表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/150

102……よとぎ?

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


「リトっ、リトっ」

 夜――風呂を片づけて二階の寝室に戻ったリトを出迎えたのは、飼い主を呼ぶ犬――あらため竜の少女の声だった。

 自分のベッドからぴょんと降り立ったのは、リトの肩ほどまでしかない小柄な少女だ。だいたい十歳くらいだろう。訳あってこの家で暮らすようになって数か月立つが、歳を聞いたことはなかった。

 少女――ファナが見上げてくる瞳は、笑顔と同じお日様のように明るい色をしている。赤い癖っ毛は、まだわずかにしっとりとしているからか普段より大人しい。その一方で、お尻、若草色のワンピース風の寝間着の裾から伸びたしっぽは、ぱたぱたとやんちゃで。背中にある一対の竜の羽が動けば、リトの火照った顔を優しい風がなでる。

「どうした?」

 この、なにか楽しみがあるときの仕草に、リトは頬をかきつつ訊ねれば、

「えへへ♪ 今日はリトとよとぎするの!」

 よとぎ、ヨトギ……夜伽。

「…………お、おう」


      ♪♪


 夜伽。好意的に解釈するなら、風邪をひいたリトをファナが寝ずで介抱するというものだが、この場合はそういう意味ではないだろう。なぜならリトは至って健康だからだ。

「難しい言葉知ってるんだな。だれが教えてくれたんだ?」

「レイミちゃんなの! ひとつ屋根の下で暮らす者はみんなよとぎをしているのじゃーって言ってたよ? ファナとリトは、ひとつ屋根の下で暮らしてるんだよね?」

 あってる? 子犬のように首を傾げる。竜だけど。

「それはあってるな。うん。それで、夜伽って具体的になにするかも教えてくれたか?」

「うん。レイミちゃんは先生だもん。いっぱい教えてくれたの!」

「……。いっぱい……」

 このまま倒れて、健全な夜伽にした方がいいんじゃないだろうか。

 そんな弱い心に負けず、リトが訊くと、

「ぎゅーってされたり、頭なでられたりして、ほわーって幸せになるんだって!」

 なるほど。見事なまでの中略だった。重要なところがぽっかりと空いている。

「ちなみに、今の季節知ってるか?」

「ふえ? 夏だよ?」

「掛布団も使わない季節に、ぎゅーってしたらどうなるか知ってるよな?」

「お布団にくるまれるみたいにぽかぽかでうれしくなるの♪」


      ♪♪♪


「えへへ、ぽかぽか」

 結果は身を持って知ればいいだろうと、ひとまず望みを叶えることにした。ベッドに横になると、ファナはリトの胸に顔を当てて丸くなった。きゅっと服を握ってくるところは相変わらずだ。

「ねえねえリト。……リトって、ファナ以外とよとぎしたことあるの?」

「……それは誰からの質問だ?」

「レイミちゃ――……ファナなのっ、ファナからの質問なのっ」

 ファナとも夜伽をしたことはないぞと答えたいが、そういうわけにもいかず。

「んー、ないな」

「そうなの? リトとシエルお姉ちゃんは仲良しさんなんだよね? しないの?」

「仲良しさんだからってするとは限らないんじゃないか?」

「でも、……ファナはリューだからよくわからないけど。子供つくるわけじゃないけど、そういうことすることもあるんだよね? ヒトって不思議なの」

「……」

 ちょっとまて。

「ファナ。夜伽ってどういうことするか知ってるのか?」

「子作りだよね? ヒトは同じことにいろんな言葉使うからおもしろいね♪」

 意味、知らないと思ったでしょ、大成功なの。とファナはご機嫌に微笑んで、おやすみと目をつむった。


      ♪♪♪♪


「……あ、暑いの。夏のぎゅーは短い時間でがまんしなくちゃなの……」

 小さな寝息が聞こえ始めたと思ったら、ファナはすぐに目を覚ました。そりゃそうだろう。

 と、ファナが服をまたきゅっと握ってきた。どうかしたかと訊ねれば、

「お、おといれ行くの忘れてた……。下、まっくらなの……」






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


お正月に友人らと姫初めうんぬんの議論をしたところから、

ネタをひっぱってきて夜伽のお話.

いつも通り……と見せかけて,ファナはちょっとだけ大人でしたという話です.

こういう話は個人的に好きなんですが,恋人でないリトとファナがこういう話をしすぎると

違和感ばかりが出てしまうので,ほどほどに.

あくまでリトとファナ,親子とか兄妹に近い関係です.

あとファナは竜なので,交尾とかは人間と概念が違いそう.

ふつーにみんなすることじゃないの?(竜は本能で生きるのです!)


それでは次回,

『103……村長のおしごと』

お仕事ばっかりいやなのじゃーっ!――というお話です.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ