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異世界で、女はわたしだけ

愛されすぎて人格が崩壊しました-TS異世界で執着依存地獄に溺れていく-のIFルート話です。

本編読まなくても、分かると思います。

モユルが男になってます。

その時の私は、まだ知らなかった。

この世界で――

「女が一人だけ」だという意味を。

それが、どれほど残酷で。

どれほど、逃げ場のないものなのかを。

――この時は、まだ。


―――――――

「……はぁ……っ、はぁ……っ……」

喉が焼ける。

息が続かない。

脚はとうに限界を超えていた。

感覚が薄れ、地面を踏んでいるのかさえ分からない。

それでも、止まれなかった。

止まった瞬間、終わる。

「逃げないでよ」

背後から聞こえる声は、やけに穏やかだった。

焦りも、苛立ちもない。

まるで、この状況そのものを楽しんでいるみたいに。

ぞくり、と背中が粟立つ。

振り返らなくても分かる。

あの目だ。

獲物が弱っていくのを眺める、捕食者の目。

「……っ……」

視界が揺れた。

次の瞬間、足がもつれる。

――転ぶ。

硬い地面に叩きつけられ、息が詰まる。

膝に、鋭い痛み。

白い肌に、赤い血が滲んだ。

ぽたり。

ぽたり。

「……つかまえた」

低い声。

影が覆いかぶさる。

男は、歪んだ笑みを浮かべていた。

ゆっくりと、手が伸びてくる。

(……こんな世界……)

(……来たくなかったのに)

(……なんで……こんなことに……)

視界が、白く染まった。


―――――

いつものように、ユキはベッドの上でスマホを開いた。

起動するのは、決まってこのアプリ。

《Eternal Frontier Online》

サービス開始から三年。

ログインだけは、一日も欠かしたことがない。

ごく普通の女子大生の、

ただの暇つぶしだったはずの場所。

……なのに。

今日は、様子が違った。

いつものサーバーに接続できない。

代わりに、画面に浮かんだのは――

《アナハタンサーバーに接続しますか?》

YES / NO

「……なに、これ」

新サーバー?

イベント?

首を傾げながらも、指は止まらなかった。

「……まあ、いっか」

軽く、タップ。

YES。

――その瞬間。

世界が、壊れた。


―――――

目を開けると、そこは見覚えのある風景だった。

石畳。 噴水。 白い塔。 王都中央のセーフティポイント。

《Eternal Frontier Online》で、何百回も立った場所。

「……え?」

ユキは、呆然と周囲を見回した。

夢じゃない。 ぼやけてもいない。 質感が、異様にリアルすぎる。

指先を見る。 ちゃんと、自分の手だ。

頬をつねる。

「……いっ」

痛い。

「……どういうこと……?」

混乱している間にも、周囲に人影が増えていく。

一人。 また一人。

次々と、プレイヤーたちが現れる。

しかも――

全員、現実の姿のまま。

装備だけは、ゲーム内のまま。 鎧。 マント。 武器。

なのに、顔も体も、生身。

「なにここ……」 「え、現実の体じゃね?」 「スマホないんだけど……?」

ざわめきが広がる。

その中で、ユキは気づいた。

――視線。

やたら、集まっている。

男たちの目が。 一斉に。 遠慮なく。

(……え……?)

遅れて理解する。

ここにいる中で。

女は――自分だけだ。

(……最悪……)

無意識に、腕を抱いた。

そんなときだった。

空気が、ふっと揺れた。

頭上。

何もない空間に、光のウィンドウが浮かび上がる。

機械的な文字。

《このたびは、新サーバーβ版体験にご参加いただきありがとうございます》

《皆様を、アナハタンサーバーへご招待いたしました》

《本環境は、皆様の実身体を転送した特別実験領域です》

《現実世界への自動帰還機能は存在しません》

《装備・スキル・インベントリは引き継がれています》

《体験期間は30日間です》

《期間終了後、帰還可否は未定となります》

《それでは、良い体験を》

「……は?」

誰かが、間の抜けた声を出した。

「え、ちょ……?」 「帰還未定って……?」 「は?どういう意味?」

笑う者もいた。

「ドッキリだろ」 「βだし、大丈夫だって」

でも。

ユキは、笑えなかった。

《自動帰還機能は存在しません》

《帰還可否は未定》

その二行が、頭に張り付く。

(……帰れない……かも……?)

胸の奥が、じわっと冷える。

ポケットを探す。

ない。 スマホがない。

通信もない。 電波もない。

(……嘘でしょ……)

ここは、ゲームじゃない。

逃げられない場所だ。

閉じた世界。

ユキは、無意識に後ずさった。

男たちの視線が、さらに強くなる。

興味。 欲望。 期待。 好奇心。

全部、混ざった目。

(……やばい……)

この世界で。

女は、自分だけ。

その事実が。

今さら、重くのしかかってきた。

――こうして。

ユキの“実験生活”は、始まった。

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