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理由のない挺身


 転職用ダンジョン《灰晶洞》は、セーフティゾーンから少し離れた場所にあった。

 最低三人以上でなければ入場できない特殊仕様。

 そのせいで、入口付近には人だかりができている。

 ユキは、その端に立っていた。

 モユルの隣で。

「……人、多いね」

 小さく呟くと、モユルがすぐに頷く。

「仕方ないな。ここ、人気だし」

「無理しなくていい。嫌なら時間ずらそう」

 相変わらず優しい。

 距離も適切。

 視線も穏やか。

(……この人、ほんと安心する……)

 ここに来てから、ずっと神経を張り詰めている。

 男たちの視線。

 囁き。

 値踏み。

 それらから、モユルは自然に庇ってくれていた。

 盾みたいに。

 そんなときだった。

「……あ」

 モユルの視線が、ふと入口の方へ向く。

 ユキもつられて見る。

 そこにいたのは――

 背の高い青年だった。

 黒に近い髪。

 すっきりした輪郭。

 清潔感のある服装。

 派手さはない。

 でも、整っている。

 というか、普通にイケメン。

 しかも。

 雰囲気が、やけに落ち着いていた。

 この場のざわついた空気と、明らかに違う。

「……あの人」

 モユルが小さく言う。

「ナカジマだ」

「サーバー古参。戦力も高い」

「……人当たりいいって評判」

 そう言われた直後だった。

 ユキが視線を向けた、その瞬間。

 ――すでに。

 向こうが、こちらを見ていた。

 偶然、目が合った、という感じじゃない。

 最初から、ここにいることを知っていたみたいに。

 一瞬。

 視線が、絡む。

 ユキの背中に、ぞわっと寒気が走った。

(……なに……今の……)

 穏やか。

 柔らかい。

 敵意もない。

 なのに。

 “確認された”感覚だけが残る。

 ナカジマは、ゆっくり歩いてくる。

「……こんにちは」

 声は低くて、落ち着いていた。

「パーティ、探してますか?」

 モユルが即答する。

「ええ。三人必要で」

「そうですか」

 軽く頷く。

「……よければ、自分も参加していいですか?」

 丁寧。

 近すぎない距離。

 礼儀正しい態度。

 完璧な“好青年”。

 ユキは、少し安心しかけた。

 ――その直後だった。

「うわっ!」

「敵、湧いた!」

 入口付近で、叫び声。

 モンスターが、突如出現する。

 人混みが、一斉に乱れた。

「ユキ!」

 モユルが叫ぶ。

 だが、遅かった。

 押された拍子に、ユキの足がもつれる。

「――っ!」

 転びかけた瞬間。

 背後から、低い唸り声。

 振り向いた時には、もう遅い。

 モンスターの影。

 ――避けられない。

 そう思った瞬間。

 視界が、遮られた。

 硬い音。

 鈍い衝撃。

 盾が、滑り込んできていた。

 ナカジマだった。

 一歩、前に出て。

 迷いなく。

 寸分のズレもなく。

 まるで――

 この位置に来ることを、最初から計算していたみたいに。

 攻撃を受け止める。

 体が揺れる。

 それでも、下がらない。

 足の位置を、わずかにずらす。

 ユキの逃げ道を、完全に塞ぐ形。

 “守るための立ち位置”。

 慣れすぎている。

 もう一撃。

 肩をかすめる。

 血が滲む。

 それでも、ナカジマは見もしない。

 視線は、前だけ。

 ユキの方を、一度も振り返らない。

 まるで――

 「そこにいる」と、最初から分かっていた前提で

 動いているみたいだった。

 モンスターが消える。

 静けさ。

「……下がってください」

 低く、落ち着いた声。

 事務的。

 淡々。

 ユキは、動けなかった。

(……なに、今の……)

 怖い。

 優しいからじゃない。

 迷いが、なさすぎる。

 初対面の人間を守る動きじゃない。

 ――知っている人間でも守るかのような。

「……大丈夫ですか?」

 ナカジマは、すぐユキを見る。

 息は荒い。

 汗も滲んでいる。

 それでも、目だけは異様に落ち着いている。

「……け、怪我……」

「ありません」

 即答。

 腕から血が垂れているのに。

「……なんで……」

 ユキは、思わず聞いていた。

「なんで、そこまで……?」

 一瞬。

 ほんの一瞬だけ。

 ナカジマの視線が、揺れた。

「……近くにいたので」

 平坦な声。

 視線を逸らす。

(……嘘……)

 直感で分かる。

 これは嘘だ。

 しかも、慣れた嘘。

 モユルが険しい顔で言う。

「無茶しすぎだ」

「初対面だろ」

「……すみません」

 頭を下げる。

 でも。

 後悔していない。

 むしろ――当然。

 そう言いたげだった。

(……この人……怖い……)

 距離感が、おかしい。

 理由を言わない守り方。

 慣れた献身。

 全部、不気味。

「……今日は、無理しないで」

 ユキが言う。

 ナカジマは一瞬驚き、柔らかく笑った。

「……ありがとうございます」

 完璧な笑顔。

 作り物みたいに。

 だから、ぞっとした。


夜になると、全員に個別のシェルターが割り当てられた。

 半透明の壁。外の音は、ほとんど遮断される。

 内部干渉不可。侵入不可。攻撃不可。

 完全な、安全領域。

 ユキは、自分の部屋に入った瞬間、力が抜けた。

「……はぁ……」

 ようやく、息ができる。

ユキは今日の出来事を振り返った。

 モユルは安心。

 agjtmは気持ち悪い。

 ナカジマは――

(……わからない)

 理由のない優しさ。理由を言わない守り方。

 それが、一番怖い。

 なのに。

 思い出すと、胸が少しだけ温かくなる。

(……やだな……)

 そう思いながら。

 ユキは、目を閉じた。

 この時点では、まだ知らない。

 あの男が。最初から、すべてを知っていたことを。

 そして。

 最初から、手放す気などなかったことを。

ちゃんと全部まで貼れてなかったんで、改稿しました。

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