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どうしようもない恋心

「ねえ、川島くん……私たち、別れよっか」


 冬休みが終わり、中学2年生最後の学期が始まった。春からはもう3年生になる。そんな1月半ばのある日曜日、久しぶりにデートした帰り道で、渡辺はそう言ったんだ。


「え……」


 覚悟をしていなかったわけじゃない。けれど、まさか今日言われるとは思ってもみなかった。

 いきなりすぎて、俺の頭は追いつきやしない。


「ごめんね突然。でも今日のデートを最後にしようって、私もう決めてたんだ。でもね、川島くんが悪いわけじゃないんだよ。ただ私が気づいちゃっただけだから」

「気づいたって……なにを?」

「川島くんが本当に大切にしなきゃいけない人が、誰なのかってこと。ううん、本当はね、最初からずっと知ってたのかもしれない」


 わかんねーよ。渡辺が何を言ってるのか俺にはわかんねえ。わかりたくもねぇ。


「誤解しないで。私ね、川島くんの隣りにいるの、すっごく楽しかったよ。でも、そこは『私』の席じゃなかったみたい。だから返すね」

「なんだよそれ。何言ってるのか全然わかんねーよ。じゃあ、俺の隣りは誰の席だって言うんだよ!」


 俺のその問いに渡辺は答えなかった。


「待ってくれよ、渡辺!  俺が悪かった。俺もっと、ちゃんとするから!」


「……ううん、無理だよ。だって川島くん、私と一緒にいる時も、心はいつだって全然違うところにあったでしょ?」


 なんでみんなして同じことを言うんだよ。俺が好きなのは渡辺なんだよ。他の誰でもねーよ。


「ううん、いいの。もうわかってるから。ホントに楽しかったよ。短い間だったけど、私の初めてのカレシが川島くんで、本当によかった」


 渡辺の言葉は端々に突き放すような冷たさと厳しさがあって、俺はだんだんと何も言えなくなっていったんだ。


「……ねえ川島くん、ひとつだけ、質問してもいい?」

「……なんだよ」

「もしも槇原さんがさ、キミ以外の男の子と付き合うことになったら。キミは心から『おめでとう』って笑ってあげられる?」

「……っ!?」

「……それが答えなんだよ、川島くん」

「違う!  俺は、ただ、あいつは家族みたいで……!」

「うん、知ってるよ。だから、もう終わりにしよ。そんな中途半端な気持ちのまま、私の隣りにいられる方が、私、もっと辛いから」

「渡辺……」

「川島くん。泣いてるあの子のこと、ちゃんと迎えに行ってあげてね。あの子、ずっとずっと待ってるよ?」

「違うんだ渡辺。俺が好きなのは渡辺だけなんだ。なんでここで志保の名前が出てくるのかわかんねーけど、俺は本当にあいつのことはなんとも思ってないんだよ! 信じてくれよ!」


 俺がそう食い下がると、渡辺はフッと悲しそうに笑った。


「……川島くんって、優しいよね。本当に、優しいと思う」

「え……?」

「でもね、ごめん。私、気づいちゃったんだ。キミのその優しさは、私だけに向けられたものじゃないって。だからね、私、疲れちゃったの。キミの心の中にいる『誰かさん』の影と戦うのにさ……ごめんね。私、そんなに強い女の子じゃなかったみたい」

「そんなこと……そんなことないんだよ……なんでわかってくれねえんだよ」

「付き合う前は、ただ一緒にいられるだけで楽しかった。でもカノジョになったら、欲張りになっちゃったみたい。もっと私だけを見てほしい、とか、一番に考えてほしい、とか考えるようになっちゃって……でもそんなワガママな自分がイヤになっちゃったの。このままだと、川島くんのこと嫌いになっちゃいそうで……それが怖いの」


 わからない。やっぱり俺にはわからない。わからないから諦められるわけないじゃないか。


「待ってくれよ渡辺!  俺が悪かった。俺、これからはお前のことだけを見るから……!」


 それでも俺は食い下がった。簡単に諦められるもんか。

 だけど、俺のそんな心の叫びを渡辺は静かに聞いていて、やがてゆっくりと首を横に振ったんだ。


「……ごめん、川島くん。もう、無理なんだ」

「なんでだよ! 俺、直すから!  だから……!」

「……出来たらこれは言わないでおきたかったんだけど……。私ね、他に好きな人ができたの」

「えっ?」


 衝撃。そうとしか言えない。時間が止まった。


「……は? ……嘘だろ……? いつから……」

「ごめん。……ずっと、言えなかったの」


 渡辺は俺と目を合わせようとしない。


「……誰だよ、それ」

「それは、言えないよ。でもね、その人のことを考えてると、私すごく安心するの。無理して笑わなくてもいいんだって、そう思えるから」


 俺はもう、何も言い返せなかった。渡辺は無理して笑っていたのかよ。そんなの……全然気づかなかったよ。


「だからね、もう終わりにしたいの。こんな気持ちのまま川島くんの隣にいるのは、もうできないから。それはキミにも、その人にも失礼だから」


 そう言うと渡辺はやっと目を合わせ、俺をまっすぐに見つめた。


 「もう一度言うね……短い間だったけど、ホントに楽しかったよ。ありがとう……バイバイ」

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