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箱庭から歪んだ愛を君に。  作者: 泉出流
第1章【十二支達の箱庭】
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〇閑話「お片付けの時間ですよ」

「うわー今日もまた一段と酷い惨状ー」

「どうして本棚が斜めになっているんだ……細身に見えて意外と力あるんだね、シン君」


片付けのために着いてきてくれた二人が私の後ろで感心したような声を上げている。

少しも感心している場合では無い事に気がついて欲しい。


「相当やってくれましたね」


チハヤが小さく息をつきながら、乱雑に散らかった室内を見渡した。

書斎の中は、まるで台風でも通った後のようだった。床には開かれたままの本、ひっくり返った椅子、そして机の上に乗せられた見慣れぬ試験管のようなものまである。


「……で、今回は何のつもりだったんです?」


チハヤが冷ややかに尋ねると、嵐の元凶でもあるシンはわるびれもせず淡々と答えた。


「さっきも言っただろう。紙を探していた。何度も同じことを言わせるな」

「ええ、ええ、私も何度も同じことを言いたくはありません」


この会話をするのももう何度目になるだろうか。

深い、深海よりも深いであろう溜め息をつく。


「椅子や机をひっくり返しても君の望むものは出てこないと何度言ったら分かるのですか」


「元から分かりやすいところに置いておけばいい」

「なんで私が君に配慮しなければならないのか全然分かりませんが。ご存知だとは思いますが、ここ私の部屋ですよ」

「それがどうした」


さも自分は悪くないと言った口振りにもう言葉を返すのも疲れる。


「先生、俺はまず本を片付けますね」


苦笑いしながらコハクが床に落ちている本を拾い上げる。


「そうですね、話していても片付きませんから」


そう言って私は気持ちを切りかえてそれぞれに指示を出していく。


「トウマさんはまず倒れかけている本棚を直してください」

「えー!? コハクちゃんよりしんどくない!?」


文句を言うトウマの発言は聞き流した。


「シンはひっくり返した椅子を直してからゴミ拾いです。試験管も持って帰って下さいね」

「何故俺が」


何故も何も、君がこの空間を作り上げたからですけど。

こめかみに青筋が浮かび上がりそうで片手で額を抑えながら本日何度目かの溜め息をついた。


「先生って何気に人使いあらいよねぇ」

「君たちが手伝ってくれると言ったんでしょう。最大限活用させて頂きます」

「俺は言ってないが」

「シンは黙りなさい」


心底うんざりした声音が出た。


「ほらさっさと終わらせてしまおう。四人でやればすぐ…………終わるはずだよ」


皆の仲介に入るかのようにコハクがまぁまぁと声をかけてきた。

すぐ終わる、の間が少し気になるところではある。


「コハクさんは仕事が早くて助かります」


コハクがやっていた箇所を見ればもう本をある程度拾い集めるのは終了していたようだった。


「本を拾うだけだからね。後は本棚を直してからじゃないと元には戻せないかな」

「トウマさん」

「はいはーい、今やりますって!」


私に急かされトウマがバタバタと動き出す。

全部の本棚を直すにはまだ少しかかるだろう。


「じゃあ次にコハクさんには本の仕分けを行ってもらいます」

「それは俺がやるより先生が分けた方が早い気が……」

「ジャンル別にざっくりとで構いませんよ。任せました」


コハクは苦笑しながらも作業に取りかかってくれる。素直に聞いてくれる実に良い子だ。


「なんだかシンシンのせいで罪のない俺とコハクちゃんが八つ当たりされてる気がするー」

「チハヤの心が狭いだけだ」


どの口がそれを言うのか。


「次やったら出禁にします。何が何でも追い出します」


思ったより冷ややかな言葉が出てしまった。

トウマもコハクも困ったような笑みを顔に張りつけているが、やや口角が引きつっている。


「……完璧怒らせてんじゃーん」

「シン、次からは計画的に荒らしてください」


コハクはそれでフォローのつもりなのだろうか。絶対に根本的にズレている。

まずは荒らすのをやめて頂きたいと切実に思う。


「……妨げになるなら、またやる」

「ならば、せめて事前申請とか……申請書、俺が作りますね。提出先は先生で」

「却下です」


そんなこと、許せるはずがないので即座に却下する。

どこかズレた会話をしながら各々は部屋の片付けに着手し始めた。

ほうきでも持ってこようかと掃除用具のある場所へ足を向けようとした時、部屋の隅、棚の下へと半分潜り混んでいた本を見つけてしまった。

私はそれを拾い上げ、そっとその表紙を撫でる。

騒がしさの中、しかしどこか穏やかな空気が流れていく。

それはこの歪んだ園の中で、確かに“誰かと共にある”という感覚だった。

ミヤたちと別れた後のメンバーはちゃんとお片付けに勤しんでいたという日常回でした。

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