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1……ある日、空から

挿絵(By みてみん)


      ♪


 セカイの隅っこ。大陸の最果てに、一本の大樹がそびえている。

 ハテノキ――そう呼ばれる古樹は、深みのある濃茶の幹を天に伸ばし、緑葉の傘を踊るように広げていた。

 季節は夏。春に芽吹いた若葉は成長し、幼さを残しながらも、しなやかな緑葉へと姿を変えていた。風に揺れる幾万もの木の葉の声は、鼓動のように低く大きく力強い。

 そんな大樹がある丘のふもとに、一つの小さな村があった。

 ハテノキ村。

 周囲を山に囲まれたその村は、これといった名所があるでもなく、社会から隠れるようにしてひっそりと静かな時間を歩いていた。

 その村の上空を一つの小さな命が飛んでいた。丸く開けた山地の中に濃い緑がぽつんと見える。おっきな樹――彼女はそう思いながら飛んでいた。

 そのとき――いたずらのように吹いた風が翼をくすぐり、小さな身体を花びらのようにくるくると舞い踊らせた。そして――。


      ♪♪


 一人の少年がカナヅチを置いて、タオルで顔を拭った。

 村はずれの一軒家。その屋根の上に少年がいた。

 木柱を壁に露出させた伝統的な建築様式の家。白い壁と茶色い柱が織りなす模様と赤い屋根を持つ家は、おとぎ話に出てきそうな可愛らしさだ。少年は屋根の上に腰を下ろし、メルヘンとはほど遠い作業をこなしているところだった。

「あつ……」

 夏の日差しに加えて、屋根がお尻を焼いてくる。屋根の照り返しもまぶしい。ときおり吹く風だけが癒しだったが、山間地ということもあり、いたずらな強い風が吹くから注意が要る。

「なんで雨漏りなんて」

 ぶつくさと声を漏らすが、理由は簡単――屋根に穴が空いたからだ。この前打ち上げた花火が不発で、家の屋根にぶち当たったのだった。

「迷わずに燃やせばよかった」

 少年はため息をついて、小道の先にある村を眺める。人の姿は小さく、ミニチュアみたいにちょこちょこ動いて面白い。

 そういう意味ではこの家はとても良いのだが、なにせぼろい。しかも住んでいるのが自分一人だから、手入れも修繕もすべて自力だ。人に頼むお金なんて使いたくないし、村の知り合いに手伝ってもらうほどの作業でもない。

 だから少年は、夏の真っ昼間から屋根に上って、せっせと雨漏りを直していたのだ。

「せっかくの休日を」

 用事さえなければ、本を読み進め、出てきたマホウを実際に試そうと思っていたのだ。それにマホウジンの改良もやりたい。一日あれば十分にできただろうに。

 花火を打ち上げて、マホウで空中点火する遊びなんてしなければよかった。でも、飛んでいる対象に着火マホウを使ってみたいという気持ちが強かったのだから仕方ない。マホウツカイなんて好奇心だけで生きているような人間なのだ。

「雨漏りが直るマホウとかないのかねー」

 つぶやいた後、「やるか」と立ち上がる。タオルを肩にかけ直し、カナヅチと釘を手にする。

「よし」

 もう一息だ。深呼吸をして空を見上げた、そのとき――。


      ♪♪♪


 雲一つない青空をなにかが飛んでいる。少年は目を凝らした。黒い点、鳥――か。

 その影が大きくなる。長細くて、大きい。鳥じゃない。

「は?」

 間の抜けた声が出たのも当然。その影――人影――は、まさにこの家へと墜ちてきていた。

「ちょ、待てっ」

 カナヅチを捨て、腰につけたポシェットからアメダマを取り出す。口に放り込むと一瞬で溶けて消える。そのときには少年は空中に向かって右手をふるっていた。円を描き、その中にさらに記号を描き込む。マホウジンが薄緑色に発光する。

 人影が目前に迫り――少年の少し上でふわりと静止。そこに水面があるかのように浮かんだ。

「ったく、なにが墜ちて――――え」


      ♪♪♪♪


 少年はお姫様抱っこする。腕の中にいるのは年端もいかない女の子だった。赤くて短い癖っ毛、あどけない寝顔。折れてしまいそうな成長途中の身体に、シンプルな桃色ワンピース。

 しかし、その少女は人間ではなく。

 額に角、背中に翼、おしりからは深緑のしっぽを生やした――(ドラゴン)の少女だった。





最後までお読みいただきありがとうございます.


初めての方,はじめまして.

他の話からやってきた方,お久しぶりです.


この話は簡単に言うなら,

「竜の女の子が人間の男の子と日常する話」

です.

今後もおつきあいいただけたら,なんとなくわかるかと思います.


日常が好きです.

ご飯食べるとか,朝起こしたり起こされたり,たまには喧嘩して.

そういった「日常の小話をたくさん書きたい」という思いからスタートしたのが『どら×ひび』です。

せっかくなので,マホウとかドラゴンとかも詰め込みました.

戦闘とかはないはずです.


竜の女の子と仲良くなってお互いに気持ちを伝えたら,

竜のお母さんが娘を取り返そうと村を襲ってきて,

「私の娘を返せ」

「違うよお母さん,あたしはあたしの意思でこの村に」

「娘をたぶらかした男は誰!?」

そして少女に迫る決断のとき.

竜として生き方を選ぶのか,主人公との日々を選ぶのか.

……みたいな展開にはならないはずです.

パラレルストーリーでそんなのも書いちゃうかもしれませんが,

本編は,至ってのんびりまったりです.



次回,

『2……翼なき竜』

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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