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私の守護霊は、ハイカラさん  作者: 紅p
 一学期
7/70

今年度の技術の授業で作るものは、これだ!

 【美雪】と向かった技術室で知らされた内容で、【みどり】はデッサンを考えるのだが、

一向に浮かばなかった。

 そんな時、【みどり】は【美雪】とある約束をする。

※この話に出て来る内容は、筆者が●●年前を必死に思い出しながらのもので、

少々違う所があるかもしれませんが、大目に見てくださいね。

 美雪と向かった技術室は、壁際の机に細長い鋸が設置されている機械や、

コンセントに繋がっている水色のピストルのような物等、色々な技術道具が並べられていた。

 今年度はどんな物を作るのだろう。

 今更ながら、こういう授業ぐらいは出席しておけば良かったと、少し後悔している。

 技術室の席は二人が横並びに座れ、対面に同じ席がある。

 その席に私は美雪と並んで座った。

「ね、ねえ、勝手に座っていいの?」

「いいのいいの! 阿部ちゃんはこういう事に何も言わない先生だから!」

 技術担当の阿部とは、阿部あべ 修三しゅうぞうという名前だ。

 眼鏡を掛け、黒髪の短髪、ちょっとふくよかな体型をした丸顔で、

クリッとした目の四〇歳くらいの男性の先生だ。

 その顔同様、穏やかな性格をしていて、私は好きである。

 そして、技術室に各々が好き勝手に座り、ざわざわと話していると、

「紳士、淑女たる者。もう少し礼儀を学ばなくてはなりませんね!」

と、言ったハイカラさんが呆れていた。

 ハイカラさんとは、昨日から、私の守護霊になってくれている、私の後ろにいる、

黒髪で、日本人形のような顔をした、年齢不詳の女性の幽霊の事である。

「仕方ないよ。みんな、こういう授業を楽しみにしてるんだから」

「ところで、みどりさん。技術の授業とは何をなさる授業なのですか?」

「分からない。何か道具を使って、何かを作るんだと思うけど」

「ほう。このような変わった鋸等を使うのですね!」

 そして、ハイカラさんは壁際の机の上にある細長い鋸が設置されている機械の所に行き、

それをまじまじと見始めた。

 触れられないはずだが触っている雰囲気を出し、その行為は次々と他の道具へと移っていった。

「ちょ、ちょっと、ハイカラさん⁉ 何をしてるの?」

「みどりちゃん、どうしたの?」

「えっ⁉ な、何でもないよ‼ はは……」

 そう、ハイカラさんは私にしか見えないのだ。

 だから、ハイカラさんの奇妙な行為は私にしか見えていない。

 その奇妙な行為を見続けるのは笑いを堪えきれそうになく、辛かった。

 あと少しで私が噴き出しそうになると、

「はい。授業を始めるぞ!」

と、阿部が技術室に入って来て、私は何とか笑うのを堪えきった。

 そして、技術室は静かになり、阿部の授業が始まった。

 今年は蜜蝋で作った原型からピカピカ光っている金属の物を作るようだ。

 各自に適量の蜜蝋が渡され、大体の大きさを確かめ、

そして今日は二時間かけてデザインを考えるみたいだった。

「ほう、佐野天明鋳物さのてんみょういものですか!」

「何、それ?」

「あの眼鏡ちゃん先生が仰ったように、蜜蝋で原型を作り、それを砂型の中に埋め、

砂を温め、乾燥させて蜜蝋を溶かして出来た所に溶かした金属を注ぐのです。

 すると、蜜蝋と同じ形の金属が出来上がるのです。

 さらに、出来上がった金属を磨けばあのように輝くという訳です」

「へえ、ハイカラさんは物知りだね!」

「伊達に長生きはしておりませんでしたから」

 技術室見学を終えたハイカラさんからそう教えられた。

 そして、私はハイカラさんに聞いた。

「で、その佐野天明鋳物って、何に使われてたの?」

「そうですね……。そのような小さい物ではないのですが、茶釜や鐘等でしょうか」

「ふーん。色んな形が出来るんだね」

 等々と、ハイカラさんと心の中で話していると、デザイン用の容姿が配られてきた。

「ねえ、みどりちゃん。どんなのにする?」

「全然、思いつかないよ。美雪ちゃんはどうするの?」

「私は当然、家のマーちゃんだよ!」

 マーちゃんとは、美雪の家で飼っている牡の黒猫の事である。

 小学校低学年の時から美雪はずっと、可愛がっている。

「マーちゃんか……。元気にしてる?」

「元気、元気! 相変わらず長いけどね!」

「男の子だから大きかったよね」

「もう、おじさんって感じだよ。今度、見に来てヨ!」

 美雪にそう言われても、私はすぐに行くとは言えなかった。

 決して、嫌ではないのに。

 どうしても行くとは言えなかった。

 すると、ハイカラさんが話に入ってきた。

「私も、マーちゃんとやらを見たいです」

「ハ、ハイカラさん⁉」

「みどりちゃん、どうかした?」

 急にハイカラさんから声を掛けられ、私は動揺した。

「ハイカラさん、びっくりするじゃない‼」

「申し訳ありません。ですが、私はマーちゃん殿を見てみたいのです」

「もしかして、ハイカラさんは、猫が好きなの?」

「はい。それは、もう! ですから、お願いいたします!」

 ハイカラさんに頼まれ、私は行くと、言えなかった邪魔していた何かが消えた。

 そして、この言葉が私の口からすっと出た。

「お邪魔しても、いい?」

「いいに決まってる! じゃあ、今度の日曜日に来てヨ‼」

「そんなに急で迷惑じゃないの?」

「全然、迷惑じゃなぁーい! お母さんに言っとくから絶対に来てね‼」

 美雪は喜びのあまり、大声でそう言った。

 すると、阿部が怒鳴った。

「こらぁっ! 小松、宮本‼ 真面目にやりなさい‼

 来週までにデザインを完成させなきゃいけないんだぞ‼」

「はーい、阿部ちゃん! ごめんなさーい!」

「すみません。阿部先生」

「まあ、仲が良いのは良い事だがな。

 今日ある程度済ませておいた方が宿題が減って良いだろ、小松?」

 私は上手く言えないけれど、阿部のこういう所が好きだ。

 だから、

「はい、先生」

と、素直に言えた。

 それから私は考えたけど、佐野天明鋳物のデザインは全く浮かばなかった。

 なのに、無情にも授業終了を告げるチャイムが鳴った。

「どうしよう……。何も思いつかなかった……」

「ねえねえ、みどりちゃん、どう?」

 美雪はマーちゃんを作ると決めていたので、デザインは出来上がっていたようだった。

 が、

「美雪ちゃん……。マーちゃんって、こんなんだっけ?」

「うぅ……、ちょぉーっと、違うけど、そっくりだよ‼」

 美雪が描いたマーちゃんのデッサンは、以前見たマーちゃんとはかけ離れたものだった。

 猫と言えば、猫だけど、バランスが悪く、マーちゃんの可愛らしさは全くと言って良い程なかった。

 その考えが顔に出てしまった私を見て、美雪は剥れた。

「みどりちゃんは絵が上手だからそんな事言うんだぁ‼

 これでも一生懸命描いたんだよ‼」

「そ、そんなに私は絵は上手くないよ?」

「上手いって‼ そうだ! 今度、家に来た時教えてよ‼

 私、マーちゃんを上手く描いてあげたいし!」

「教えれるかは分からないけど、手伝うよ」

「やったぁーー‼ 約束ね‼」

 そうして、私は自分の事をそっけのけで、美雪の為に了承した。

 それから教室に帰るまでの間、美雪は上機嫌だった。

 私は美雪に凄く期待されているのが不安だったけど、何か嬉しい気持ちでその不安は薄れて行った。

 そうやって、私は無事に中学三年の二日目を追える事が出来、また一人で下校した。

 その途中、話した。

 心ではなく、口で。

「ハイカラさん……」

「何でしょうか?」

「今日は、じゃなくって、今日も、ありがとう」

「礼には及びません。それに、一番がんばったのは、みどりさんですよ」

 ハイカラさんはまた私の涙を誘った。

 でも、私は知ってる。

 この涙は大切にしないといけないものだって事を。

 だから、少しだけ出た涙を指で掬って、私は握り締めた。

 そうして、私はハイカラさんと家に帰った。

 家に着くと、母の顔は喜びと心配の感情が共存していたけど、

「おかえりなさい、みどりちゃん!」

と、言って、元気に出迎えてくれた。

 だから、

「ただいま、お母さん!」

と、私は言って、家に入った。

 でも、この後、私に今までにない厳しい現実が待っていた。


 私は、小松 みどり。

 ハイカラさん……。

 お願いだから、あれだけは、もうしないでね!

 危なかったんだから‼

 でも、面白かった?

 なら、良かった!

 えっ……、ハ、ハイカラさん⁉

 それ、本気なの‼

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