表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/50

エピローグ

「暖かい陽の光が降り注ぎ、桜の蕾も膨らみ始め、春の訪れを感じる今日、私たちは卒業の日を迎えました」


 壇上で藤原が、卒業生を代表して答辞を述べている。目を潤ませる者がいる。すでに大泣きしている者もいる。駆けつけた多くの親たちも、感激で目頭を押さえている。

 そんな中でこの手の式典を大の苦手としている良樹は、生まれて初めてキチンとした態度で卒業式に臨んでいた。

 そんな良樹の横顔をチラリと見やった志保は、嬉しそうな笑みを浮かべ、壇上の藤原へと視線を戻した。



「川島。真面目な顔して卒業式に出てたね。初めてなんじゃない?」


 卒業式を終えた後の教室。いつもの調子で美咲が軽口を叩く。


「まあな。俺はさ、生まれ変わったんだよ」

「そお? アタシには全然変わってないように見えるけどね」

「うっせぇなぁ。俺が自分で変わったと思ってるんだから、それでいいんだよ」

「よしくんは中学校の3年間、どうだった? 楽しかった?」

「そうだなぁ……楽しかったことも苦しかったことも、いっぱいあったな」

「苦しかったことは、自分が原因だったんじゃん」

「わかってるから、もう言うなよ。そういう志保はどうだったんだ?」

「私? 私は、うーん……私もよしくんと同じかなぁ……」

「志保の苦しみの原因も川島だったね」

「もう……勘弁してくれって」


 口ではそう言う良樹だが、もちろん本音は違う。


「それにしても……志保と江藤とは、結局3年間同じクラスだったな」

「そうだね。もしかしたら、高校でも同じクラスだったりするかもしれないね」

「いやいや、まさか、いくらなんでもそんなわきゃねえだろ」

「なによ川島。アンタ、アタシと志保が同じクラスで不満なわけ?」

「……もう何度目だよ、このやり取り」


「楽しそうなとこ悪いけど、そろそろタイムカプセル埋めに行こうよ」


 良樹たちの教室に来た市原が、そう声をかけた。


「ちょっと待って。まだ藤原と一美が来てないのよ」

「お待たせー」

「待たせちゃってゴメン。後片付けが手間取っちゃって」


 藤原と渡辺が、二人揃って教室に入ってきた。

 市原の表情が、ふっと緩む。

 美咲が不思議そうな顔で首をかしげていた。


「ふーん……」

「なによ、美咲」


 タイムカプセルを埋める校舎裏に6人は向かっていた。

 前を並んで歩く藤原と渡辺を交互に見て唸っている美咲に、渡辺がいぶかし気に尋ねる。


「私と藤原くんに、何かついてるの?」

「いや、こうして見るとさ、一美と藤原って、案外お似合いだなぁって思ってさ」

「なっ!」

「なによ、市原。なんでアンタが驚くのよ」


 驚きの声を上げたのは、言われた当人たちではなく、美咲の隣りにいた市原だった。

 

「あ、いや、なんでもないよ。ちょっと躓いちゃったからさ。ビックリして声が出ちゃっただけだから」


 さっきといい今といい、市原の反応がどうもおかしい。

 また歩き出しても、市原の視線は、どうも一点を見つめているように思える。

 

(なるほど、そっかぁ)


 美咲の頬が思わず緩む。彼女は市原の脇腹に軽くパンチを入れた。


「な、なに?」

「ううん。別になんでもないよ」

「なにそれ」

「市原、まあ、頑張んなよ」

「はぁ? なんの話?」

「いいからいいから。気にしないの」


 後ろを歩く4人のやり取りを、良樹と志保は、時々後ろを振り返りながら聞いていた。


「なんだか、2年の頃がウソみたいだな」

「そうだね。私、まさか渡辺さんと仲良くなるなんて、思わなかったもん」

「俺もだ。まさか藤原と友達になるなんてなぁ。我ながらビックリだよ」

「でも、ホントによかった。よかったね、よしくん」

「ああ、そうだな。志保……その、ゴメンな」

「えっ? なにが?」

「いや、2年の頃の俺って、ホントにバカなガキだったからさ。オマエのことずいぶん傷つけてたなって思ってさ」

「今ごろ? ふふ、もう過ぎたことだし、気にしないで。私ももう気にしてないから」

「そっか。ありがとな」

「そんなことより、高校生活も楽しくなるといいね。よしくん」

「ああ、楽しく過ごそうぜ」

「そういえば、よしくん。第二ボタン付いたままだね」

「第二ボタン? ああ、そんなの欲しがる女の子なんて、ホントにいるのかよ」

「いるんじゃない? だって市原くんも藤原くんも付いてなかったもん」

「えっ? マジか……あいつら……」

「私がもらってあげようか?」


 志保が悪戯っぽい笑顔を浮かべながらそう言った。


「なんで上から目線なんだよ。でも、いいぜ。欲しいならやるよ。ほら」


 良樹はそう言うと第二ボタンをちぎり取り、志保に手渡した。


「えへへ、ありがと」


 ちょっぴり頬を紅く染めながら、志保が嬉しそうに言う。

 ホントは女の子の申し出を断って、志保のために取っておいた……そんな真実を良樹は決して口にしない。

 



「さて、じゃあ穴も掘ったし、みんなそれぞれ書いてきた手紙を、この缶の中に入れてくれよ」


 それは6人がそれぞれ10年後の自分に宛てた手紙だった。


「卒業式の後、この6人でタイムカプセルを埋めないか?」


 藤原がそう提案した時に、反対する者は誰もいなかった。むしろ全員が乗り気だった。


 

 志保の手紙

「……10年後の私へ。あなたは今、彼の隣で笑っていますか?」

 

 良樹の手紙

「……10年後の俺へ。ちゃんとアイツのこと、守れてるか?  約束は果たせているか?」

 

 市原の手紙

「……10年後の僕へ。まだあの太陽みたいな笑顔に、勝てないままでいるのかい?」

 

 渡辺の手紙

「……10年後の私へ。あなたはもう、誰かの名前を呼んでいますか?」

 

 美咲の手紙

「……10年後のアタシへ。志保が泣いてたら、アンタ、絶対に許さないからね!」

 

 藤原の手紙

「……10年後の僕へ。キミは誰かの二番目じゃなく、一番の『親友』になれていますか?」

 


「バラバラになっちまうってほど離れるわけじゃねーけど、10年後にみんなでここに集まって掘り返そうぜ」

「うん。そうだね」


 志保の答えに合わせて、他の四人もウンウンと頷いている。


「10年後かぁ、どんなアタシになってるんだろうなぁ」


 美咲のその一言をキッカケに、他の五人もそれぞれの10年後に想いを馳せている。

 

 大学を出て就職しているだろうか。

 それとも、もっと違う道を歩んでいるのだろうか。

 恋人は、いるだろうか。

 充実した日々を、送れているだろうか。


 雲ひとつ無く真っ青に澄み渡った空を、いつしか6人とも見上げていた。


 彼らの目の前には、希望に満ちた溢れた無限の明日が、どこまでも広がっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ