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10……こ、怖くないしっ

      ♪


「飯作っとくから、顔洗ってこいよ」

 リトが言った。

「リューは顔洗わなくても平気だもん」

 ファナがすぐに答えた。背中で、誇らしげに翼がぱたぱたと動く。

「竜でも竜じゃなくても、人の姿してるんだから洗うもんなんじゃないか? すっきりするし、目も覚めるぞ?」

 リトはさらに言ったが、

「平気だもん」

 ファナはぷいと顔をそらした。そんなファナの様子にリトは首を傾げたが、ふと気づいた。

「もしかしてお前、水が怖いの?」

「っ――」

 ファナのしっぽがぴくりと跳ねた。リトがしゃがむと、目を合わせないように避ける。

 ファナは、その行動がリトの疑問の肯定であることに気づいているのかいないのか。

 もっとも、ファナが水嫌いなのは、単に子供だからというだけではない。

 竜などの大きなマリョクを持つ生き物は、逆にマリョクの影響を受けてしまうと言われている。火山で暮らす竜は炎に強くてマグマでも燃えず、水竜は水に浸かることで身体を癒す。

 以前、ファナは炎を吐いた。見かけで十歳くらいの少女にマホウが使えるとは思えない。

 つまり、彼女の炎は、竜である彼女が生まれつき持っているマリョクということになる。それなら、水が苦手なのもごく自然なことだ。

 けれど、リトは優しくはない。リトは努力によって苦手を克服するタイプの人間だった。

「怖いんだな?」

「……こ、怖くないけど。めんどくさいし」

「わかった。行くぞ」

 そうしてリトはファナの手を握る。ファナはリトに手のひらを預け、大人しく従った。


      ♪♪


 洗面所で蛇口をひねり、風呂桶に水を溜める。地下水を汲み上げているだけあって、透明で冷たい。夏ということもあり、見ているだけで気持ちよくなる。

 けれど、鏡に映ったファナの顔は、この世の終わりを間近にしたもの。

 もっと言えば、ピーマンを前にした子供の顔だった。体質的に水を受け入れられないのはわかるが、だからといって甘やかすわけにもいかなかった。

「ほら」

「……やだ。リトが先にやって」

 リトは言われた通りに桶に顔をつけ、ばしゃばしゃと洗う。服が濡れないようにタオルで拭って、もう一度桶に水を入れ直す。一歩下がると、ファナが弱りきった目で見上げた。

「……ほ、ほんとにやるの?」

「やるんだろ?」

「で、でも今日はまだまだ長いよ? こんなところで頑張ったら疲れちゃうよ?」

「いいぞ、ベッドで休んでくれて」

「……」

「……」

「…………ぅぅ」

 ファナが唸り、おずおずと左手を差し出した。小さく口を開き、

「握っててくれたら頑張れる……と思う」

 大真面目な顔で言うファナに、リトは小さく笑って、ぎゅっと手を握った。


      ♪♪♪


 ばしゃばしゃ、ばしゃばしゃばしゃ……。

「ほ、ほら見たでしょ! ちゃんとできるんだから! ファナは顔くらい洗えるもん」

 前髪やら両手やらから、ぽたぽたと水滴を垂らしながら胸を張る。しっぽと翼がふるふると震えているが、それらは見なかったことにした。

「おう、ちゃんと見てたぞ。偉いな」

 リトは頷き、顔をわしゃわしゃとタオルで拭った。水滴を拭き取ってから、髪も撫でる。

「こ、子ども扱いしてるっ」

 ファナは口をとがらせつつも、顔はどこか誇らしげで、頬はほんのりと染まっていた。


      ♪♪♪♪


「リトリト」

「どうしたファナファナ」

「むぅ……。ファナ、明日はちゃんと一人で顔洗うんだからね」

「……おう。期待してるぞ」






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


川遊びが恋しい季節になってきました.(現実でも)

ファナたちが遊べるのは果たしていつになることやら…….


それでは次回,

『11……ファナのお手伝い』

一方的なのは好きじゃない――というお話です.

よろしくお願いします.


お気に入り登録,評価,レビューありがとうございます.

非常に励みになっています!


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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