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天使JKと悪魔JKの百合

百合小説です!苦手な方はブラウザバックお願いします!

 ある日、世界の人類は天使と悪魔に分けられた。


 あなたは天使。あなたは悪魔。


 誰が決めたでもなく、突然そうなった。


 人類の半分に厳かな天輪と、ゆるふわな羽が生えた。


 もう半分には悍ましい角と、チャーミングな尻尾と羽が生えた。


 はじめは戸惑うばかりであったが、時期に人々は天使と悪魔に別れ、敵対を始めたのだった……。


 そんな中で……


「のっぞむちゃ〜ん!」


 全く敵対する気のない悪魔。飯山満(はさま)日辻(ひつじ)は今日も、天使の海神(かいじん)(のぞむ)に会いに来た!


 ──


 敵対していると言っても「見つけ次第ぶっ殺す!」みたいな過激思想ではなく、ちょっと陰口を叩く程度だ。


「あの子、また悪魔なんかと会ってるわ……」


 ふくよかなピンクパーマおばちゃん天使(トラ柄Tシャツである。天使なんてそんなもんさ!)が陰口を叩いていた。

 そんな声が聞こえるたびに、天使の海神望は俯くことで視線を逸らし、周囲の厳しい目線を忘れようとした。


「望ちゃん?」


 日辻は望の顔を覗き込むように、体を曲げた。


「あ、あのさ、日辻」


 望は、言いづらそうにたっぷりと躊躇いながら、それでも言わねばならぬと決意して口を開いた。


「私たち、もう会わないほうがいい……と、思う……」


 日辻は、その言葉に目を丸くした。

 そして、言った。


「んー……。ヤダ!」


 なんて気持ちのいい否定だろうか! しかし、その言葉は望の望む言葉ではない。


「なっ、ヤダじゃなくて……!」

「ヤ!」

「ヤじゃなくて!」

「イーヤー!」

「日辻!」


 望は(我儘言わないの!)と子供をしかる母親のように日辻の肩を掴んだ。


「私たちは、天使と悪魔なんだ……! 天使と悪魔は相容れない存在! 私たちは、相容れない存在なんだよ……!」


 望の悲痛な言葉に対し、日辻は呆れたように「はぁ……」と溜息を吐いてから言った。


「馬鹿じゃん? 私たちは人間だよ?」


 うっわ、確かに〜笑 と、笑えるほど、望の精神状態は安定していない。


「は?」


 日辻は望の肩を掴み返して続けた。


「私達は天使と悪魔じゃなくて、人間でしょ? 羽とか角とか、変な飾りが付いているけれど、私は悪魔らしい能力なんて何も使えないもん。望ちゃんだってそうでしょ? 何か天使らしいことできるの? できるならやって見せてよ」


 日辻は自分の角を撫でながら言った。


「天使らしいことって、そんなの、できないけれど……」

「じゃあ、それってコスプレと何が違うの?」

「コスプレではないでしょ……。だって、この羽、取れないし」

「姿形が変わっただけじゃん。天使の姿をしているからって──悪魔の姿をしているからって、中身は人間じゃん。格好が違うだけ。言うなれば、人類のファッションがギャル系と清楚系だけになったようなものでしょ? 私は、人間の姿形で敵か味方かを判断するだなんて、そんなのとっても、つまらないと思うけれど?」

「で、でも……」


 望は、日辻の言葉に気圧されながらも、必死に自分の気持ちを伝えた。


「日辻はそうでも、周りの人たちはそうじゃない……。私が日辻と会っていることを、皆が噂してる……。私、そのせいで、皆から避けられてるんだよ……?」


 望が天使達から避けられているのは事実である。望の人見知りな性格も相まって、『悪魔と会っている天使』である望は忌避の対象だった。


「そうなんだ。でもそれって関係なくない? 周りの目線とか、そんなの気にしなければいいじゃん」


 それができれば苦労しないんだよ──という言葉は飲み込んで。


「私に会いたくないっていう望ちゃんの言葉は、心からの言葉なのかな。望ちゃんは、周りの人に合わせて、自分の気持ちを押し殺しているんじゃない?」

「違うよ。それは私の本当の気持ち。『周りの人に避けられたくない』それが私の全て。私にはそれだけだよ……」


 望はまた、俯いた。

 その時、望の視界の端で、雫が一粒落ちていった。望は顔を上げた。そこには、涙を流す日辻がいた。


「ひ、日辻……」


 望が手を伸ばすと、日辻は望の手をはねのけた。その瞬間、望の心にヒビが入った。

 一番避けられたくない相手に、拒絶された……。


「なぁ〜に浸っちゃてんのぉ〜! 望ちゃ〜ん!」


 日辻が涙を流しながら叫んだ。


「望ちゃん! 遠回しな言い方をして──周りの人間のせいにして、必死に自分の気持ちを覆い隠しているけれど、結局のところ、それって私のことが嫌いって話だよね〜!」


 日辻の目が真っ黒に染まっていく。それはまるで、本物の悪魔のようで……。


「そ、そんなことは──」


 ──と、否定したけれど、それは本当だった。

 望は日辻のことが、嫌いなのであった。なぜならば日辻は『私に害を与える悪魔』だから。


「何が天使だよ! 何が悪魔だよ! ちょっと姿が変わったくらいで敵だとかなんだとか言っちゃってさぁ〜! ハハ! 私たちの友情って、そんなもんだったんだね! 望ちゃ〜ん!」

「ひ、日辻……!」


 望の声はもう、日辻に届いていない。


「分かった! 分かったよ〜! 私はもう望ちゃんに一生会えないんだね! 一番の友達だと思っていたけれど、親友だと思っていたけれど──嫌いと言われた今でさえも、親友だと思っちゃっているけれど、望ちゃんの中で私は、迷惑な『悪魔』だったんだね〜!」

「や、やめてよ日辻……!」


 日辻の目から溢れ出る涙は止まらなかった。涙は頬を伝い、とめどなく流れ続ける。


「これでお別れだね! 望ちゃん! 私はもう、望ちゃんに会いに来ないよ! 一生! 望ちゃんのためにね!」


 そう言って日辻は、望に背を向け走り出した。


「愛してたよ! 望ちゃ〜ん!」

「日辻ッ!」


 望は日辻の背に手を伸ばしていた。その手が日辻に届くことはなかったけれど。

 望は伸ばしてしまった自分の目を見て激しい自己嫌悪に苛まれた。


 日辻とこれ以上会わないことを望んでいたんだろ?

 それを望んだのは私だろ?

 これで良かったんだろ!?

 そうだろ!!! 私!!!


 それから、日辻は本当に会いに来なくなった。

 私に向けられていた忌避の目はいつの間にかなくなり、私は平和な日々を過ごすことができた……。


 ──


 一年後。戦争が始まった。


 ──


「嗚呼……」


『嗚呼』だって。ウケる。こんな小説の中でしか見ない言葉を口にするだなんて思わなかったな。


「嗚呼……!」


 あ、また言った。やめてよ恥ずかしい。嘆くにしても、もうちょっと女の子らしく嘆いてよ。


「もうだめ。私、こんな世界じゃ生きられないや」


 前まではただ、睨み合う程度だったのにね。今や大戦争勃発だよ。

 そんな事ある? 天使と悪魔がライフルで頭を撃ち抜きあったり、捕らえた敵の羽をもいだり角を折ったり、女子供関係なくぶっ殺して、死体でピラミッドを作って遊んだり。

 そんな事ある?

 それがあるんだよなぁ。だって、今も目の前に死体のピラミッド、あるし。


「日辻……」


 あーあ。言っちゃった。その名前を言っちゃった。


「日辻……!!!」


 遠ざけたのは私なのにね。「会いに来るな」と言ったのは私なのにね。

 戦争が始まってから今日までの間、『毎日』呼んでいたその名前を、今日もまた呼んじゃった。


「会いたいよ……会いに来てよ……!」


 ウケる。そんな馬鹿な望みがあるかよ。私が言ったんだぞ。「もう会いに来ないで」って。


「日辻日辻日辻日辻ぃ!」


 情けないやつだよ。私は。

 最低。愚か。塵芥。

 もう、死んじゃえよ。私みたいな自己中は。


 ライフルを咥える。

 ウ~ン。鉄の味! これは銃の味なのかな? それとも血の味かな?

 とうでもいいか! そんなこと!

 だってもう、私ってば自殺しちゃうみたいだし!笑


「じゃあね。日辻──」


 ──その時だった。


「望ちゃん! 呼んだ!?」


 は?


「やあ! 久しぶり! 今日もまた、一段と下を向いているね! 望ちゃん!」


 ヘルメットを被った飯山満日辻が、ライフル片手に現れた。


 日辻の顔を見たその時! 私の中にパチパチと、眩しい何かが煌めき始めた!


 眩しくて眩しくて! でも、目を閉じようとは思わなくて! 寧ろ、ずっと見つめていたくて!


 嗚呼!!! それはまさしく!


「これが希望かぁ!!!!!!」


 そう叫ぶと、私の天輪が高速で回転を始めた!

 私のゆるかわの羽が、大きく大きく広がった!

 私が握っていたライフルは、いつの間にか光り輝く弓矢になっていた!


 私! メタモルフォーゼ!


 私は、日辻からもらった希望で、人間から、本物の天使へと、相成ったのだ!


「うおっ。眩しっ」


 目を防ぐ日辻に構わず、私は日辻にキスをした!

 天使のキッスなんて柔らかいものではない!

 天使の深く激しい希望の[[rb:本気 > マジ]]ディープキスだ!

 舌を絡ませ! 舌を吸い! 舌をなぞった!


「ッ!? ッ!?」


 ビクビクと震える日辻の体を、大きくてゆるかわな羽で押し潰すくらいに抱きしめて、構わずディープキスを続けた!


「んッ! あっ……。んッ」


 日辻! 日辻!

 ひつじ! ひつじ!

 ひつじひつじひつじひつじひつじ!!!


「ん、えあ……」


 私と日辻の間に、涎の橋がかかり、光を反射して煌めいた!


「んあ……」


 日辻が力なく私に寄りかかってきた! 体をビクビクと痙攣させていた! それがもう、可愛くて可愛くて…!

「んんんん〜!!! ひつじ〜!!!」


 私は日辻を抱きしめた!


「日辻ぃ〜! 大好き〜! もう絶対遠ざけないからね〜!!!」


 日辻がガクリと意識を失うまで、私はハグとキスをし続けた。


 ──


 私は飯山満日辻。悪魔になった。


 悪魔といっても、悪魔らしいことは何もできない。ただ、角と尻尾と、羽が生えているだけ。飛べもしない。人間だった頃と、何も変わらない。


 私は毎日、海神望に会いに行っていた。天使と悪魔が互いを嫌い合っていることは知っていたけれど、それでも望ちゃんに会いたかったから、会いに行った。


 私たちは親友だった。私が勝手にそう思っていただけかもしれないけれど、でも、望ちゃんも私に笑顔を向けてくれていた。軽口を叩いてくれていた。極めつけに「あーあ。やっぱり日辻だなぁ。日辻が一番の友達だ」だなんて言ってくれたから、私はもう、望ちゃんのことが大好きだった。


 そんな二人の関係が、天使と悪魔になったからって、そんなちっぽけな障害があるからって、簡単に断ち切られてしまうものだとは思っていなかった。


 世間がなんだ。他人がなんだ。


 私達親友の絆を断ち切れるものならかかってこい!


 ……そんなつもりでいたのに。


 あの日、いつものように望ちゃんを訪れると、望ちゃんは酷く落ち込んでいた。目の端に映ったふくよかピンクパーマ天使がこちらを睨んでいたから、きっとそのせいなのだろうと思った。


 ふん。陰口なんて汚い奴め。何か文句があるなら、直接言ってみろ!


 私のそんな強気な態度は、しかし、望ちゃんの一言によって、真正面から叩き潰された。


「日辻。私たち、もう会わないほうが良いと思う」


 頭が真っ白になった。


 え、え?笑

 どうして?笑

 ……え。……なんで?


 私たちは友達で、親友で、大好き同士で。

 親友の絆は、世間の目線がどれだけ酷くても、断ち切られるものではないでしょ?


「私、避けられているの。日辻が会いにくるせいで」


 あー……。

 そんなことを言われてしまったら。

 そんなことを言われてしまったら……!


 世間に負けないなんて思っていたのは私だけだったようだ。

 私は、私と同じ悪魔たちに何を言われようと、石を投げられようと、殴られようと蹴られようと、構わず望ちゃんに会いに来ているけれど、望ちゃんはそうじゃないんだね。


 望ちゃんは、私に会うことより、世間に嫌われないことを選ぶんだね。


 ──なら、仕方ない。


 私は決めた。もう、望ちゃんに会わないことを。

 望ちゃんが世間に嫌われないために。

 これ以上、望ちゃんに嫌われないために。


「これでお別れだね! 望ちゃん!」


 そういった私の顔は、きっとうまく笑えていなかったと思う。望ちゃんともう会えないことによるショックは、私の頭にドス黒い靄を溜めていった。


「愛してたよ! 望ちゃ~ん!」


 そんな事を言いながら、私は、望ちゃんに背を向けた。

 嗚呼。私は望ちゃんにもう会えない。

 こんなことが、会っていいのか。

 これが現実なのか。

 これが、絶望ってやつなのか。


「……」


 ──


「ひつじぃ〜!!!」


 なんか、空、飛べた。


 バサバサ羽ばたかないといけないんだろうなぁ、と思っていたのだけれど、そんなことはないらしい。

 天使は空を飛ぶもの。そう考える人間の固定概念が、私という天使を空へ浮かせたのだ。


 私は日辻を抱きしめ続けた。日辻の全てが愛らしかった。

 私より十五センチ低い身長が、サラサラツヤツヤのショートカットが、私よりも小さな手が、私よりも短い足が、私に本気のディープキスをされて体をビクビクと痙攣させる様が──本当に、全てが愛らしかった。


「ねぇねぇ日辻? どうして私に会いに来てくれたの?」


 私が聞くと、日辻は息も絶え絶えに言った。


「せ、戦争が始まって、天使と悪魔が殺し合う混沌の世界になったから、もう、世間に嫌われるも何もないんじゃないかなって、思って……。廃墟だらけの今の世界なら、天使と悪魔が一緒に暮らせる誰もいない場所もあるんじゃないかなって……」

「んんんん!!! それって! 私と一緒に暮らしたかったってことだよね!」


 私の言葉に、日辻は小さく頷いた。


「私もだよぉ〜! 日辻と会えなくなっちゃったこれまでの間、日辻のことを考えなかった日なんて、一日もないんだからぁ!」


 その言葉に、日辻はぎこちなく笑っていた。


「は、はは、だから、こんな、頭のおかしな天使になっちゃったの?」

「え?」


 私が日辻の目を見ると、日辻は一瞬たじろいだが、キッと私の目を睨み直して言った。


「望ちゃんは、頭がおかしいって言ったんだよ」

「えー? 私、頭おかしい?」

「おかしいよ!」


 日辻は目くじらを立てて怒鳴った。


「久しぶりにあった親友に、あんなキスするやつ、頭がおかしいに決まってる!」


 その言葉に、私はちょっとだけムカついた。

 そりゃするだろ! だって私は日辻を愛してるんだから!

 愛することに理由がいるか!?

 キスすることに理由がいるのか!?


「だって! 仕方ないもん! 一番会いたかった人に会えたんだもん! 希望が溢れ出して、止めどなくて、ほとばしって! 抑えきれない程の愛が、爆発しちゃったんだもん!」


 しかし、日辻はまだ私を睨んでいた。


「だからってあんなキスはしない! 私たちは親友なんだ! 恋人じゃない!」

「親友とか恋人とか、うるさいよ! 関係ないよ! 私がキスをしたいって思ったんだもん」

「おかしい! 私たちは親友なのに!」


 私には、日辻の言っていることが全く分からなかった。

 親友? 恋人?

 知るかそんなもの。キスしたかったからキスをした。ただそれだけだ!


 日辻は恨めしそうに私を見つめてから、目を逸らした。


「会わないほうが良いって言ったのは望ちゃんじゃん……。なのに、そんなに喜ぶなんて、そんなのずるいよ」


 私は、目を逸らす日辻の頬を掴み、がっちりと目を合わせた。


「日辻! 意地悪なこと言っちゃヤダ!」


 私は日辻の顎に手を添えた。


「そんな意地悪なことを言う日辻には、お仕置きが必要だね!」


 私が日辻の目を見つめると、日辻は慌てて首を振った。


「いや、ごめん! もう言わない! 本当に!」

「そう? 日辻は偉いね! でもお仕置きはやめない!」

「ちょっ、待って! キスはダメ! 私壊れちゃう!」

「キスくらいで壊れるわけないだろ! ほら舌出せ!」

「や、やめ!」

「ぇぁ〜……」


 私は日辻の唇の隙間に、自分の舌を差し込み、日辻の舌の裏に滑り込ませた。

 日辻の舌裏の筋をなぞる。日辻がまた、ビクビクと痙攣する。


(日辻かわいい! かわいいかわいい!)


「んぁ……」


 日辻の上顎を擦る。日辻の舌を絡め取る。日辻の唇に自分の唇を柔らかく重ねる。


「ぁッ……んぁ……ッ」


 真っ赤に染まった日辻の顔! 苦しそうに歪んだ顔!

 嗚呼!!! ホントに愛してる!


「……ふぅ」


 日辻の唇から離れると、日辻は火照って何も考えられないというように、ボッーっと私の顔を見つめていた。


「何その顔。 もっとほしいの?」

「……」

「そっか。じゃあ仕方ないな」


 私はもう一度、日辻と舌を絡ませた。


 ──


 天使の私は、多分、何でもできる。

 何でもというのはもちろん誇張であり、実際のところは多分、『今起こっている戦争を終結させること』くらいしかできないだろう。


「いや、それって、全部じゃん!」


 日辻が歓喜の声を上げた。

 私たちは満足するまでキスをした後、空を飛び、美しい浜辺に降りたった。その浜辺で、波の音を聞きながら膝枕をしていた。

 日辻が寝転がり、私の膝を枕にしながら言った。


「じゃあ、戦争を終わらせてよ。私は、こんな世界、もう嫌だよ」


 日辻は暗い顔をした。

 そう言えば、私と会わなくなってから、日辻はどんな日々を送っていたのだろうか。


「ねぇ、日辻?」

「なに?」

「日辻は今まで、どんな日々を送っていたの?」


 聞いてしまった後で後悔した。ここで日辻が『望ちゃん以外の友達と普通に遊んでたよ』と言われたら辛い。死ぬほど辛い。ライフル準備オッケー。あ、今はライフルじゃなくて弓矢だった。笑


 日辻は答えた。


「まず、あの日、望ちゃんにもう会わない方が良いって言われた後、住処に帰ったら、住処が燃やされていたんだよ」


 おっと、導入からクライマックス。


「も、燃やされて……?」

「うん。日辻ちゃんが天使の人たちに睨まれていたように、私も悪魔からよく思われていなかったんだ。暴言を吐かれたり、石を投げられることだってあったんだよ」


 私は驚愕した。

 私に会いに来ていた日辻はいつも満面の笑顔だったから、まさかその裏で激しい虐めにあっていたなんて思ってもみなかった。

 石を投げられるとか、私の比ではない避けられ方じゃないか。

 しかし、驚愕して同情したものの、悲しい気持ちにはならなかった。

 私は、日辻の体を持ち上げて、キスをしようとした。


「ちょ。なんで。何でこのタイミングでキスなの」


 日辻が私の口を押さえながら、咎めるように睨んできた。


「だって、そんなことをされながらも、私に会いに来た日辻はとっても幸せそうだったもん。それって、日辻は本当に、私に会うことが幸せだったってことでしょ? 私たち、相思相愛だったんだね」


 日辻は顔を赤くしながら目を逸らした。


「……確かにそうだけれど、そんな幸せな私は、その後、望ちゃんに会えなくなるんだけれどね」

「それは、ごめん!』

「別にいいよ。そう言った望ちゃんの気持ちが、理解できないわけではないから」


 日辻は目を逸らしたままで話を続けた。


「それで、住処が燃やされた後、私は寝るところがなくなってしまったから、行く宛もなく町を彷徨っていたの」

「一人で?」

「当然じゃん」

「そんなの危ないよ」

「もうどうでもよかったからね。あの頃の私は望ちゃんに会うことだけが生きがいだったから、それができないならもう、どうなってもよかったの」

「……」

「だからキスしようとするなっ!」


 日辻に、頭を殴られた。


「その後、私はとある組織に匿われることになった。その組織の名前は『デーモンズアクト』。天使に対し、強い恨みをもつ者たちが集まる組織だった」


「なにそれ。『天使にラブソングを』のパクリ?」

「まあ、多分そうだね」

「ふーん」


「それで、『デーモンズアクト』の目標は、天使をこの世から一掃することだった。なんでも、彼らによると、天使がいない世界は平和なんだって」


 日辻は「馬鹿みたいだよね。悪魔気取っちゃってさ。中身はただの人間だってのに」と笑い飛ばした。


「でも、奴らは人間であると同時に、紛うことなき悪魔だったんだ」


 日辻は遠い目をした。


「あいつらなんだ。この戦争を始めたの」

「え」

「望ちゃんも知っているでしょう? この戦争が始まったきっかけの事件を」


 当然知っている。


「東京都庁27人射殺事件」

「それ。その事件を起こしたのは『デーモンズアクト』だったんだ。そして、私は……」


 日辻が目元を押さえて言った。


「私は……その現場にいた……!」


 日辻の目から涙が流れ出した。嗚咽混じりの声で、日辻は独白を続けた。


「私は、止められなかった……! 彼らが発砲し、天使の人間がぐちゃぐちゃに崩れていくのを、ただ眺めていることしかできなかった……!」


 日辻が不意に、私の腹に抱きついてきた。


「し、信じて望ちゃん……! これでも私は反対したんだよ……! 止められなかった事実は変わらないし、彼らの計画に図らずも加担してしまっていた事実は変わらないけれど、それでも、彼らの狂気を止めようと、何度も説得を試みたんだよ……!」


 私は日辻を抱きしめ返した。


「分かってる。心配しなくても、私は信じてるよ。だって、『悪魔と天使に分かれても、皆、人間だ』って豪語していた日辻が、そんな計画を良しとするはずがないもんね」


 私がより一層強く抱きしめると、日辻は大きな声で泣きながら、私の名前を呼んだ。


「望ちゃん! 望ちゃん! 本当に、本当に会いたかったよぉ!」

「私も。日辻が会いに来てくれて、良かった」


 ──


 泣き止み、落ち着いた日辻は言った。


「それから私は『デーモンズアクト』の武器や拠点を壊滅させて逃げ出してきたんだけれど」

「え? 今なんて言った?」

「え。いや、だから、私はその後、『デーモンズアクト』がこれ以上武力行使できないように、武器や拠点を全て壊滅させて、逃げてきたんだけれど」

「すごいや」

「でも、そのおかげで『デーモンズアクト』の人間から恨まれまくり。報復受けまくり。何度も襲われて、死にそうになって、もう生きるのにも疲れたなぁって時にふと、『私は望ちゃんの胸の中で死にたいなぁ』って思ったから、天使の縄張りに侵入して、望ちゃんに会いに来たってわけ」


 そう言って、日辻は微笑んだ。


「なんだか、私なんかとは比べ物にならないほど波乱万丈だなぁ」

「まあ、波乱万丈の自覚はあるよ。自慢にはならないけれどね」


 日辻は「そういう望ちゃんはどんな日々を送ってきたの?」と尋ねてきた。


「私の話なんて、つまらないよ。ただ、日辻が会いに来なくなって、周りから避けられることもなくなって……。友達はできなかったけれど、普通に──戦争が始まるまでは普通に、バイトして、食料買って、食べて、寝て、起きて、バイトして……。そんなことの繰り返しだったよ」

「そっか。じゃあ私は、望ちゃんのことを不幸にはしなかったわけだね」


 日辻は心の底から吐き出すように「よかったぁ」と笑った。

 それから私達は少しの間、波の音をただ聞いていた。

 数分後、日辻が言った。


「ねぇ。これからどうするの? 今の望ちゃんには、何でもできるんでしょ?」


 私は言った。


「うん。じゃあとりあえず、日辻を恨んでる『デーモンズアクト』の人たちから望ちゃんの記憶を消して、それから、恨み合う天使と悪魔から敵対心を消して、それから、戦争によって奪われてしまった命を元に戻して──」

「……」


 日辻が口をポカンと開けていた。


「それから、私と日辻が2人で暮らす家を作ろっか」


 日辻はぽかんと開けていた口を閉じ、小さく笑った。


「うん。そうしよっかぁ……」


 それは、理解を諦めた目だった。 


 ──


「と、言っても、私は今、何でもできる天使なので、この場所から動くまでもなく、全てを行えるのですけれど」


 私はそう言うと、光の弓矢を顕現させ、矢を弦にあてがい、力強く引いた。狙うは真上。そして──


「クラスのみんなには内緒だよ!」


 いや、クラスなんて、学校なんて、崩壊済みだけれど。


 真上に射出した光の矢は、空中で花火のように弾け、幾本にもなって大空を駆けていった。その数は現在生きている天使と悪魔の数と、戦争によって命を奪われてしまった天使と悪魔の数の合計。


 まあ要するに、全ての人類の数に分裂した。


「……綺麗」


 日辻が光の矢に覆い尽くされた空を見て呟いた。


「これが、終結の矢だよ。これで、戦争は終わる」


 日辻はまた呟いた。


「そっかぁ。これで終わるんだぁ」


 その声は、どこか上の空だった。


「日辻? どうかしたの?」


 私がそう聞くと、日辻は空を見ながら言った。


「なんか、信じられなくて」

「うん。まあ、そうだよね。でも、これで終わりだって約束できる。これで終わることが、何故か確信をもって分かるんだ」

「そっかぁ……」


 ……


「望ちゃん……」

「なぁに?」

「まだ、私が終わってない……」

「え?」

「まだ、私の絶望が、終わってないよ……」

「? どういうこと?」

「だから、まだ、私の絶望が、終わっていないんだよ……」

「???」

「ねぇ。望ちゃん。なんで、何で死んじゃったの……?」

「え?」

「ねぇ。どうして? どうして、私をおいて、一人で死んじゃったんだよぉ……」


 私の天使パワーで救えるのは、戦争の暴力によって命を失った人だけ。

 自分で命を絶った人は、救えないらしい。


 ──


 飯山満日辻は海神望に拒絶されたあの日、悪魔へと進化していた。

 姿形だけではない。『魂との会話』という悪魔の能力を手に入れていたのだ。


 魂との会話。そして、取引。それが飯山満日辻という悪魔の能力。


 差し出す魂の量によって、相応の願いを叶える能力。


 ただの一般人であった『デーモンズアクト』が銃器などの暴力手段を手に入れたのは日辻との契約によるものであったし、日辻が『デーモンズアクト』の拠点を壊滅させることができたのも悪魔の暴力を行使したからであった。

 また、日辻は『デーモンズアクト』の報復を、意にも介さず撃退するほど強かった。


 そして何より、すでに消えているはずである海神望の魂を、この現世に縛り付けておくことができているのは、悪魔の能力に他ならなかった。


「望ちゃん。望ちゃん。どうして、私をおいて死んじゃったんだよぉ」


 今も少しずつだが確実に消えていっている望の魂を引き止めるように抱きしめながら、日辻は泣いた。


「世界が平和になっても、私の世界は絶望だらけだよぉ……望ちゃんのいないこんな世界、嫌だよぉ……」


 望は、自分が死んでいることに気付いていなかった。彼女は命を失うとともに天使になり、希望しか見ていなかったからだ。


「え、私、死んでるの?」


 望が首を傾げてそう言った。


「私が見たのは、ライフルで自分の喉を撃ち抜く瞬間の望ちゃんだよ……! ごめん! ごめんね! 私が後1秒早かったら! 望ちゃんが、死んじゃうことはなかったのに!」

「え、そっかぁ。なんか、実感ないなぁ」


 呑気に感心する望に対し、日辻は絶望にまみれて泣き続けた。


「え、でもさぁ。私は今、こうして天使になったわけじゃない? それなら、心だとかどうとかって、なんか、あんまり関係なかったりするんじゃない?」

「違う。違うよ。死んでしまったからこそ、天使になれたんだよ。何故ならば、死は救済なのだから」


 死ぬことで救われたからこそ、天使になった望。それに対し、生きているからこそ絶望を続ける日辻は、だからこそ、悪魔なのであった。


 望は(じゃあ、日辻も死ねばいいのでは)などと、考えた。

 しかし、その言葉を日辻が否定した。


「私は魂と会話ができる。だから、望ちゃんが考えていることはすべてお見通しなの。そして、私は死んでも望ちゃんの元へはいけない。だって、悪魔だから」


 それは、日辻の本能が告げていることだった。悪魔になったからには、死んではいけないと。

 死んでしまったら、魂は還らず、闇に残されてしまうのだと。

 八方塞がりだった。望はやっと、事の重大さを理解した。そして、先程まで幸せに浮かれ、キスをしまくっていた自分を恥じた。






「あの〜。すいません。こんにちわ〜」


 唐突に、そんな声が聞こえた。


「誰!」


 日辻が叫んだ。


「あ、お邪魔してすいません。私、天使の高根と申します。とてもつよつよの最上級天使が悪魔に縛られてると聞いて迎えに来ました〜」

「ッ!」


 日辻はその手に悪魔のトライデントを顕現させた。


「望ちゃんから離れろ!」


 そう言ってトライデントを突き出すが、天使の高根にひらりと風のようにかわされてしまった。


「危ない危ない。これだから悪魔はいけませんね〜。何でもすぐに暴力。めっ、ですよ!」

「うるさい!」

「おうっ! 危ないです!」


 天使の高根は日辻から距離を取った。日辻はそれを追いかけようとした。しかし、望が手を握って日辻を止めた。


「日辻。分かった」

「……望ちゃん?」

「大丈夫。私、分かった」


 望は微笑んでいた。日辻はその微笑みに、不安を感じた。

 望は言った。


「今度は、私の番なんだね」


 そう言って、望は羽ばたいた。日辻を置いて。


「待ってて日辻! 今度は私が! 日辻に会いに行くから!」


 日辻は「行かないで!」と手を伸ばし、羽で羽ばたいた。しかし、悪魔の羽では飛ぶことができなかった。悪魔の翼では、落ちることしかできないのだ……。


 日辻は消えていく望の魂と、昇っていく日辻の背中に悲痛な声で叫ぶことしかできなかった。


 ──


「さて。海神望様。ようこそ。ここが天使達の宮殿です。特に娯楽のないつまらない場所ではございますが、ここから人間たちの様子を眺め、人間たちの健やかな暮らしを守るのが天使です。健やかな暮らしというのは具体的に言うと、悪魔の誘惑から守る、という意味ですよ」


 日辻は「わぁ。綺麗な場所」と上の空で呟いた。咲き誇る花々も流れる清流も、彼女の目には映っていなかった。


 彼女の頭にあったのは、ただ一つ。


「質問です! 悪魔と仲良くしたいんですけれど、悪魔に会いに行くには、どうしたらいいですか!?」


 ──


 私は(あー。これが日辻の気持ちかぁ)となんだか嬉しくなった。


 もちろん、日辻が感じた絶望よりはマシなものだろうし、私は心に希望(日辻が待ってる!)を抱いているので、虐められて絶望していた日辻とは、心の持ちようが全く違うだろうけれど。


 私は今、石を投げられていた。──否、矢を射られていた。


 私が「悪魔と仲良くしたい!」と言ってしまったものだから、こいつは大変だと天界は大騒ぎ。私という異分子を排除しなくてはと、力を合わせて総力戦って感じだ。


 なんか、私は相当強いらしくて、天使たちの攻撃があまり痛くない。

 なんでも、天使になるときに抱いていた希望が強ければ強いほど、天使としても強くなるのだとか。


 なるほど。そりゃあ、私は強いだろ。だって、日辻が会いに来てくれたのだから。


 私が会いたくないって言ったのにも関わらず、それでも日辻は会いに来てくれたのだから!!!!!


「何なんだあの天使は!」

「希望の量が桁違いすぎる! 奴に反撃されたら……!」


 天使たちが私を見上げる。


「あの! 皆さん! 私は敵ではありません! 私はただ、悪魔と仲良くしたいだけなんです! それだけなんです!」

「「「それが大問題なんだろうがァ!」」」


 天使たちの攻撃がより一層勢いを増した。


 さあ、どうすればいいのだろう。この天使たちの宮殿から外に出る方法は分からないし、悪魔に会いに行く方法も分からない。

 どうにかして彼らから方法を聞き出さなければならないけれど、彼らは絶賛激おこ中だし……。


 反撃はしたくなかった。今の私であれば一撃で天使たちを黙らせる(ぶっ殺す)ことができるけれど、暴力はいけない。戦争はよくない。


「これ、もう下に降りれば良いんじゃない?」


 私はこの天使の宮殿に昇ってきたのだ。ならば、降りれば外に出られるのではないだろうか。

 そう考えた私が、羽を羽ばたかせて降りていこうとすると、一人の天使が私の下に立ちはだかった。


「駄目です! あなたはすでに天使なのです! かろうじて人間の魂があった先程までとは異なり、本物の天使なのです! そんなあなたが下界に降りたら、どんなことになるか、想像がつきませんか!?」

「え。わかりませんけれど」

「天使を直視した人間に起こるのは『満足』です! 人は天使を見ると、人生に満足してしまうのです! そして、満足した人は、その命を自ら絶ってしまうのです!」

「な……そうなの? それは、大変……」


 と、私はその時、思い付いた。思い付いてしまった。


「……ふぅん。なぁるほど。要するに、天使ってのは人から欲望を失くす存在ってことだ。悪魔の誘惑から人を守るってのも、言い換えれば、人の欲望を失くすってことだもんね」


 自分で自分の言葉に納得し、大きく頷いた。


「ならば、天使と対となる悪魔は、そりゃあもちろん。人に欲望を与える存在だってことだ。で、あるならば……」


 そう。で、あるならば……。


「私の天使パワーと、日辻の悪魔パワーか拮抗し続ければ、万事解決じゃんね」


 ──


 空高く昇っていった望ちゃん。彼女の背中に伸ばした手は虚しく空を切るばかりだった。


 望ちゃんは「今度は私が会いに行くから」なんて言っていたが、そんなことは無理に決まっている。


 私には分かる。悪魔になった私には分かるのだ。


 天使とは終末だ。

 例え宗教が何でも、何を信じていても、天使による終末には抗えない。


 もし天使を直に見てしまったら、人はその人生の終わりを察し、ただ『満足』してしまうのだ。「嗚呼。自分は死んだ後、天国で安らかに眠れるのだな』と。


 よって、天使は人に姿を見せない。人の世界には降りてこない。


 だから、私は望ちゃんに会えない。


 人間たちと共に生きる悪魔な私は、望ちゃんに会うことができないのだ。


 嗚呼。また、あの絶望だ。


 あの日──望ちゃんに会わないと決め、自分が生きる意味を失ったあの日と同じ絶望だ。


 そう。私はあの日、悪魔になった。


 しかしまだ、悪魔の姿に変身をしていなかった。

 特に変身する意味もないし、変身したところで何かがどうなるわけでもないのだが、望ちゃんが立派な天使の姿をしていたのに対し、私がいつまでもコスプレでは横に立つものとして相応しくないだろうと思った。


「……私、メタモルフォーゼ」


 黒い闇が私の体を包んだ。闇の中で、私の姿は変貌していく。

 悍ましい角は、より悍ましく、より長く大きく。

 チャーミングな尻尾と羽も、より大きく変貌した。


「……」


 闇が払われ、私の姿が公になる。

 自分の姿を確認する。

 うん。しっかりと悪魔だ。悪魔のコスプレをした人間とは全然違う。

 この姿ならば、望ちゃんと対等な関係でいられるだろう。


 空を見上げ、羽を動かした。

 しかしながら、空は飛べなかった。やはり悪魔。悪魔が空に昇ることはできないのだった。


 私はいつの間にか、涙を流していた。


 この姿になり、天使と悪魔のコスプレなどではなく、本物の天使と悪魔として、本当に敵対する関係の二人になったことで、私は、望ちゃんの喪失を本当に自覚した。


「望ちゃん……」


 そう呟いたとき、私はなんとなく、心が軽くなった。

 その名前を呼んで、今度こそ確実に会うことのできない人の名前を呼んで、私は決意ができた。


「望ちゃん。私は悪魔だから、天使の望ちゃんに迎えてもらうことはできないけれど……でも、望ちゃんが感じた痛みを、私も感じたいから……」


 私はトライデントを顕現させ、その刃を自分の首にあてがった。


「じゃあね。望ちゃん……」

「あ、ちょっと待とうよ」


 ……


「何。誰。今、いいとこだったのに」

「いやすいません。でも、ちょっと、あまりにも浸り過ぎかなって」


 私に話しかけてきたのは悪魔だった。私と同じような羽をもっていた。


「命を捨てるのはやめたほうが良いですよ。そんなことしても、悪魔は死ねないですから、痛いだけですよ」

「……」

「いや、だから、浸ってる邪魔をしたのは謝りますけれどね? でも、本当に命を捨てるは良くないですから」


 そう言って、悪魔は私の前に立った。


「私、悪魔の五香(ごこう)と申します」

「……飯山満日辻」

「そうですか」


 悪魔の五香は「はぁ」と溜息を付いた。


「それにしても、やっぱり悪魔ですよねぇ。こんだけの欲望を抱くのは。ほら、私たち悪魔って欲望の位置が分かるじゃないですか。だから私はここに来たんですけれど、やっぱり、悪魔でしたね〜。分かっていましたけれど」


 悪魔の五香は肩を落としながら聞いてきた。


「そんだけの欲望を溜め込むとは、日辻さんは相当古参の悪魔なのですか」


 日辻はその質問に、首を傾げながら答えた。


「いや、悪魔になったのは数年前だけれど……」


 その言葉に、悪魔の五香は驚いた顔をした。


「え! たった数年でこれだけの欲望を溜め込むって、あなたは一体、何を望んでいるんです!? 世界征服を望んだやつだって、こんな欲望の強さはしていませんでしたけれど!?」


 私の欲望……?


 そんなもの、決まっている。


 望ちゃんに会いたい。


 天使の海神望に会って、親友を続けたい!


「ねぇ」


 私は悪魔の五香に尋ねた。


「悪魔である私の願いを叶えるにはどうしたらいいの?」


 悪魔の五香は「そんなの決まっているじゃないですか」と不敵に笑った。


「努力するんですよ」

「……え?」


 私は口をぽかんと開けて悪魔の五香を見た。悪魔の五香は「あ、もしかして」と私を馬鹿にするような笑みを浮かべた。


「もしかして、悪魔の願いも別の悪魔が叶えてくれるだなんて思っていましたぁ? あわよくば、私にあなたの願いを叶えさせようとしてましたぁ?」


 図星であった。


「ざぁ~んねん!(笑) 悪魔は悪魔の願いを叶えることができませぇ~ん! 悪魔が叶えることができるのは、人間の願いだけでぇ~す!」

「アナタ、嫌い」

「あ、ごめんなさい。悪魔なもんで、つい……」


 天使の五香は頭を下げた。つい、で、そんなに煽り散らすって、どんだけ性格歪んでるんだよ。


 悪魔の五香は「ま、とにかく」と話を戻した。


「悪魔が願いを叶えるには、とにもかくにも努力するしかないのです。笑えますよね。他人の願いは叶えられるくせに、自分の願いは叶えられないのですから。だから、悪魔には大きな欲望を抱えているやつが多いんですよね」

「……努力って、具体的にどんなことをすればいいの?」

「知りませんよ。あなたの願いの内容すら知らないのに、どんな努力をすればいいかなんて分かるわけがないじゃないですか」

「私の願いは、天使と親友になること」


 悪魔の五香は言った。


「諦めろ」


 ──


 去り際、悪魔の五香は言った。


「ま、いつか叶えられるんじゃないですかね。ほら、人は叶えられることしか望めないって言いますしね。ま、私たちは悪魔ですけれど(笑)」


 人は叶えられることしか望めない、か。


 ならば、諦めるにはまだ早いな。だって、私は望んでしまったんだもの。


 きっと、どこかに、天使になってしまった望ちゃんと会う手段がある。きっと、歴史上の誰か一人くらいは、天使に会うことに成功していてもおかしくない。


 私は、私の中の欲望が大きく膨らんでいくのを感じた。

 ああ、なんだか今の私は、とっても悪魔らしい。

 胸の中で絶望が弾けた。


 なるほど、そうか。


 私が悪魔に変身できるようになったのは絶望してしまったからだけれど、もし、人の願いを叶えられる悪魔自身が誰よりも大きな願いを抱いている存在なのだとしたら、絶望した人間が悪魔になるのはとても納得感がある。


 絶望を覆すという激しく苛烈な願いをもつ生き物、それが悪魔なのだ。


「望ちゃんは待っててと言っていたけれど」


 そう言っていたけれど


「私が会いに行っちゃいけない理由はないよね!」


 また、前みたいに。


「よっしゃ! やる気出てきた! 絶望最高! 覆してやるぞ! 待ってろ望ちゃん!」


 私は空に拳を突き上げた。


 ──


 私の天使パワーと日辻の悪魔パワーが拮抗すれば、天使の欲望を失くす力で満足してしまった人々に、もう一度欲望を抱かせることができて、万事解決である。

 と、そんな強引な解決方法を思いついた私だが、しかしながら、それを実行するのは些かリスクが多きすぎるのではと、踏ん切りがつかずにいた。


 なぜならば、まず一つ目の要因として、私がどうやら強すぎるらしいというのがあった。


 私は宮殿中の天使が総攻撃しても傷一つつかないハイパー天使みたいなのだ。そんな私の天使パワーと拮抗するほどの悪魔パワーを、日辻は有しているのだろうか。


 もし、日辻の悪魔パワーが足りなかった場合、人々は満足してしまい、自ら命を絶ってしまう。それだけは絶対に嫌だ。後味が悪くなってしまう。

 誰一人犠牲を出さずに、目標を達成したい。


 ……。

 …………。


 ちょ。ちょっと待ってよ。


 そんな、そんな幸せなことを考えちゃって、私ったら。

 そんなことがあったら、そりゃあ幸せすぎて、全部ハッピーエンドなんだけど、でも、そんなことってさぁ。


「え~。 もし、悪魔パワーっていうのが、悪魔の抱えた絶望の量に比例するのだとしてぇ……」


 ありえなくはない話だ。なぜならば、天使パワーは、天使が抱えた希望の量に比例するからだ。


「それでぇ~。もし、日辻が私を失ったことで、私の希望と同じパワーを生み出すほどの絶望を感じてくれていたのだとしたらぁ……」


 もし、そんなことがあったら。


「万事解決だしぃ……。日辻が私のこと大好きってことになっちゃうんだよねぇ~」


 ……。

 …………。


 え? いや、それあるんじゃね?


 ってか、あるじゃん。それしかないじゃん。


 え? いや、そうだよね? だって。……だって。


 日辻が私を大好きなんて、そんなの当たり前すぎるじゃんね!?


「やったぁ! 万事解決だぁ!」


 私はそう言って、急激な降下を始めた。


「ま、待ちなさい!!!!!」


 背後で天使たちが絶叫し、私に矢を飛ばしているが、そんなものは私に届かなかった。日辻が私のことを大好きであるという事実(妄想)に気付いてしまった私を止めることなどできないのだ。


「あ、あなたがやろうとしていることは人類に満足を与えること! 即ち、人類の進歩に終止符を打つこと! 重ねて即ち、人類の滅亡なのですよ! あなたは事の重大さが分かっているのですかぁ!!!!!!」

「大丈夫ですよ! そんなことにはなりませんから! だって、私のことを大好きすぎる悪魔がいるんですから!」

「な、なにを言っているのか分からないですー!!!!!」


 背後の天使たちの絶叫が遠くなっていく。

 天使たちに対し、申し訳ないという気持ちは多少ある。めっちゃ迷惑な新人でごめんなさい。でも、あなた方が心配しているようなことには、本当にならないし、ちょっと大波乱が起きるかもしれないけれど、絶対元通りになるから安心していてほしい。


 なぜならば、私と日辻だから。


 私と日辻は愛し合っているから。


 ──


 少女の名前は初富(はつとみ)純恋(すみれ)。つい最近天使になった。もちろん、格好だけ。天使らしいことは何もできない。


 初富純恋には先輩がいた。先輩の名前は、薬園台(やくえんだい)ニコ。元気いっぱいのギャルだが、初富純恋が育てている学校の花壇の花々を褒めてくれた優しい先輩だった。


 初富純恋は、薬円台ニコに恋をしていた。自分のような何のとりえもないような人間が、薬円台ニコのようなキラキラした人間に恋をしていいはずがなかったのだけれど、おこがましくもがっつり恋心を抱いていた。


 しかし、その恋が実ることはもうない。なぜならば、薬円台ニコが悪魔だからだ。


 天使と悪魔の戦争。それは突然終結を迎えた。何が恐ろしく、何が憎かったのか、今では微塵も思い出せない。そんでもって、なんか良く分かんないけれど、戦争で命を落とした人々がみんな生き返ったから、なんとなくハッピーエンドで最高って感じだった。


 しかし、天使と悪魔の間には、まだ少しだけ壁がある。昔みたいに完全に住む場所を分けて天使の領土、悪魔の領土と分けることはなくなったけれど、それでもなんとなく、まだ、天使と悪魔が恋愛をするのはおかしいというような風潮があった。


 しかし、初富純恋はそれでも、薬円台ニコのことが好きだった。


 この恋が叶うことがないと分かっていても、それでも大好きだった。


 もし、これが叶わぬ恋であるのならば、私は一生、この思いを胸に秘めて生きていこう。そんなことを思っていた。


 そんなある日。初富純恋は天使を見た。


 突然空から現れた天使だ。


 それを見た初富純恋は──


「嗚呼。満足しました……」


 そう呟いて、澱みのない動作でバッグの中のペンを取り出すと、自分の喉に突き立て──

 ──ようとしたとき、初富純恋は悪魔を見た。血の底から噴火するかのように溢れだした闇を纏う悪魔だ。


 初富純恋はペンをバッグにしまった。そして、自分が自分の命を捨てそうになっていた事実に震えた。一体、何が起こったんだ。天使を見た瞬間、全てに満足して、信じられないほどの多幸感に包まれて──


 ──かと思ったらふつふつと欲望があふれだしてきて。

 突然甘いものが食べたくなるあの感覚を、数千倍にもしたような感じの欲望が溢れて──もう、それをしたくてしたくて仕方なくて、もうどうにかなってしまいそうな感じ。


 ああ、薬円台ニコ先輩!!!


 初富純恋が周囲を見れば、待ちゆく人々も思わずその場に立ち止まり、凶器を手に持ったり、床に落としたりしながら、戸惑い、望み、もう、どうにかなってしまいそうで、混乱していた。


 感情が行き来しすぎてバグりそうだった。


 多幸感に包まれて死んでもいい気分になったと思ったら、欲望が溢れてきて死んでいられるか! って気分になる。


 これは一体、何が起こっているのか……。


 ──


 私が下界に降臨(笑)すると、人々が一心に私を見つめてくるのが分かった。私の存在感はとんでもないらしく、全ての人間が私を見つめてきた。


 やめてよ恥ずかしいな。私、天使になってから守備力の低そうな白い薄手の布を羽織ってるだけだから、そんなに見つめられたら恥ずかしいよ。


 え、透けてないよね? みんな、私の神聖さに目を奪われてるんじゃなくて、私が露出狂みたいな恰好で降臨してきたから見つめてるのか?


 と、まあ、冗談はそのくらいにして。


 私を見つめていた人々が、柔らかく微笑み、そして、おもむろに凶器を手にした。その凶器はペンだったり、スプーンだったり、人々が日常生活で使用するありふれたものだった。


 人々はそれぞれに「満足だ」と呟くと、私を見つめながら微笑んで、その凶器を喉に突き立てようとした。


 このままではみんなが死んでしまう。私が降臨したせいで、人類が一人残らず命を捨ててしまう。


 しかしながら、私は全く心配していなかった。


 だって、感じていたから。地の底から這いあがってくる悪魔の欲望を、ひしひしと感じていたから。


 欲望は膨れ上がり、そして、地表に噴出した。


 人々が正気を取り戻した。


「嗚呼!」


 やっぱり、心配する必要はなかったね!


 噴出する欲望の中心にいる人物が誰かなんて、もう説明しなくても分かるでしょう?

 欲望が物語った。


「私の望みは、天使の望ちゃんを、悪魔である私のものにすること。もう一生離さないこと」


 日辻~! 私のこと大好きじゃん~!


 私は大きく手を振った。


「日辻~! 会いに来たよぉ~!」

「違うよ望ちゃん。私が望ちゃんに会いに来たんだよ」

「超どっちでもいい!」


 私の中の希望がバチバチと弾け、広がっていく。

 ああダメ。日辻が私のことを愛しているという事実が、私の希望を膨らませていく!


 人々がまた、私の神聖さにあてられて正気を失い、命を捨てようとした。


「うえ~! 希望が止まらないよぉ~!」


 このまま希望が膨らみ始めたら、人類が滅亡してしまう!

 もっと、日辻に強くなってもらわないと! しかし、どうしたら日辻は強くなってくれるのか!


 悪魔の強さの根源は絶望だ。ならば、日辻に絶望を与えてやればいい。


「日辻!」


 私は叫んだ。


「日辻が私と同じくらい強くなってくれないと、人類が私のせいで死んじゃうよ! そうなったら、私、自責の念で死にたくなっちゃうかもしれない!」


 日辻の体がビクリと震えた。


「だって、私のせいで人類が滅んじゃうんだよ! 戦争どころの話じゃない! みんなだよ! 戦争に参加してない子供たちまで、全員が私のせいで死んじゃうんだ! 私、そんなの耐えられない! もしそうなったら私、日辻の目の前で、日辻を睨みながら死んでやるんだからぁ!」


 日辻の目に涙がたまっているのが見えた。


「し、し」


 日辻は嗚咽を漏らしながら叫んだ。


「し、死ぬとか言わないでよぉ!!!!! やだよぉ! 死なないでよぉぉぉお!!!!!!!!!」


 日辻の絶望が膨れ上がる。あ、これヤバい。逆に私が押されているかも。

 そういえば、日辻が私に勝っちゃった場合、世界はどうなるのだろうか。人類が滅亡することはないのだろうけれど、きっと良くないことが起こるのだろう。

 人々が欲望に塗れ、理性のない世界が出来上がるとか? 

 うわ、それありそうだ。ってか、漫画とかでよく見る展開だ。


 それはダメだ。だって、戦争より酷い結果になりそうだもん。

 結果、人類の滅亡につながっちゃいそうだもん。


 そうであるならば、私も日辻に押されてばっかじゃいられない。私ももっと、希望を膨らませて、日辻に対抗しなければ!


「キャー! 日辻日辻日辻日辻日辻日辻!!!!」


 私が想像するのは、これからの世界。日辻と私が楽しく平和に、いちゃいちゃラブラブする世界だ。


 私と日辻は小さなアパートの一室を借りるんだ。そして、小さな部屋には似合わないダブルベッドを買って、二人に寝転ぶんだ。


 添い寝して、互いの目を見つめあって、ちょっと恥ずかしくなって照れ笑い。それから、私は日辻の顎に手を添える。すると、日辻が恥ずかしそうに「えー」と小さくつぶやいてから、目を閉じる。私はそんな日辻にキスをして、日辻に覆いかぶさり、それから私たちは……


「キャー!!! 希望希望希望希望希望!!!」


 希望っていうか、性欲じゃね?


 否定しないどころか、肯定する。私にとって、日辻に対する性欲こそが希望なのだ。


 何言ってんだ私。


「うう。望ちゃん! もっと希望を抑えてよぉ! このままじゃ望ちゃんが死んじゃうよぉ!」


 日辻の絶望が膨れ上がる。私の希望も膨れ上がる。

 どこまで行くんだ、この競争は。


 私たちの希望と絶望は均衡を保っていた。人類は正気を取り戻し、はるか上空で行われている人知を超えた争いをただ茫然と眺めていた。


 まるで時が止まったかのように、人類の活動が完全に止まっていた。

 この世界で動いているのは、二人の少女だけ。

 元人間で、天使と悪魔な、ただ女子高生。

 飯山満日辻と、海神望。


「ねえ日辻! 私たち、すごいとこまで来たね!」


 私が笑って話しかけると、日辻は涙を流し続けながら答えた。


「私たちは、死ぬとか生きるとか、そんなことを考えなくてもいい、平凡な人間だったのに!」

「本当にびっくりだ! 私たち、今、世界の運命を背負っているんだよ!」

「荷が重いよ! 私が背中に背負うのは、望ちゃんだけで十分だよ!」

「わあ! 日辻!」


 私は日辻に大きく笑って言った。


「じゃあさ! もう、行くとこまで行っちゃおうか!」

「それって、どこまで!?」

「天使と悪魔の上まで! 神とか魔王とか呼ばれる、そんなところまで!」


 そう叫ぶと私は、さらに希望を爆発させた。


「ついてきなよ日辻! 私を独りにしないでよね!」

「待って! 絶対についていくから、私を独りにしないでよ!」


 日辻の絶望も爆発した。


 ああ、これは、キた。


 キて、キて、キて、クる!!!!!!!!!!!!


「「私! メタモルフォーゼ!」」


 ──


 そして、世界は元に戻った。


 適当だなってか? 仕方ないじゃん。だって、実際もとに戻ったんだから。


 人々は、あの日見た超常の争いを、幻として処理しようと必死だ。


「いやいやまさか、そんなこと起こるわけないじゃん。だって、そんな世界の終わりみたいなことが起こったら、私たちが生きてるはずないもの。ねえ、初富ちゃん?」

「そうですね。私たちは生きていますから、きっと、天使と悪魔が争ったなんて、そんなこと、幻だったに決まっていますよ。集団幻覚ってやつですよね。薬円台先輩」


 人々はそんな風に、理解できない事柄を拒み、あの日をなかったことにしたのだった。


 ──


「それでは、天魔会議を始めます。今日の議題は、今日も今日とて、魔王と神の排除方法について」

「はいはい。話し合うだけ無駄。もう諦めようよ。高根ちゃん。あいつらを排除して、天使と悪魔をあるべき姿に戻すなんて、そんなの無理無理。だって、どうやっても勝てないもん」

「五香さん。悪魔であるあなたが欲望も抱かず、そのような自堕落な生活を送っていて良いのですか」


 天使の高根が、悪魔の五香をしかりつけた。それに対し、五香は言った。


「高根ちゃん。こんな言葉を知っているかな。『人は叶えられることしか望めない』。神と魔王を倒そうなんて望みを、私は抱くことができないね」


 ──


「ねえ。望ちゃん」

「なあに? 日辻」

「これは一体どういう状況なのかな」


 世界の端。私は楽園を作った。そして、楽園の中にアパートを自作し、ダブルベッドを自作し、日辻と添い寝している。


「どういう状況も何も。私と日辻はこれからずっと一緒にいるんだから、こういう状況になることもあるでしょ」

「いや、ないと思う。だって、私と望ちゃんは親友だもん。ダブルベッドで添い寝するのは恋人の距離なんだよ」

「別にいいじゃん。日辻は変なところでこだわるよね」

「これはこだわりじゃなく、一般的な意見だと思うけれど」

「なに? 日辻は私と添い寝したくないの?」

「したくないとは言ってないじゃん。でも、添い寝にしても距離が近づぎるよ」

「もう、うるさいな」


 私は日辻の顎に手を添えた。


「おい。何をしようとしている」

「何って。キスだけれど」

「だから、私たちはあくまで親友だから、キスはしな──」

「ん-」


 日辻の唇を強引に奪った。


「ッん! んー! ……」


 日辻は諦めたように、されるがままになった。私はそんな日辻の舌に自分の舌を絡ませた。


「んー」


 ──


 と、言うことで。


 ①人類が天使と悪魔に分けられてしまい、


 ②天使と悪魔が戦争を始め、


 ③私が本物の天使となり、


 ④戦争を終わらせたけれど、


 ⑤私は死んでおり、


 ⑥天使でありながら、悪魔な日辻と仲良くしたくなり、


 ⑦悪魔な日辻と仲良くするために悪魔な日辻を信じ切り、


 ⑧悪魔の日辻が私の期待に答えて見せて、


 ⑨もう行けるとこまで行っちゃおうかということになり、


 ⑩神と魔王になり、好き勝手しちゃう物語──


 ──だったわけだけれども、改めて見ても意味分からないな。


 しかし、これは本当にあった話。


 私が本当に経験した話。


 ほんと、現実って何があるか分からない。


 分からないけれど、でも、そんなことはどうでもいいんだよぉ! 


 だって、私は日辻と共に生きる未来を手に入れたのだから!


 終わり良ければ全て良しってことで、とっても乱雑な物語だったけれど、どうか許してくれませんか。


 だめ? そっか。


 じゃあ、私が自分を自分で許すことにする。なぜならば、私は神になったから。


 さあ許してくれない皆さんは、そこでボンヤリとこの物語の怒涛な不可解さに圧倒されていなさい。


 私は日辻とイチャイチャしてくるので。


 私が生きる上で、一番大切なもののためならば、姿形も、他人も、思想も、何も関係ない。

 好きなようにやれ。

 思うままにやれ。

 これは、神となった私の言葉だ。信じていいぜ。悩める子羊の諸君!


「ひっつじぃ〜! 今日も愛してる〜!」

「ちょ! 望! 性格変わりすぎだよ!」

ありがとうございました!

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