられるようなところに誰もいなかった。……気のせいかなあ?
気を取り直して――、
「ふみゅあぁ」
やっぱりまた――ていうか今度はわかったし!
「リトっ、そういういたずらするのは禁止なのっ」
♪♪♪
二回目でばれだ。さすがは竜の子供で、マリョクには敏感なようだ。前に、家で同じようなものを見せたこともあったから、覚えていたのかもしれない。
「すまんすまん」
ここまではいたずらで、ここからが本番だ。
頭の中でイメージして、形作る。
♪♪♪♪
またリトがなにかをたくらんでいる。マリョクがいっぱいになるのがわかった。
そうやってファナにいたずらを――――あわ? 目の前にはシャボン玉がぷかぷか浮かんでいた。それもたくさん。一個一個にマリョクがつまっている。
「えい」
つっついてみれば、ぱちん、とはじける。泡は、赤い色に光って、すぐに溶けた。
「ファナちゃん、うしろーっ」
ノエルの声がして振り返れば、そこにも泡が。同じようにやっつけたら、今度は黄色い光。
気がつけば、川のまわりにはたくさんの泡が浮かんでいた。ぷかぷかと、ふわふわと、手が届く高さに。まわりのみんなが、わいわいはしゃいで泡を追いかけている。
「ファナちゃん、これ、たくさんたくさん割るとすっごいきれいなんだよっ?」
ノエルが「ほらほら」と、ファナを泡がたくさんある方に引っ張っていく。ちょ、ちょっと急にひっぱら――ふにゃっ――ばしゃんと、水しぶき、むう、だから言ったの!
両手両ひざをついて顔を上げ、ふるふると顔を振る。痛くないけど、びっくりした――え?
景色が変わっていた。マリョクのカケラがきらきらと舞い上がる。赤、橙、黄、緑、青。
虹――割れた泡はいろとりどりの光になって、川を多い、空へ。
虹の橋が、澄み渡る青空に架かった。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
夏になると書きたくなる水遊びの話.
どうして小さな女の子の水着はああも魅力的なんでしょうか.
それでは次回,
『どら×どら10……ふたりのじかん』
ただ傍にいるだけで嬉しくなれる――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.