中学三年の最初のホームルームは、パニックだ⁉
【美雪】と、同じクラスになれた【みどり】だったが、担任は、一番会いたくなかった人物だった。
そして、そのクラスメイトの中には、色んな人物がいて、さらに【みどり】は戸惑ってしまう。
果たして、【みどり】は、中学三年生最初の日を乗り越えられるのだろうか……。
教室のドアを乱暴に開け入って来たのは、石川 義二郎だった。
彼は年齢五二歳で、痩せ型、白髪混じりのm禿短髪に、眼鏡を掛けた猿顔。
そして、身長はかなり高く、少し日焼けをしている。
最後に付け加えると、私の一年生の時の担任だった。
あいつがここに来たということは、あいつが私の担任となる。
その嫌な現実を目の前にして、私の気分は沈んだ。
「どうなされたのですか?」
そんな私に、私しか聞こえない声が聞えた。
この声の主は、ハイカラさん。
一応、私の守護霊に今日からなった、黒髪で、日本人形のような顔をした、
年齢不詳の女性の幽霊だ。
「ハイカラさん……」
「あの方が担任なのですね?」
「そうみたい……」
私は明らかに嫌そうな言い方をした。
すると、
「あの方と何かありまして?」
と、ハイカラさんから聞かれたけど、私は答えたくなかった。
言い訳になるかもしれないけれど、私が学校に行かなくなった理由の一つが石川だった。
石川は一見人当たりの良い先生に見えるが、
お気に入りの生徒以外にはそんな事は決してない。
その代表例が私だ。
私が俯いていると、石川が濁声で生徒に席に着くように言って、出席を取り出した。
「じゃあ、出席を取るぞ。
伊藤、上田、大隈、木田……、まあ、こいつは呼ばなくてもいないだろうから、
次、西園寺、佐藤……」
こうだ。
石川は私の事を嫌っている。
中学一年の時、私は些細な事で職員室に呼ばれ石川に叱られた。
そこで、私は泣いてしまった。
すると、その場では石川は謝ってきたが、次の日、周りに人がいない所で石川に会うと、
石川は私にこう言った。
「お前が職員室で泣いたから、まるで俺が悪いみたいじゃないか」
確かに石川の授業に遅れた私が悪い。
でも、前の授業は体育で、そこで体育の担当の先生に頼まれ事をされ、
それをしていたら着替える暇もなく石川の授業に遅れてしまった。
すると、石川は私を教室に入れてくれなかった。
そして次のひから石川は会う度に、「今日は体操着はどうした?」や、
「お前の制服は体操着だろ?」等と言うようになった。
揚げ句の果てに、私を見ると、「体操着」と呼ぶようになった。
嫌な記憶が蘇ってきた。
私の目から涙が出そうになると、
「先生‼ 今日、みどりちゃんは来てます‼ ちゃんと呼んでください‼」
と、美雪が叫んだ。
すると、
「宮本、みどりとは誰の事か?」
と、石川がふざけたが、
「先生ぃ? 眼鏡の度、合ってないんじゃなぁい?」
と、美雪も負けていなかった。
「合かっとるわっ! えぇーっと、あ、はいはい、小松。
これで良いか? 何だ? 返事は?
折角、呼んでやったのに‼」
だが、石川は、何で、お前来てるんだ?という顔で私を横目で見ながら、私の名を嫌々呼んだ。
だから、嫌だったんだ。
こんな奴と一年間どうやって一緒に過ごせばいいの?
そう考えると、涙は止められそうにはなかった。
すると、
「随分、失礼な輩ですね……」
と、静かなハイカラさんの声が聞こえた。
そして、風を感じると、何故か石川の眼鏡のフレームが壊れ、眼鏡が床に落ちた。
それを石川が濁声で何かを言いながら拾おうとすると、石川はバランスを崩し眼鏡の上に倒れた。
「だあーーっ⁉‼ 眼鏡が割れたーー‼」
石川の濁声の嘆きに加え、教室にいた生徒の大爆笑の声で教室は埋め尽くされた。
しかし、
「今度はちゃんと度の合った眼鏡を買う事ですね」
という、ハイカラさんの声は私にだけ、はっきりと聞こえた。
「ハイカラさん?」
「あのような者が教鞭を取るとは、余も末ですね。
みどりさん、あのような者に負けてはなりませんよ!」
そして、ハイカラさんの暖かい指導が入った。
「ありがとう、ハイカラさん」
私は少し零してしまった涙を拭った。
それからハイカラさんの指導を続いた。
「良き友をお持ちですね」
「良き友って、美雪ちゃんの事?」
「他に、いらっしゃいまして?」
ハイカラさんに言われ私は教室のドア側の列の前から二番目に座っている美雪を見た。
すると、美雪は私の方を見て手を振り、目を細めワザと歯を見せながら、
石川の奴、ザマーという顔で笑っていた。
美雪は強い。
こんな中でも私を庇い、笑ってくれる。
もう、二年くらいは合ってもないというのに……。
私は美雪を見ていたら、さっきとは別の涙が溢れてきた。
そして、
「その涙は、大切になさい」
という、ハイカラさんの温かい指導を、また受けた。
それから眼鏡が無くなった石川は何とか出席を取り終わり、
朝のホームルームが終わりかけた頃。
「先生、席を代えてもらえませんか?」
という、女子の声がした。
「おぉ、佐藤。まあ、そこじゃ見えにくいわな」
そう言った石川は頷いた。
石川の言う事も一理ある。
何故なら、佐藤とは、佐藤 文という小柄な女子で、
その前の席にいるのは、西園寺 清隆という他の男子に比べ、
頭二つは身長が高い男子だからだ。
しかも、西園寺は野球部でバッチリ日焼けしており、体つきも良い。
「あぁ……、じゃあ、西園寺。お前邪魔だから、一番後ろに回れ」
それから石川に言われ西園寺は無言で私の横にいた、
立川 雅という男子と席を替わり、立川は佐藤と席を替わった。
どうやら、西園寺も石川から好まれてはいないようだ。
だけど、西園寺は何とも思ってはいないみたいで、
むしろ、一番後ろの席に着いた事を喜んでいるようだった。
私がある意味、西園寺を尊敬の目で見ていると、今度は違う声の主から話し掛けられた。
「君、その席で大丈夫かい?」
私がその声の方を見ると、それは私の前の席に座っている、木田という男子だった。
木田はスラッとした体形で、悪い意味ではなく面白い顔をした黒髪の短髪の男子だ。
恐らく、彼は中学校からこの学校に入ったと思われる。
私が不思議そうな顔で木田を見ていると、
「僕が邪魔したから、あんな下らない事を言われたのではないですか?」
と、木田から不思議な気遣いをされ、
「そうじゃないと思う……」
と、私が木田の気遣いに答えると、
「そうですか。では、もし、僕のせいで前が見えなかったら、いつでも替わりますから」
と、木田はまた私を気遣ってくれた。
一応、私は教室の隅の一番後ろの席だ。
私は斜めから黒板を見るので、木田は邪魔にはならない。
どうやら木田という男子も、悪い人ではなさそうだ。
そんな風に私が木田を観察していると、美雪が駆け寄って来た。
「みどりちゃん、大丈夫だった?」
「うん。美雪ちゃん達のおかげでね。ありがとう」
「達? まあ、でも見た? 石川の奴のまぬけっぷり。絶対、罰が当ったんだ!」
美雪は、はしゃいだ。
そうやって美雪と楽しく話していたが、私は意外な人物から話し掛けられてしまった。
「小松さん、久しぶりだね。一年生の時以来かな?」
私に話し掛けてきた女子は、八木 幸恵。
所謂、石川のお気に入りだ。
八木は薄っすら化粧をしたかわいい系の顔で、長い髪をお洒落に決めている。
八木は身長も、体系も、モデルみたいで、この学校のアイドル的存在だ。
だけど、私は彼女が苦手だ。
「八木さん、久しぶり」
「小松さん、もう学校に来れるんだね。何かあったら何でも相談してね」
「ありがとう、八木さん」
そして、八木はコロンの香りを残し、離れて行った。
「相変わらずだねぇ。みどりちゃん、あいつになんか相談しちゃ、駄目だから!」
「うん……」
美雪も分かっている。
彼女は隠せてはいないけれど、あれをするリーダー格的な存在だ。
小学生の時から上手く生活をし、気に入らない生徒がいると先生や他の生徒を利用してきた。
あんな容姿を持っているから、彼女の味方をする者も多かった。
だけど、彼女のあれの的になる者も多かった。
私はまだその的にも味方にもなってはないけど、いつそれが訪れるかと思うと、怖く、
また言い訳になるけれど、この事も私が学校に行かなくなった理由の一つだった。
だからこの一年間、絶対に八木のその的にならないように生活するんだ。
これは何を犠牲にしても、絶対に守らなくてはならないルールなのだから。
私は、小松 みどり。
ハイカラさん⁉
そんな事も出来たの?
あの扇子には、注意しなきゃいけないんだ……。
色々とあったけど、このまま無事に今日は過ごせそう。
そして、後は一人で帰れたら、私……。