変わっているけど、変わっていない友達との再会
【ハイカラさん】の命により、【みどり】は約二年ぶりに登校した。
だが、中学校を目の前にし、【みどり】の足は止まってしまった。
そんな【みどり】は、いきなり、聞き覚えのある声の主に抱き着かれてしまうのだが……。
久しぶりに制服の袖に手を通した。
でも、妙に制服は私の体に馴染んだ。
こんな感じだったっけ?と思いながら、着慣れない制服を次々と着て、
最後にリボンスカーフを締め、完成だ。
成り行きで制服を着て、眼鏡を掛け、数年ぶりの登校と思ったけど、
やっぱり、ここが限界だった。
「どうなされたのです?」
「ハイカラさん……。私、やっぱり……」
「私が御一緒いたします」
「でもさ、学校何て、行っても、行かなくても同じじゃん?
行ったって無駄なだけな気がするの……」
「行かないのに無駄だと、どうして分かるのです?」
「そ、それは……」
「無駄な事を学ぶのも学校ですよ」
「ハイカラさん?」
「学校が全て正しいとは思えませんもの。ですが、学ぶ事は多いとは思いませんか?」
「……。そうだね。私、がんばってみる」
「はい。ここまでがんばれたのです。みどりさんなら、大丈夫ですよ」
私が話しているハイカラさんとは、幽霊だ。
見た目は、五、六十代だろうか。
綺麗な黒髪を日本髪にまとめ、紺色の羽織を纏い、
中に見える着物は、クリーム色と白色の中間のような色で、明るい茶色の袴をはいている。
そのハイカラさんとは、今朝出会った。
私が起きると、ハイカラさんはただそこにいたのだ。
そして、何故かハイカラさんは私の守護霊になり、強引に私は学校へと行かされる事になった。
行きたくはなかったけど、何となく行っても良いんじゃないかと思い、今に至る。
「いってきます」
「みどりちゃん、大丈夫? 無理しなくてもいいんだよ?」
「お母さん。今日は始業式だし、大して学校にいる訳じゃないから。心配しないで!」
「みどりちゃん……」
心配性の母は、心配しっぱなしだった。
だけど、私はハイカラさんと共に家を出た。
大して荷物が入っていない軽い手さげ鞄を持ち、肩より少し下まで伸びた黒髪を靡かせ、
私は久しぶりに登校した。
だけど、春の街は木々が青々としていて、桜は満開を終え寂しかった。
「もう、桜がほとんど散ってる……」
「まあ、私の時代では、今が見ごろでしたのに!」
「ハイカラさんの時代の花見って、どういう感じだったの?」
「そうですね……」
ハイカラさん曰く。
ハイカラさんの時代の花見とは、今の時代のように食事をしながら桜を愛でる以外にも、
色々と楽しむ事があったらしい。
例えば、河川敷に咲き乱れた桜を馬車で愛でるとか。
桜の木の下で多くの人と触れ合い、歌を書いて桜の木に短冊のように吊るし、
提灯の光に揺れるその短冊を愛でたとか。
「凄くお洒落!」
「 まあ、古き良き時代でしょうか?」
「いいなぁ、そういうのって! 私も、花見がしたくなった!」
「あなたも、来年あなたなりに楽しめば良いのですよ」
「ハイカラさん……」
そうやって私がハイカラさんと緑の桜並木を歩いていると、中学校が見えてきた。
「あれが、そうですの?」
「うん……」
私は足が止まった。
もう、周りには他の生徒が楽しそうに中学校に入って行く。
だけど、それに私は続けなかった。
「どうしよう……。足が動かない……」
私がそう言って俯くと、
「みどりちゃん⁉」
と、叫びながら、誰かが私の後ろから抱き着いてきた。
「うわあ⁉ 美雪ちゃん?」
「そうだよ! ほぉーんと、久しぶり‼ 会いたかったよん!」
私に抱き着いてきたのは、宮本 美雪。
小学校からの幼馴染だ。
まあ、中学一年から会ってはないが……。
「みどりちゃん、身長伸びたね!」
「そ、そうかな?」
「伸びたよ! しかも、可愛くなってる!」
「そ、そんな事ないって‼」
「あるよ! ねえ、私はどう? 大人っぽくなったでしょ?」
美雪は小学生の時は私より身長は高かったけれど、今は私の方が少し高い。
美雪は、黒髪で、耳下までのショートヘアー、色白の肌、
黒い瞳に長いまつ毛。
そして、私と違って眼鏡を掛けていない顔は、小学生の時のままだった。
「あまり、変わってないと思う……」
「がーーん‼ やっぱ、そうか……」
美雪は私に抱き着くのを止め、肩を落とした。
「ご、ごめん‼ 美雪ちゃん‼」
「いいよ……。どうせ、私は童顔だし……。でもぉ……、そういう正直な所、だぁーい好き‼」
美雪は今度は正面から抱き着いてきた。
この通り、美雪は変わっている。
いや、昔から変わっていないのかもしれない……。
「ねぇねぇ、みどりちゃん、一緒に学校に行こっ!」
「えっ、わ、私は……」
私が美雪の誘いを断ろうとすると、私の視界に、ハイカラさんが写った。
しかも、その顔は怒っていた。
「わ、分かったから、そんな顔、しないでぇ……」
「きゃーーっ‼ 嬉しいけど、どんな顔すればいいの?」
「美雪ちゃんは、そのままでいいよ‼」
「本当? じゃあ、みどりちゃん、行こう!」
美雪は私の右手を左手で握ってきた。
「美雪ちゃん、恥ずかしいよ‼」
「えぇーー? 何で?」
「何でって、言われても……」
「いいからいいから、行こう!」
美雪は、小学校低学年から変わっていなかった。
でも、それが私には心地良かった。
だから、動かなかった足も前に踏み出せた。
そして、私は数年ぶりに中学校へ入る事が出来た。
それから、美雪に連れられ校舎の階段を駆け上がり三回まで登ると、人だかりが出来ていた。
「何の集まりかな?」
「みどりちゃん、クラス編成だよ。一緒のクラスだといいね!」
「うん……」
美雪に言われ、私は怖気ずいた。
何故なら、私が通う中学は小中一貫校で、ほぼ小学校からお馴染みの顔ぶれが並ぶからだ。
勿論、中学から入った生徒もいるが、当然、会いたくない生徒もいる可能性がある。
「あーん、見えない‼」
美雪は、人だかりの後ろからぴょんぴょん飛び跳ねたけど、クラス編成の名簿は見えなかった。
「ちょっと待てば、みれるよ」
「今、見たいぃ‼ 絶対、みどりちゃんと同じクラスゥ‼」
「違うかもしれない……」
「違わない‼ 私が言うんだから、同じクラスなの‼」
「美雪ちゃん……」
美雪が飛び跳ねている内に、少し人だかりは消えクラス編成の名簿が見えるようになった。
すると、美雪は一段と高く飛び跳ねた。
「見てぇ! ほら、私の言う通り、一緒じゃない‼」
「ほ、本当だ……」
私と美雪の名前が、Cクラスにあった。
私が、ぼぅーとしていると、美雪がまた私の右手を握ってきた。
「ほら、こっち! 行くよ‼」
「わ、分かったって‼」
美雪に連れられ、私は教室に入った。
すると、中にいた生徒から、一斉に注目を集めた。
そうよね……。
今更、私が学校に通うんだもの。
私が下を向いていると、美雪が私の席へと案内した。
「みどりちゃんは、ここかぁ……。席、離れすぎ‼」
「そうだね。名前順だから……」
「もう、早く席替えしてほしい‼」
私の席は、ドアから奥に進んで一番窓際の、前から五番目、一番後ろの席だった。
そこは南からの陽が入り、今の時期は過ごし易そうだった。
そして、私の前の席は見覚えのない男子で、
隣は小学校から見覚えのある、立川だった。
「みどりちゃんの近くって、男子ばっか……」
「うん……」
「紅一点だから、気を付けてね!」
「美雪ちゃんったら!」
そして、美雪は自分の席へ向かった。
美雪がいてくれたからここまで来れたけど、やはり、美雪がいないと忽ちふるえがきた。
気分が悪くなり、どうしようかと思ったら、私の背後からあの声が聞えた。
「良き友が、いたのですね」
「ハ、ハイカラさん⁉」
私が振り返ると、ハイカラさんはそこにいた。
「ハイカラさん、いてくれてたの?」
「当然です。私はみどりさんの守護霊ですから」
「ハイカラさん……」
「安心なさい。私と、あのお友達がみどりさんにはいます」
ハイカラさんの言葉を聴くと、私の不安は薄れた。
そして、
「さて、先生がお見えになるみたいです」
と、ハイカラさんが言うと、ドアを開け、担任の先生が入って来た。
私は、小松 みどり。
美雪ちゃん、恥ずかしいよ⁉
でも、美雪ちゃんの手って、とっても温かいんだね……。
そう言えば、担任の先生の名前、見るの忘れちゃったけど、誰なんだろう?