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私の守護霊は、ハイカラさん  作者: 紅p
 一学期
4/70

まだまだ子供の私は、また逃げる⁉

 【みどり】の約二年ぶりの登校は、無事に終えそうだった。

 そして、【みどり】の母が、【みどり】を迎えに来てくれた。

 しかし、何故か、【みどり】は、母から逃げてしまう。

 美雪や、ハイカラさんの助けにより、私のおよそ二年ぶりの登校も無事に終える事が出来た。

 美雪とは、小学校からの幼馴染の女子で、変わり者だけど、とても良い女子である。

 そして、ハイカラさんとは、私の後ろにいる、黒髪で、日本人形のような顔をした、

年齢不詳の女性の幽霊の事である。

 一応、私の守護霊だ。

「美雪殿と、一緒に帰られないのですか?」

「美雪ちゃんは、演劇部の集まりがあるんだって」

「ほう、演劇部ですか!」

「美雪ちゃんはね、小学校の時から演劇部に入ってて。ずっと、続けてたみたい」

 そう、美雪の夢は舞台女優になる事だった。

 恐らく、ずっと変わっていないのだろう。

 私に対しての考えと同じように。

「一人で寂しくはないのですか?」

「うん。もう慣れてるから」

 ハイカラさんに聞かれ、そう答えたけれど、本当は寂しかった。

 ずっと一人でいたから慣れていたはずなのに。

 まるで今日の鞄のように私の心は何かが足りず、寂しかった。

 けど、このまま一人で家に帰れたら、私は何かが変われそうだった。

 でも、その時、ある邪魔が入った。

「みどりちゃん!」

「お、お母さん⁉ どうして、ここに?」

 私を呼んだのは、母だった。

「良かった。学校、大丈夫だった? 嫌な事、なかった? 一緒に帰ろうか?」

 母は、心配性だ。

 子供の時から過保護で、私をいつまでも子供扱いする。

 そう、いつまでも自分がいないと私が何も出来ないと思い込んでいる。

「みどりちゃん?」

「うるさい……」

「ど、どうしたの? やっぱり、学校で嫌な事があったんじゃ……」

 母は、いつもこうだ。

 私が一人で成し遂げようとする事を、邪魔してくる。

 そんな母を見ていると、母から離れたい。そんな気持ちが何処からともなく溢れてきた。

 そして、私は母から逃げた

「みどりちゃん⁉」

 母が私を呼んでいたけど、私は桜の見ごろが終わってしまった桜並木を走って逃げた。

 家とは逆の、人がいない方へと全速力で逃げ続けた。

「どうなされたのです?」

 そして、私が足を止めると、ハイカラさんが話し掛けてきた。

「ハイカラさん、付いて来たの?」

「私は、みどりさんの主語霊ですから」

「そうだったね」

「落ち着かれまして?」

「うん……」

 私はハイカラさんの声を聞くと、少し落ち着く事が出来た。

 そして、周りを見た。

「ここって、確か……」

 ここは、私が小学生の時までは老舗のデパートがあった所だ。

 けれど、今は駐車場になっていた。

「そう言えば、去年、閉店したって言ってた」

「ここに何がありましたの?」

「ここにね、地域密着型の老舗デパートがあったんだ。そうだな、四九年続いたとか言ってた。

 でも、大型商業施設が駅の方に出来て、そっちにお客さんを取られたとかで、閉店したって、

ネットに書いてた」

「ネット?」

「色々な情報が分かる道具の事」

「ほう、そのような便利な道具があるとは」

「今じゃ常識だよ?」

「こほん! ネットは、さておき。老舗デパートが閉店し何もなくなるとは寂しいものですね」

「そうだね……」

 ハイカラさんに言われ、私は、ここにあったデパートに母と来た事を思い出した。

 母は、ここにあったデパートが好きで、しょっちゅう買い物に行っていた。

 好きだった一番の理由は、母が、ここにあったデパートに勤めていたからである。

「ハイカラさんの時代にも、デパートってあったの?」

「失礼な‼ ありましてよ‼」

「へえ、創造出来ない」

「それはもう、立派なものでしたよ?」

 そして、ハイカラさんはハイカラさんの時代のデパート、百貨店について話してくれた。

 ハイカラさんの時代は、百貨店にショーウィンドウが設置される等、

西洋風に改装される店が多くなったらしい。

 そして、雑誌で紹介された服を見に行ったり、屋上に庭園が設置される等、

楽しみ方も多かったようだ。。

「エレヴエターなる物が出来て、便利になりましたのよ!」

「エレベーターなんて、今じゃ、何所の施設にもあるよ?」

「まあ、そうでしたか⁉ 私なんて、屋上庭園を見る為に苦労したというのに……」

「屋上か……」

 屋上という言葉を聴いて、私にある思い出が過ぎった。

「どうかなされましたか?」

「ハイカラさん。ここにあったデパートの屋上にね、ちょっとした食堂があったんだ。

 お母さんに、よく連れて来てもらってね。でね、そこで一緒にご飯を食べたりしてさ」

「ほう。お母様と仲がよろしいのですね」

「うん。でも、今は嫌い」

「そのようですね。何か、お母様とありましたの?」

「何かあった訳じゃない。ただ、いつまでも私を子供扱いするのが嫌なだけ」

 私がそう言うと、ハイカラさんは私を優しく見つめてきた。

「お母様にとっては、いつになっても、みどりさんは子供ですよ?」

「だからそれが嫌なの‼ それじゃあいつまでたっても、私は子供のままじゃない‼」

「そんな事で怒るなんて、まだまだ子供ですね。それに嫌な事があったらすぐに逃げる。

 お母様から心配されるのも、仕方がありませんよ」

「ハイカラさん……」

 ハイカラさんの言葉を返す言葉は、私にはなかった。

 でも、ハイカラさんはまだ、言葉を続けた。

「よろしいではありませんか」

「ハイカラさん?」

「心配させて、あげなさい。心配されているふりを、するのです。

 それが出来ていないうちは、まだまだ、子供です」

 ハイカラさんの言葉は、今の私には難しかった。

 私がハイカラさんの言葉の意味を考えていると、

「孝行のしたい時分に親はなし、と言いますし……」

と、ハイカラさんからさらに感慨深い言葉をいただいてしまった。

「ハイカラさん、今の私には分からないよ」

「いずれ、分かる日が来ます」

「いつ?」

「さあ? いつになるのでしょうね。でも、未来が分かってしまっては、つまらないのでは?

 それに、子供の時にしか出来ない事は多く、嫌でも体は大人になります」

「また、難しい事を言うんだから……」

「これは、失礼いたしました!」

 ハイカラさんは、難しい事ばかり言う。

 でも、今の私にも分かる事はある。

 きっとだけど、ハイカラさんも私と同じ気持ちだったんだって事。

 それに、きっとその事で後悔する事が多かったって事が。

 その事が分かると、私の寂しかった心に、優しさが訪れた。

 すると、

「みどりちゃん‼ 待ってったら‼ もう、昔から足が速いんだから‼」

と、息が上がっている母が、やっと、私に追いついた。

「お母さん……」

「心配した。急に走って行くんだから」

「あ、あの……」

「帰六花? みどりちゃんの好きなおやつ、作ってるから!」

「お母さん、ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

「だって、私、逃げちゃった」

「あら、そうだったの? お母さん、分からなかった!」

 私の態度に、母は、平気な顔をしていた。

 そうされると、私は涙が出てきた。

「ほらほら。お母さん、久しぶりに運動したから、お腹空いちゃった!

 早く帰って、おやつ、一緒に食べようよ!」

「うん……」

 そして、私は母と家路に着いた。

 その途中で、

「みどりちゃん、今日はがんばったね」

と、母に言われた。

 凄く、嬉しかった。

 そんな気持ちになると、また涙が溢れてきた。

 やっぱり、私はまだまだ子供だ。

 でも、今日は、お母さんの子供で良かったと思えた。

 そして、家で、母特製のドーナッツを二人で食べ、母は、父の分まで食べてしまった。

「お母さん、良かったの?」

「大丈夫。みどりちゃんさえ、お父さんに言わなければ!」

「言わないよ」

「ありがとう。みどりちゃん」

「お礼を言うのは、私の方」

「え?」

「何でもない!」

 そして、私は、また逃げた。

 今度は、今朝のように悪戯を成功させた気持ちで。

 それから私は自分の部屋へ逃げ込んだ。

「何か、良い事でもありまして?」

「うん、ハイカラさん。私、少しだけど、ハイカラさんの言葉の意味が分かった」

「そうですか」

「ハイカラさん、ありがとう」

「いえ。私は、みどりさんの守護霊ですから」

 私は心の底からハイカラさんにお礼が言えた。

 そして、ここから私と、ハイカラさんの奇妙な生活が本格的に始まった。



 私は、小松 みどり。

 お母さん、ドーナッツ、美味しかったよ。

 ありがとう。

 でも、お母さん、ドーナッツを5つも食べて、夕食を普通に食べちゃって、大丈夫かな? 

 お母さんも、まだまだ子供なんだから!

 それに、ハイカラさんもね……。


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