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106……夏の道草

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


「……ヒトって変わってるの。やっぱり変わってるの」

 夏の日差しをいっぱいにあびた緑はぐんぐん育ち、村はずれから広場に向かう小道は、ほんとうに道なのか疑いたくなるありさまだった。

 隣を歩く少女、そのお尻から伸びた竜のしっぽは上を向き、それが歩みに合わせて揺れる様子は、周囲の夏草が風に揺られるさまに似ている。

 彼女――ファナは癖のある赤毛を風にくすぐられながら、首を右に左に傾げていた。

「変わってるよね……道草を食べるなんて、そんなのリューだってやらないの」

 ことの発端は、何気なく使った一言だった。

 朝、学校に向かう道すがら、なにに興味を持ったのか、立ち止まってくさむらをじっと見つめるファナに、保護者たる少年リトが言ったのだった。

「あんまり道草食ってると遅刻するぞ」


      ♪♪


「道草ってこれのことだよね?」

 指さしたのは、すぐ隣の草むらだ。普段何気なく会話をしているけれど、ファナは一応、竜だ。リトに合わせて人の言葉を使っているが、たまにわからない言葉があったり、疑問に思うところがあるとこうやって訊ねてくる。

「そうだな。語源は、馬を歩かせてたら、その辺の草を食べるせいで一向に進まないっていうのらしいな」

「ウマさんからしたら、ごちそうなのかな?」

「そうかもな」

 それがおいしいかどうかなんて考えたこともなかったが。

 少なくとも、周りのこれらはあまりおいしくはなさそうだ。


      ♪♪♪


 うーん、とファナは歩きながらもまだ首をひねっていた。

「道草……みちくさ。うーん、飛んでる竜がまっすぐ飛ばないで、雲を食べるのとおんなじ?」

「雲、食べれるのか?」

「わたがしに似てるけど、おいしくないの。お水なの。あと、ぼふってなったら顔がぬれちゃうし……」

「雲だしな」

「あんなにふわふわしてるのに、うそつきなの……」

 ファナの言葉に、夏の入道雲を探そうと空を見上げたが、雲一つない快晴であることを思い出す。混じりけのない澄んだ青色を見れば、心の中まですっきりきれいになりそうだった。

「それを言ったら、雪もそうだよな」

「リト。雪はさくさくしてて真っ白でおいしそうだけど、あまくないよ?」

「……食べたのか?」

「っ……た、食べてないし。空から降ってきたのを、こう、あーんってしただけだし」

 むぅと頬を膨らませる。

「道雪食べるようなリューじゃないし」

「そうだな、えらい子だもんな。ファナファナ」

「むーっ、ファナファナじゃないのっ、ファナなのっ!」

 両腕としっぽをぴんと立てて、口をとがらせる。

「おう、わるかったわるかった」

 ぽんぽんと髪をなでると、ファナは、

「そうやって頭なでたら許すとでも思ったらおおまちがいなの。わたがしよりあまいの!」

 と、ほとんど緩んだ表情で言うのだった。


      ♪♪♪♪


「っ――クロロくんなのっ」

 学校への道半ば、広場に出たところでファナが駆けだした。その先には、大きくて真っ黒な犬。飼い主のおばあさんと一緒に散歩のようだ。

「おはよう、クロロくん♪」

 ぺしゃっとしゃがんで、頭をなでる。クロロくんはすぐさまファナの顔をなめ返し、ファナのくすぐったいのっという声が明るく響く。

「おはようございます」

「おはよう。いい天気ねえ」

「そうですね。絶好の散歩日和です」

 本来すべきは散歩ではなく登校だけれど。

 あたたかな日差しの下、きゃっきゃと笑うファナと嬉しそうにしっぽを振るクロロくんを見ていたら、道草もわるくないなといつものように思うリトだった。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


普段通りの道も、ふと見上げてみたり見回してみたりすると、

見逃していたものに気がつくときがあります。

花だったり、家だったり、天井の装飾だったり……。

もし時間に余裕があれば、ふと立ち止まるのもいいことだと思います。

お腹を壊さない程度なら。


それでは次回,

『107……お迎えなのっ』

お迎えってあったかいね♪――というお話です.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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