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箱庭から歪んだ愛を君に。  作者: 泉出流
第3章【そして疑いの花は咲き誇る】
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第?話「追う影」


 最初は怯えている君を見て、弱弱しい子だと思った。

 次に君の小さな手を見て、守りたいと思った。

 最後にはにかんだような笑みを見て、俺のモノにしたいと思った。

 けれど、君の周りには邪魔なものが多すぎたから。



――だから奪った。



 君を俺だけのものにした瞬間は最高だった。


 体の自由はおろか、か細い吐息の一つでさえ俺の思うがままで。

 その脆さを支配しているという感覚に、頭の奥が痺れるほど酔った。

 力を込めたり緩めたりするたび、君の呼吸が震え、その音に身体が熱を帯びる。

 動かなくなった瞬間――全身の血が沸き立つような快感に思わず笑いが漏れた。

 完全に俺のものになったんだって思った。



――それなのに。



 この大事な場所にいるアイツを見た時に、胸の奥を灼くような嫉妬がまた蘇った。

 君を奪って、ようやく手に入れたはずなのに。

 アイツの目が、まだ俺のものではないと突きつけてくるようで。



――許せなかった。



 そうだ、これだけじゃない。

 アイツは前から俺の邪魔をしてきていた。

 まるで汚物でも見るような目で俺を見やがって。

 君の前に立つアイツはさながらナイトのようでもあって、心底ムカついた。


 許せない。許せない。許せない。

 吐き気がするほど憎らしい。

 俺をあんな目で見るその眼球を抉り出してやりたい。


 君を手に入れたはずなのに落ち着かない。

 その理由がようやく分かった。

 手に入れてからもこうやって邪魔をしてくる奴がいるからだ。

 邪魔な奴を完全に消さないと俺は落ち着けない。


 消さなきゃと思った時に、君を手に入れた時に感じた気持ちと同じものがじわじわと沸き上がってくる気がした。

 きっとこれが幸せというものなんだろう。

 この幸せを確かなものにするためにやはりアイツは絶対に消さなくちゃいけない。


 心底憎い。

 けれど、その邪魔なアイツを壊せば、またあの甘美な快感に触れられる。

 そう考えた瞬間、胸の内がぞくぞくと震えて止まらなくなった。

 笑いを堪えることができず、唇から勝手に零れる。



 やっぱり正しかったんだ。俺の幸せはここにしかない。



 ――予想はしていた。どうせここに来ると。


 贈り物も用意していた。ちゃんと受け取ってくれたようで、本当に嬉しい。

 ああ、気分がいい。苦手な歌でも踊り出すように口ずさめそうだ。


 アイツは何か言いかけて、背を向けて走り出した。

 駆け抜ける足音。滴り落ちていく赤。

 その匂いを吸い込みながら、俺は追う。


 なんだか鬼ごっこのようで気分が高揚する。

 人生で一回きりの鬼ごっこ。

 楽しくて仕方ない。


 地面に落ちた点々と赤い花。

 これくらいならすぐに消えてしまうだろう。


 君の時は後も残さずきれいなものだったのに、本当にアイツはどうしようもない奴だ。

 まあ君と一緒だと同じだと、それはそれで反吐が出るほど気持ちが悪くて許せないからきっとこれでいい。


 でもこれが一回きりなんて思うと少し残念な気もする。


 あぁ――でも邪魔な奴はもう一人いたっけ。もしかしたらもう一回くらいは楽しめるかもしれない。

 

 追いかけっこはまもなく終盤。


 じゃあ、そろそろ終わらせようか。

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