表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強転生者パーティがエンドコンテンツの島に挑む!  作者: 北杜康子
序章 最強パーティ結成!目指せ「エンド島」
8/9

序章/第8話 旅の終わり

「ちょっと待ってくれ!……何年も旅をしてるってことはよぉ!」


 レマが、焦ったように立ち上がる。


「あんた、結構オジン?歳ちけーと思ってたんだけど」

「話を聞いて、最初の一声がそれか!おぬし、人を見れば年齢で判断して、ケンカ売るか、年下に威張ろうとするか以外の関わり方をしらんのかい!」

「うるせー!目上の人は敬うもんだろーがクソジジイ!!」


 眠いと言っていたイオアも、最後まで真剣に話を聞いてくれていた。


「歳は35だよ。『美肌効果(アンチエイジング)』のスキルで肌つやは良いから若く見られるね」

「んだよ!そのスキル、ずるくねえ!?」


「あ、ねみいわ。寝る。夜更かしは美容の大敵だからな」

 レマは、突然そう言うとサッとベッドに潜り込んでしまった。

 それから、ひょっこりと布団から顔を出す。

「アレシスのおっさん。いくら俺がエロいからって、手ぇ出すなよ。玉、千切るぞ」

「しないよ、そんなこと……」


「それからよ……俺むずかしーことわかんねえけど、何かやるならとことんだぜ。燃え尽きるまで走り続けて灰になれってな。おやすみ」


 イオアも寝床に入ると電池が切れたように眠ってしまう。無理してくれていたみたいだ。


「おやすみ、みんな」


 こうして、僕の新しいパーティ最初の夜は更けていった。


 島の中央に向けて歩みを進めると、景色は歓楽街の色が薄れて、ロール島本来の漁村の雰囲気があらわれ始める。


「ふむ、ギルドの建物はどのあたりかの」

 少し坂になった道を歩く。平屋の屋根を日の光が照らすのどかな景色の中、僕らは少し道に迷っていた。

「まかせとけよ」


 何かの荷袋を運ぶ男性を見つけるとレマは駆け寄っていく。


「そこのお兄さぁん。私、道に迷ってしまいまして〜、冒険者ギルドを探しているのですけど〜」

 前かがみで胸を強調しながら、しなを作って話しかけるレナ。男性はなんともわかりやすく鼻の下を伸ばしている。


「おう、あっちだってよ」

「気持ち悪いのお」

「うるせえ。インポジジイには、このみ・りょ・く♡はわかんねえよ」


 レマの魅力はともかく、僕らはロール島冒険者ギルドに到着した。


 木造の古い建物、その入口の横に看板があり、『←エンド島入島受付はこちら』と書かれている。案内の先には比較的新しいコンクリート製の小さな小屋が建てられていた。


「気を抜くんじゃないぞ」

 と、イオア。

「何がだよ?お役所で手続きかなんかするだけじゃねーのか」

 イオアは呆れたように頭を振る。


「考えてもみろ。エンド島とは、まさにこの世界の頂点じゃ。誰にでも門戸を開いておるはずもあるまいて。あの小屋の扉をくぐった瞬間から『試験』が始まっていてもおかしくはない」


 僕はゴクリと息を呑む。そうだ、島に入る資格を得ることが出来なければ、旅は足止め。ここでゲームオーバーになってしまうのだ……。


「でもよお、あれ見ろよ」


 レマは、小屋の入り口に掲げられた看板を指差す。


  エンド島 入島希望者の方へ


 エンド島は、どなたでも入島可能です。


 入島のための試験等は一切ありません。


 自身の力を誇示するような行為は迷惑になりますので、お止めください。


    エンド島 入島案内所


「だってよ。やっぱいるんだなあ、チョーシぶっこいて迷惑かけるアホな奴がさあ」

「ぐぬぬ。おぬしに諭されると腹が立つわ……!」


 ほっと胸を撫で下ろして案内所に入ると、扉に付いていたベルが、レトロ喫茶のようにカラコロと鳴る。


「はーい」


 事務室の奥の方からパタパタとスリッパを鳴らして現れたのは、事務服を着た大魔王ブロシアだった。


 ……見間違えるわけもない。奴の体の左半身はあの時と同じふざけた道化の化粧をし、盛り上がった大きな傷跡を挟んで、右半身には、本来灰色の魔族の肌色と違うレマやイオアと同じ肌の色をした素顔が並ぶ、ハーフ・アンド・ハーフのピザのようになっていた。


「入島希望者の方ですね!わあ、3人同時は珍しいですね!これは忙しくなります……」


 ブロシアの営業スマイルが一気に青ざめていく。


「ギャ!ゆ……勇者アレシア!」


 膝を抱え蹲るブロシア。ついにこの時が来た。


 僕は奴の首根っこを掴むと、扉の外に放り出した。広い場所で思い切り剣を振り、斬り殺すためだ。


「や、やめて!殺さないで!!いやだあ!」


 泣き叫ぶブロシア。良かったな、命乞いが出来て。ティアは理不尽を訴える間もなく死んだんだ。


「おい、アレシア!少し待つのじゃ!様子がおかしいぞ!!」


 イオアの制止する声。何故止める。これですべてが終わるというのに。僕は剣を抜き、振り下ろした。


 ガンッという抵抗。ブロシアはまだ生きている。魔法の結界が奴を護っていた。イオアの仕業だ。だが、こんな即席の結界は全力の剣撃を持って破壊するだけ。


 次の瞬間、頬に激しい痛みを感じた。レマの拳で、僕は殴り倒されたようだ。

「邪魔をするな!!!」

 痛みを、ダメージを、受けたのは、この世界に来て初めてだった。僕は、切れた口内を治癒しながら立ち上がる。


「邪魔をするなら、二人とも、ただじゃすまさない…!!」


「仲間の話を聞けよ!リーダー!!」


 砕けた右手から血を流したレマが、真剣な顔で僕を見ていた。


 僕の一定ダメージ無効化を上回るためには、凄まじい負荷が必要だったに違いない。その手の痛みは計り知れないが、レマは、自身の苦痛ではなく、僕に向き合ってくれていた。


 僕は剣を鞘に収める。

「ごめん…」「気にすんなよ」

 レマに治癒の魔法をかけていると、騒ぎを聞き付けて、ギルドの方から冒険者が集まってくる。


「大丈夫ですよー!なんでもないですー!さあ、皆さんご案内しますので、中へどうぞー!」


 ブロシアが場を取りなすと、冒険者はギルドに戻っていく。僕らはブロシアに続いて案内所の中に入っていった。


「あはは…お茶でも淹れましょうか…」

 ブロシアが言う。


「茶はよい。事情があるんじゃろ。話せ」

「下手な真似したら、今度は俺が殺す」


 二人がブロシアを睨む。多分、怒らせたらこの二人のほうが怖い。


 ……100年前、大魔王バスモスには一つの計画があった。


 それは永遠の命を手にする事。


 自身の肉体が老いに滅びたのち、代替となる肉体を作り出すこと。


 バスモス城の地下深く、魔族の種子が埋められ、バスモスの魔力が注ぎ込まれた。強大な力を持った新たな肉体を生み出すために。


 その後すぐ計画は頓挫する。帝国軍、黒騎士によって、バスモスは討ち滅ぼされたのだ。


 だが、バスモスの魂は滅びていなかった。


 霊魂となって逃げ延びたバスモスは、地下深く、未だ人としての形もない種子に自身を宿らせた。


 魔王の種子は、地脈を利用し、僅かな魔力を持って魔孔地帯に信号を送った。

 それを合図に魔孔地帯の地下の魔物は、バスモス城に近い地脈を目指して動き出す。

 魔物が撃退されても、魔物の死体に残った魔力が地脈を通じて種子に流れ込んでいく。


 それを100年続け、魔力を蓄えに蓄え、ついに種子は『大魔王ブロシア』として地上に顕現したのだった。


 大魔王ブロシアは、この100年における人類の動向を探るべく、サーカスに扮し大陸を巡り、新たな魔物の国を作る策を練った。

 古い城は棄てるが、地質的に都合の良い地ではあったため、城の近くの街を新たな拠点とする事とし、魔孔地帯より100万の魔物を下僕とするために呼び寄せた。


 そこに現れたのは勇者アレシス。100万の魔物はまたたく間に打ち倒され、大魔王ブロシアもまた、一刀のもとに斬り伏せられた。


 そして、大魔王ブロシアは真なる聖光によって浄化され、ここに『大魔王バスモス』は完全に滅びたのだった。


「で、バスモスの魂が滅んで、ワタクシ本来の自分を取り戻したのは良いのですが、体は真っ二つ。痛いし怖いしで、ほうほうの体で、身一つならぬ身半分で逃げ出しました。


 幸い体は極端にしぶとく作られていたようで、右半身はそのうち、生えてきたのですが……魔力はスカスカ。その影響で肌の色は片側だけ違うし、左半身はピエロの化粧が焼きついて、実に目を引く姿になってしまい……


 風の便りに、勇者アレシスが、逃げた大魔王ブロシアを、それはもう死に物狂いで探しているという噂もききまして、あの日あの時、サーカス広場にいた魔物をザクザク切り倒す姿が脳裏に浮かび、ワタクシ怖くて怖くて……


 ワタクシこの通りとても目立つ姿で、しかも相手はあの勇者アレシス、何処へ行っても逃げ場はない。そうなるともう、『エンド島』へ逃げるしかないと。


 ですが、あの地へ居座ることは、ワタクシには余りにも荷が重すぎました。とてもとても……


 そこで仕方なく、このロール島に戻りまして、なんとか職を得て、ほそぼそとやってきたわけであります…」


 恐ろしいことだ。今の話が本当なら、二人が居なければ、罪のない人を手にかけていたかも知れない。


「魔力も殺気もあらんかったからの。そういうことじゃったか」


「でもよ、おかしくねえか」

 いまいち腑に落ちないような顔でレマが言う。


「なんじゃ」

「いや、おかしいだろ」


「アレシスのおっさんは、バスモスってのを倒したら、元の世界で生き返られるんだろ。……倒したじゃねえか」



 ハッとした。確かに僕はバスモスを倒している。ブロシアが嘘をついてるとも思えない。となると、考えられるのは、あのダ女神だ。


 僕は収納魔法からスマホを取り出す。その瞬間、ビデオ通話の着信。


 送信元は『ティア』だ。


 震える手で画面をスワイプすると、あの頃と同じティアの笑顔がそこにあった。


「あ、アレシス?すごい、これ。向こうにも映ってるの?もしもーし」


 ティアが生きている。


「あのサーカスの時、なんか私死んじゃったらしいんだけど、生き返ったみたい。よくわかんないけど」


 ティアは泥まみれで、時折、口に入った土をペッペッと吐き出しながら話す。


 その隣ではダ女神ルーシアがティアの肩を抱いてピースサインをしていた。


「いえーい、荒井くんみてる〜!荒井くんの大事のお友達、私が勝手に墓を掘り起こして生き返らせちゃいました〜!!」


 たった今、慌てて掘り起こしたのか、ルーシアもまた泥まみれだ。


「で、荒井の良い子ちゃんポイントを勝手に使って生き返らせたから、荒井はもう元の世界には戻れなくなっちゃったんだけど。ま、別に良いよね。そっちのが嬉しいっしょ。実はその方が手続きが楽って言うかさ〜」


 僕はといえば、崩れ落ちるように膝を付き、声を上げて泣くことしか出来ないのだった。


「大丈夫アレシス?落ち着いた?」

 さっきまで死んでいたティアが、僕の心配をしてくれている。


「まさかこんなに喜んで貰えるなんて……」


 自分はテキトーなことをしただけなのに、と、いうような顔で女神ルーシアは言う。


「ありがとうございます、女神様……」

「おーおー、私の偉大さがわかったみたいね!」


 フフンと鼻を鳴らす女神ルーシア。この気安い態度も、愚鈍にも思える振る舞いも、人の前に現臨した神の、その御心の薄皮でしかないのだろう。つまり僕は、初めから最後まで導かれし勇者だったのだ。


「これで私の仕事もおしまいってわけ!うっし!帰ってビールね。じゃあ、通話きるけど、ティアちゃんもバイバイ言っときなよ!」

 女神様に促されティアは手を振る。

「じゃあねアレシス。もう……こっちには戻って来ないんでしょ」


「そんなこと……!」


「いいえ、わかっているの。あなたを待っている場所があるのよね」

「ティア……」


「ありがとう…さよなら私の勇者様。あなたのこと、好きだったわ……」

 ティアは、唇を尖らせキスをする素振りをする。

 その姿を映したのが最後、とうの昔に充電の切れたスマホは、どう操作しても返事を返さないただの板切れに戻ってしまった。


「アレシスのおっさんも、隅におけねえなあ」

「これで、よかったのかの」


 勇者アレシスの旅は終わった。


 目的を失い、ただ何者でもない自身がそこにあるだけだった。今はもう、立ち止まることも出来る。振り返ることも出来る。


 だが、進むことも出来る。


「行こう、エンド島へ」


 僕の旅が今、終わったから始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ