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千年華  作者: みづき
一章 目覚めの刻
2/11

<1>

 暖かな日差しがカーテン越しに差し込み、少女はわずかに身じろいだ。

 午前七時十分。

 ベッドの傍らに置いてある、セットした目覚まし時計が無愛想に時間を告げる。

「ん……」

 電子音が数回鳴り響くと、少女はもぞもぞと腕を出して目覚まし時計を止めた。

 普通、慣れない部屋での起床は普通楽なものだ。いつもとは違う布団では寝つけず、朝早く起きてしまうのが一般的だろう。

 しかし、少女は違うらしい。

 覚醒しきっていない頭を軽く振り、ぼんやりとした瞳であたりを見渡すと、白い天井が目に入る。それを見てわずかに首をかしげた。

 見慣れた木目調の温かみをおびた天井ではない。そして今自分の寝ているベッドも、いつもは畳に敷いた布団だったはずだ。

 ここはどこだ――と少女が思ったのと同時にここ一週間ほどの記憶がよみがる。

 それにちいさく息を吐いて、少女――楠木茜くすのきあかねはベッドから抜け出し洗面所へ向かう。顔を洗い、ふと顔をあげるとそこにはまだ覚醒しきっていないぼんやりとした自分が映っていた。

 伸ばされた黒髪に、ごく普通の平凡な顔立ち。しかしそれは、どこか不安げな表情をしている。

 茜は鏡から視線を逸らし、着ていたパジャマを脱いで備え付けの洗濯機の中に落とし、制服であるセーラー服に腕を通した。

 まだ数回ほどした着たことのないこの制服は、村唯一の公立高校のものである。胸元には自然をイメージした校章がプリントされており、全体的に落ち着きのある雰囲気の制服だ。

 真新しい鞄を持ってリビングへと足を踏み入れる。

 少しは慣れたかと思ったが、がらりとしたリビングは広く、どこか寂しさを感じさせた。そこに、ついこの間まで暮らしていた家のリビングを重ね合わせ、茜は瞳を伏せる。

 脳裏にちらつく影を追い払い、壁に取り付けてある時計をあおぐと登校時間にはまだ早い。

 どうしようかと思い茜は視線を動かすと、壁にかけてあるカレンダーを視界に映った。

 桜の描かれた可愛らしいカレンダーは四月を示している。

 全国的に桜が咲き誇り、そして期待に胸を弾ませ真新しい制服に身を包んで学校の校門をくぐる日――今日は入学式なのである。

 少しの不安を抱えたまま、茜は今日を迎えた。

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