新学期で変わった事と変わらなかった事
三学期になりみどり【】はいつものように【美雪】と【ハイカラさん】と登校した。
そして、教室に着くとそこはいつもと雰囲気が違った。
だが、変わらないものもいくつもあった……。
正月三が日も終わり、少しの休みの後、冬休みはあけた。
本日は三学期の発登校日である。
もう学校に行くのは怖くない。
だけど、やっぱり親友の美雪と登校した。
もし、もしもだけど、上手くいけば高校生活もこんな風になるのだろうか?
そうなってほしい。
そんな淡い期待を胸に私は美雪とハイカラさんとで登校した。
ハイカラさんとは私の後ろにいる、黒髪で、日本人形のような顔をした、
年齢不詳の女性の幽霊の事である。
ハイカラさんは私の守護霊で、私以外の人には姿が見えず、声も聞こえない。
だけど、私とハイカラさんは心の中でも話せるので何かあればハイカラさんといつでも話せるのだ。
そんなハイカラさんに見守られながら私達が教室に入ると、
そこは二学期迄の教室とはどことなく違っていた。
それは、高校受験までそう日がないからだろう。
何となく教室にピリピリとした空気が流れているのが分かる。
そんな中でも余裕な生徒はいるものだ。
「小松さん、おはようございます!
正月以来ですね。お元気になされてましたか?」
「おはよう。木田君。うん、元気にしてたよ!
木田くんは?」
「勿論、健康そのものでした!」
「それは良かった!」
そう、まず一人目は木田だ。
私の前の席にいる。
木田は理数系ならこの学校で、いや全国でもそう勝てる者はいないぐらい頭が良い。
その分、変わったところがあり緊張等しないようだ。
そして、二人目。
「おい! 小松‼
木田なんかとだべってねえで、さっさと宿題見せやがれ!」
「はいはい」
それは、私の右隣の席の西園寺だ。
西園寺はというと、野球の推薦枠で既に進学する高校が決まっている。
本当に凄い事だ。
しかも、高校からは寮生活らしく、少しだけ大人に見えた。
でも、そんな西園寺はやっぱり木田に注意されてしまった。
だけど、そんな事はお構いなしに、西園寺は私の冬休みの宿題を写し続けた。
こんな風景が見られるのもあと少しなんだ……。
そう思うと、何だか目頭が熱くなってきた。
私が眼鏡をとると、今度も余裕の二人から声を掛けられてしまった。
「おいーっす、小松さん!」
「おはよう。小松さん」
「ふふっ。おはよう。大隈くんに、伊藤君」
この明るい二人に声を掛けられたおかげで、私は何事もなく眼鏡を掛け直す事が出来た。
ちなみに、大隈は県外のバスケットの強豪の高校。
伊藤もまた県外のバレーボールで有名な高校に進学が決まっていた。
もうこの三人は雲の上の世界の人物に見えてきた。
私なんかが普通に話してよいものか。
私がそう思っていても、彼等はそうは思っていなかった。
今まで通り普通に話し、笑ってくれる。
変に気を使う方が間違いだった。
それに気付いた私の気が緩むと、平井が挨拶をしに来た。
でも、少し太って見えるのは気のせいだろうか?
出来るだけその事は考えずに、私は話した。
「おう、小松さん。元気にしてたか?」
「うん。してたよ。平井君は?」
「小松さん! どう見ても平井は正月でいいもんばっか食ってた顔してるぜ?」
私が聞いたら、大隈が話に割り込んできた。
どうやら大隈はよほど平井の事が気に言っているようで、何かと話したがるのだ。
だけど、平井はそうでもないので、大隈を一睨みしただけだった。
そんな平井は文と同じ高校の科を目指すらしい。
倍率は厳しいけれど、がんばってほしいものだ。
そして平井は大隈から逃げるように離れて行き、それと入れ替わる形で美雪と文が近づいて来た。
「小松さん、おはよう」
「文ちゃん、おはよう!」
「しっかし、相変わらずだねぇ。この男子のうるささは!」
「えぇっ⁉ 宮本さん。いきなり何言ってんの? 酷くね?」
「大隈ぁ……。そんなんだったら、人に嫌われるよ?」
「大丈夫、大丈夫! 俺に限ってそんな事ないから!」
どうやら大隈は絡む相手を美雪に代えたようだ。
とても楽しそうである。
実はそんな微笑ましい二人とは別の形で微笑ましい光景があった。
それは、文と伊藤だ。
何だろう……。
上手く説明出来ないけど、変だ。
伊藤を見る文の目が綺麗な気がする。
そして、伊藤の文に対しての話し方が一段と優しい気がする。
こ、これは、まさか……。
この二人は、まさか⁉
正月から今日までの間に、この二人に何があったの⁉
じゃ、じゃあ、あの正月の連絡先の交換はこうなる事が目的だったの⁉
きっと大隈は知ってたはず!
この目的の為に私と美雪は出しに使われた⁉
色々と想像すると、私の頬は赤くなってしまった。
それから私は文と伊藤を見れなくなり、下を向いてしまった。
当然、美雪の隣にいる大隈も見えれるはずがないのでそうなった。
すると、私の机に西園寺により一冊だけ冬休みの宿題が返却された。
何か話を変えないと、私がもたない。
そう思っていた私は適当に西園寺に話し掛けてしまった。
「あ、あの……。西園寺君、もう終わったの?」
「ああ、それはな!」
「そ、そう……」
「何だよ? 何か言いてえ事でもあんのか?」
「ううん……」
困った。
特に話す事なんてないから、話なんてすぐに終わってしまう。
どうしたものか。
何も出来なくなった私は溜息をつく事しか出来なかった。
すると、
「あんがと……」
と、ぼそっとした西園寺の声が聞えた。
「えっ⁉」
私が西園寺を見ると、西園寺は一心不乱に冬休みの宿題を写していた。
そんな事を言う暇なんてない程に。
でも、間違いない。
初めて西園寺にお礼を言われてしまった。
何だろう……。
とってもくすぐったくなってしまった。
それは美雪にくすぐられるよりもずっとくすぐったくって、私の体に残る。
嬉しいって気持ちとなって。
「みどりちゃんどうしたの? 顔が赤いよ?」
「へっ⁉ う、ううん! 大丈夫だよぉ!」
「あれ? 本当に小松さん大丈夫? 声まで裏返ってるけど……」
「大丈夫だって!」
大隈に言われて恥ずかしくなった私は大きな声を出してしまった。
すると、教室中が静まり、私は皆の注目を集めてしまった。
さらに恥ずかしい思いをしてしまった。
だけど、そんな中にも拘わらず、西園寺は私を見る事なく、冬休みの宿題を写し続けていたのだ。
ある意味、凄い才能である。
そして、教室内の雰囲気が元通りになると、
石川が教室に入って来て相変わらずの濁声による注意で皆、各々の席へと戻った。
それから普段通りに朝のホームルームが始まった。
少し違う事は、石川の濁声の信念の挨拶に、私達が返す事だった。
それから石川が高校受験について何か話していた。
でも、月並みな事だったのであまり集中して聞く事が出来なかったので、
何て言ってたなんか覚えていない。
そんな石川のホームルームが終わったころに西園寺は私の冬休みの宿題を全て返してくれた。
今度はお礼を言われなかったけど、相変わらず手際の良い事だった。
そして、やっぱり、ハイカラさんの溜息も聞こえた。
「本当に、箸を返さない殿方は何も変わらないのですね……」
「ふふ! 西園寺君らしいでしょ?
でも、さっきは西園寺くんにお礼を言われちゃった!」
「みどりさん、あのようなものは礼とは言いませんよ!」
私が言っても、ハイカラさんは呆れたままだった。
けれど、これも普段通り。
だからいいんだ。
そんな普段通りの落ち着きを取り戻した私は、中学三年生の三学期を進む事となった。
俺は、西園寺 清孝。
今、俺に話し掛けんな‼
小松の宿題を写すので忙しいんだ!
ほらよっ! いっちょ上がりだ!
ああっ⁉ そんな時間で映し終えるのかって?
んっなもん全部写す訳ねえだろう‼
それなりにやった感を出すのがいいいんだ‼
ほらよっと小松!
ん? お前、何処に行くんだ?
……まあ、俺は忙しいから知らんけど!




