<3>
「校内探検?」
クラスの担任になった先生の話が終わり、解散という号令をかけられると皆がざわつきながら教室を出て行く。
鞄に配られたプリント類を入れていた茜は突然の菊乃の言葉に小首をかしげた。
菊乃と遼平、そして茜は一年三組である。思わず遼平はと視線を巡らせると、友達と談笑している姿が視界に映った。
「そう。この学校広いでしょ? 今のうちにさ!!」
なにが今のうちなのかはわからないが、ぐっと拳を握る菊乃の手にはすでに学内案内図の紙が握られていた。それは配られたプリントの中にあったものである。
これから過ごしていく学校の中を知っておくのは後々楽だと思い、茜は頷いた。
「うわぁ。こうやって見ると結構広いねぇ」
案内図を広げ、菊乃が感歎の声を上げる。
茜ら一年生の教室は四階建ての南校舎の三階に位置する場所である。学年を上がっていくにつれ下の階に下がっていくというシステムだ。
地図によると南校舎はすべて職員室と保健室以外ほぼ教室で埋め尽くされている。その反対側にある北校舎は実験室などの部屋がすべてで、全室冷暖房完備。もちろん茜らの一日の大半を過ごす教室もである。
惜しむことなくかけられたお金の総額を聞けば、誰もが目を覆うだろう。どこからそんなお金だ出たのだと。
――けれど、学校にある施設はそれだけではない。
広々とした体育館はもちろん、水泳部のための温室プール。土地を最大限に使った運動場ではそれぞれの部活が思う存分練習できるようにとの設備が施され、それ以外の文系部のための施設も惜しみなく用意されていた。
「どれから行くの?」
「まずは一階からでしょ! 屋上は鍵開いてるのかな? 開いてたら屋上も行ってみたくない?」
廊下を見渡せば、案内図を手に持った新入生たちがいた。中には驚いて目を丸くしている者もいる。
それらを横目に茜と菊乃は意気揚々と階段を駆け下りた。
一階から順に周っていくと二人はその設備の凄さに唖然とした。特に――茜としては一番凄かったのが図書室である。
広い空間には何百冊との本が並び、ライトノベルから専門的な、まず普通の生徒なら読まないであろう本まで揃えられ、新書と書かれたコーナーにはその日発売日だった本まで並べられている。わざわ町に出て買いに行かずともここで借りられるのだ。
きっちりと分類別された本たちは探しやすく、読みたい本を物色しているといつの間にか数時間は経ってしまいそうだった。
「ごめん、あたし先生に呼ばれてて」
「わかった。私はもう少し見て回ってから帰るね」
一通り回ったあと、職員室に寄るという彼女に手を振って茜は菊乃と別れた。
どこに行こうかと考えながら廊下を突き進み、渡り廊下へと出る。すぐそこにはくつろげるベンチとテーブルの置かれた中庭があった。
上履きのまま中庭に踏み入って、茜は息を吐く。
風が吹くたびに揺れる桜はどれも満開で、新入生を歓迎するように鮮やかに咲き誇っている。茜はそれから視線をそらし、ふと奥を見て小首をかしげた。
「……森?」
中庭の奥に、森がある。けれどそれはどこか不自然であった。
森に囲まれているのだから当たり前のことかもしれないが、茜にはその森が何かを拒絶しているようにも思えた。
桜の木を横切って生い茂る木に近づく。
「あれ、でもこれって……」
よく見てみると、木々の間から奥が透けて見えた。
茜は背後に視線をやり、誰もいないことを確認して森へと足を踏み入れる。さわさわと揺れる葉を手でどかしながら少し進むと突然視界が開け、茜はあたりを目を瞬いてあたりを見渡す。
真正面には赤い鳥居が佇み、その前には石造りの階段がある。さらにはこの空間の周りには鎮守の森を彷彿とさせる森が存在していた。
「なに? ここ」
茜はあたりを見回して石階段を上る。
――そして、前方に小さな棚のようなものが置かれているのを発見した。
木で作られたそれは扉が閉まっており、どこか人を近づかせない雰囲気をかもし出している。
そろりと近づいて手を伸ばす。
その刹那。
「……っ!?」
何の前触れもなく扉が開いた。
とっさに後退した茜は中を見て目を見張る。
――その中には、古い鍵が置かれていた。