序章/第5話 ケンカ最強!不良少年な俺が、悪役令嬢に転生?でも俺の方がもっと"ワル"だぜ!
レーマロッテヤー・インデン・アージョイ。加地葉久朗は、顔の泥パックを剥がしながら話しだす。
「え?俺は、イオ爺みたいに、そんな色々あったわけじゃねえんだわ」
「イオ爺て、おぬしのお……」
「俺は、まあ、どこにでもいる、ちょっとだけ不良な健康優良学生でよ。不良つっても、休み時間にベンジョでヤニ吸ったり、オタッキーみたいな後輩を舎弟にしてパシらせたり、他校の生徒とガンくれたりとばしたりケンカしたり、そいつともダチになってバイクでかっ飛ばしたり、ムカつくセンコーの愛車をベコベコにしたり、クソなセンコーが仮設トイレ使ってるのをひっくり返してクソ塗れにしたり、スジモンの事務所にダンプカーで突っ込んだりしたくらいでよ」
「日本ではそれが普通なのかの?」
「んなわけないでしょ!」
「で、あるとき、敵対してた暴走族に、ダチと二人で囲まれちまったってわけさ」
「相手は何十人いたか、鉄パイプにナイフまで持ってるやつまでいてよ。流石の俺もやべえって思ったけど、まあダチと二人でやれば怖くねえ。最後の方は足ガクガクだったけど、どいつもこいつもぶっ飛ばして、残るは族のヘッド一人ってわけ」
「ビビってるそいつに向かって、残るはてめーだけだ、イモ引くんじゃねえぞって胸ぐら掴んでやったら……グサリよ」
レマは、まるで痛みを思い出したかのように脇腹を押さえる。
「そいつに刺されたんじゃな」
「いや、刺したのはダチだったよ」
「痛え、つうか熱いつうか、もう訳がわかんなくてよ、なんでだよって思ってるうちに意識が遠くなって……」
「気が付くと俺は、レマになってた」
「っても、初めは何もわかんねえ。ただ目の前にジンガイみたいな髪の色した女がナイフを握りしめて立ってて、なんでなんで…って震えてんだよ」
「大丈夫かよお前、って声かけたら逃げ出しちまってよ。まったくわけがわかんねえ」
「あとになって色々わかったんだ。ここは日本とは別の世界で、今いるのはボンボンとお嬢様が通う魔法の学校。俺は元貴族で大金持ちの家の一人娘。で、このレマってズベ公、まあ今は俺のことなんだが、こいつが酷えヤツでよ。気の弱そうなやつや気に入らないやつを、金持ちであることを笠に着て、取り巻きも使ってネチネチ虐めてたってわけ」
「で、とうとう我慢できなくなったやつに腹をナイフでグサリ……と刺された筈が、何故かそれが無いことになって、俺がレマになっちまったって話」
「相変わらず訳はわからねえが、そうなっちまったもんはしょうがねえ。俺はパツキンでスイカップの麗しきご令嬢としてやっていくしか無くなったんだ」
「突然そんなことになって、俺の生活は大きく変わっちまった。休み時間にベンジョで薬草吸ったり、優秀だから入学出来たビンボー人の後輩を舎弟にしてパシらせたり、他校の生徒とガンくれたりとばしたりケンカしたり、そいつともダチになって魔法の箒に乗ってかっ飛ばしたり、ムカつくセンコーの愛馬の毛を剃って落書きしたり、クソなセンコーを頭から肥溜めにブチ込んだり、ドラゴンをボコボコにして、そのドラゴンでスジモンの事務所に突っ込んだり……」
「一緒じゃ!なんもかわっとらん!!」
レマは、わりぃ一本良いか?と懐からシガーケースを取り出して紙巻きタバコに火を付ける。あたりに薔薇とラベンダーの香りが漂う。
「はぁ、やっぱ普通のヤニが吸いてえ。シケモクでもいいから、どっかに落ちてねえかなあ」
「この世界にはないもんね、タバコ」
ハーブは静かな夜の香りを放ち終え灰に変わり、吸い殻は携帯灰皿にしまわれた。
「魔法なんてよくわかんねえから、体をムキムキにする感じのやつだけ鍛えまくったら試験とかはなんとかなって、で、ガッコはちゃんと卒業できたんだ。……でさ、やっぱこっちのガッコ来て、色んなことがあって、色んな奴とケンカしたりダチになったりしてよ、改めて思ったんだ。アキラ、あいつ、今頃辛えだろうなって」
「あいつが、なんで俺をハジこうとしたかは今もわかんねえ。でも俺とバカやってゲラゲラ笑ってたあいつがワケもなく、んなことするはずがねー」
「俺も最初は恨んだよ。恨んで恨んで、顔面腫れ上がるまでぶん殴って、逆立ち裸踊りの写真をガッコにばら撒いて、秘蔵のエロビデオ全部に朝まで生テレビを上書き録画してやるって」
「でもやっぱ……今は思うんだわ、一番辛えのはあいつなんだって」
レマは身を乗り出して叫ぶ。
「だからよ!日本に帰ってよ!俺は全然怒ってねえ!そう、あいつに言ってやりてえんだ!!」
「エンド島には、メチャクチャすげえやつがいっぱい居るんだろ。そしたら日本に帰る方法もわかるかも知れねえ」
語り終え、レマは遠い故郷を想うように、真っ赤な虹彩の目を潤ませる。
「ま、俺があの島に行くのはそれが理由だわ」
「で、アレシス。お前は?」
レマは寝物語を求めるような無邪気な顔を僕に向けた。だが、僕の顔といえば曇るばかりだ。
「すまない、僕にはみんなみたいに前向きな話は出来ないんだ……だって僕の目的は、復讐だからね」