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我が望むは不死の肉

 不老不死……という言葉を聞いたことはあるだろうか。

 老いることも、死ぬことも無い。まるで夢のような話だ。死ぬことがないなんて、なんて幸せなことだろう。

 ついでに、もう一つ質問をしよう。君達はこんな噂を聞いたことはあるだろうか。

『人魚の肉を食らえば、不老不死となれる』

 にわかには信じ難い話だ。そもそも人魚なんてどこにいるというのだろう。

 しかし、火のない所に煙は立たない。きっと、こういう噂を囁かれるということは、それに近しい何かがあったのだろう。私はそう思う。

 その日は、唐突に訪れた。

 私が不老不死を求めて旅を始めてから、数え切れないほどの夜が過ぎ去った。そんなある日、私はついに見つけたのだ。

 上半身には人間の、下半身には魚の身体を持つ人外の存在。

 その肉を食えば、不老不死の肉体を得られると、古くからの伝承にも語られていた至高の存在。

 そして、私の旅の目的。

 人魚。その姿を一目見た時、私の中は歓喜の感情で溢れかえった。その肉を食えば、不死の肉体を得ることができる。そんな存在が、何の前触れもなく私の目の前に現れたのだから。

 だからこそ、私は慎重にならなければならなかった。逃げられてはいけないのだ。

 だからまずは友好的に接することにした。人魚だと気づいていないかのように、自然に「おい! あんた! そんな所にいたら危険だ。流されてしまうぞ!」そう、人魚に向かって叫ぶ。

 その声で、人魚はこちらに振り返る。

 白雪を思わせるような白髪、澄んだ海を彷彿とさせるような碧眼を持つ絶世の美女。そう、上半身だけは。

 彼女はこちらに視線をやると儚げに笑いながら「あら、ご心配どうもありがとう。でも、私なら大丈夫。どうかお気になさらないで」と言う。

 その声は清らかな水のように澄んでいた。

「いや、ダメだ! ここであんたを置いて行って、もし流されでもしたら夢見が悪い」

 そう言いながら辺りを見渡す。ちょうどよく、誰の物かは分からないが、しばらく使われていなさそうな手こぎの小舟がある。あれを使わせてもらおう。

 なにせ、彼女のいる場所は川の真ん中にある岩場だ。流れ自体は、決して速いわけではない。それでも歩いて行くことはできないだろう。行けたとしても、担いで渡るには危険すぎる。

 こんな所で、馬鹿みたいな死に方をするわけにはいかない。

 小舟に乗り込み、彼女の元まで漕いでいく。近くで見ると、余計にその美しさが際立つように感じる。

「さぁ、ここへ乗ってくれ。一緒に岸まで向かおう」

「優しいのね、見知らぬ人。でも、本当に大丈夫だったのに」

 そう言って、彼女は初めて腰から下の、水に浸かっていた下半身を見せる。やはり、見間違いなどではなかった。彼女の下半身についていたのは人間の足ではなく、魚のヒレだった。

「なんと……これは……」

「だから、大丈夫だと言ったでしょう?」

「……驚かせてしまったみたいね」

 確かに、遠目で見るよりずいぶんと生々しい。分かってはいたが、鱗などは魚そのものだ。

 しかし、何故だろう。私にはそれが、とても美しいものに見えた。

「あぁ。確かに驚いた」

「醜いでしょう? 私の姿を見たモノは、皆口を揃えて化け物だと言う」

「そんなことはないとも。少なくとも、私の目には醜くは映らなかった」

 そう伝えれば、彼女は驚いたように、その美しい碧眼を丸くした。その後、クスリと笑う。

「お世辞だとしても嬉しい言葉。ありがとう。優しい人」

「お世辞ではないとも。あんた……いや、君はなんという名なのだろうか」

「私のことを知りたがるだなんて……変わった人。私のことを知っても、何の得にもならないというのに」

「それでもかまわない。君の名を教えてはくれないだろうか」

 今思えば、この時にはすでに……彼女の不思議な魅力にとり憑かれていたのだろう。

 なぜなら、ただ油断させるだけであれば、名前など聞く必要が無いからだ。

 しかし当時の私は、そんなことには気づきもせず、ただ油断させる為の罠だと思い込みながら、彼女との時間を過ごすことになる。


 これは愚者の物語。

 不老不死になるということがどういうことなのか……それを思い知るまでの物語。

 こちら、全5話の短編小説となります。

 全て一気に公開しておりますので、面白いと思ってくれた人は2話、3話とお進みください。

 素人なりに頑張って書いた作品となっております。

 少しでも面白いと思っていただけたのなら幸いです

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