救出作戦開始
マナンストライカーを走らせ、廃村へ向かう輝真。今の時間帯は夕暮れ時、囚われているであろう一希を救出するために一刻も早く向かわなければならない。一希がいる場所はドローンによってほぼ特定しており、その場所にドローンが待機し、信号を発している。作戦は夜中、盗賊達が寝静まった時を狙う。一応別のプランもあるがそれは最後の手段のために取っておくことにしている。
(とにかく、できるだけの準備はしたし、作製士でできる技もある…。今更うじうじしてるわけにはいかない)
「着装」
SYSTEM ACTIVE
ATTACHMENT CONPLETION
輝真はカオスアーマーを身に包み、マナンストライカーのスピードをさらに上げた。
◇廃村◇
日は落ちて夜になっても廃村の盗賊達はまだ活発だった。輝真は廃村の使われていない小屋に身を隠し、新たに作ったタブレットのような映像端末、カオスレット(命名、ピクセル)を確認する。そこには自分を示す青い点とたくさんの赤い点が外歩き回っており、ある1つの建物には赤い点がたくさん集まっていた。
【マスター、赤い点は盗賊達を示しています】
『妙に赤い点が集まっているところがありますね』
「あそこに一希がいるんだろう。盗賊がたくさんいるということは今、彼女は…」
輝真は一希がどんなことになっているのか察し、不快になる。するとズシン、ズシンと大きな足音が聞こえ、一旦画面を見るのをやめて外を覗いていみると、大きな人型のなにかが唸り声を上げながら徘徊していた。
『オーガですね。知能は低いですが嗅覚は優れています。カオスアーマーが匂いを遮断しているのか、こちらに気付いていませんね』
【正式には体臭を無臭に変換して排出しています】
「カオスアーマーさまさまだな」
カオスアーマーの便利な機能に輝真は感心する。そしてしばらくカオスレットを見ていると赤い点が分散して建物の中に入っていった。
「これは…寝るのか?」
【その可能性は高いです】
「よし、ならいくか」
輝真は立ち上がるとカードキースロットルからバトルカードキーを1枚取り出す。その絵柄は点線で書かれた人の形だった。それをカオスギアに装填する。
INVISIBLE ABILITY
すると輝真の姿が透明になる。いわゆるステルス機能である。ピクセルが潜入するならと早急に作ったのだという。輝真は小屋から出て一希がいるであろう建物に静かに向かう。
「一希、無事でいてくれよ」
◇
『テマ、こっちだよ』
一希は輝真の手を引っ張ってどこかへ連れていく。たどり着いた先はアイスクリーム店。
『もしかして新作か?』
輝真がそう聞いてくると一希はふふんと笑う。
『そう、新発売のダブルベリーアイス。ブルーベリーとラズベリーのミックスなんだってさ』
『…お前アイス好きだったもんな』
『ほら、ボサッとしてないで早く行こうよ』
一希はそう言いながら輝真の手をつかんだ瞬間……
「……うぅ?あぁ……」
意識が覚醒し、一希は目を開けると、そこはいつもの狭い小屋。体を動かそうとすると痛みが走る。
「夢……か……」
さっきのは夢だったことに一希は落胆する。輝真と一緒にアイスを食べたあの日常が恋しくて彼女は涙を流す。
「ひぐぅ…うぅ…テマぁ…」
他の6人と共に誘拐されて散々汚され、辱しめられ、この世界に売り飛ばされ、奴隷にされた挙げ句、盗賊達に捕らえられて片足を失う始末、そして今は盗賊達に辱しめを受けている。どうしてこんな目に遭わなきゃいけないのか、叶や玲衣達はどうしているのだろうか、そう思いながら泣き崩れる。
(いっそのこと、壊れたほうが楽になるかな……)
一希はそう思いながら意識を落とした。
◇
一方輝真は見張りの盗賊達をどう切り抜けるか、様子を見ながら考えていた。ステルス機能インビジブルアビリティーで見えにくくなっているとはいえ、油断はできない。
(さて、どうやってこの見張りをかわすか……)
輝真が見張りの動きを観察しながら考えていると、突然ピクセルが警告を発した。
【マスター、後方からオーガが接近しています】
「なっ!?」
輝真は驚きのあまり思わず声を上げそうになる。慌てて振り返ると、確かにあの巨大な鬼が唸り声を上げながら近づいてくる。彼身を屈め、息を潜めた。
(くそっ……こんなタイミングで!)
オーガは輝真のすぐ横を通り過ぎる。幸いにしてインビジブルアビリティーのおかげで気づかれていないようだ。安堵して気が緩んだ瞬間だった。
ブッ!!
「あ…」
なんと輝真は屁をこいてしまう。その屁の音がオーガに聞かれ、輝真に棍棒を振り下ろしてきた。
「ガアアアアアアアア!!!」
「やっちまったー!」
輝真は咄嗟に横に転がって棍棒の一撃をかわす。しかし、地面を打った棍棒の衝撃で地面が揺れ、周囲の瓦礫が音を立てて崩れた。
「何だ!?」
「敵襲か!?」
建物の中から盗賊たちが次々と飛び出してくる。するとカオスギアからブザーのような音が鳴り、インビジブルアビリティーが解除されてしまう。
「なんだ!?どうしたんだ!?」
【システムエラー発生、インビジブルアビリティーの効果を持続できません。解除します】
「こんなときに不具合かよ…!」
さらにカオスギアの不具合が起きてしまい、インビジブルアビリティーが解除されてしまう。
「おい、なんだあの変な格好のやつ!?」
「変わった鎧を着たやつがいるぞ!」
「かなりのレア物じゃねえか!?」
インビジブルアビリティーが解除されたことでついに盗賊達にも見つかってしまう。するとピクセルが輝真に今のカオスギアの状態を報告する。
【警告、マナンの残量が残り僅かです。インビジブルアビリティーはマナンを多く消費しました。バトルカードキーを使うためのマナンが枯渇しています】
バトルカードキーの能力はマナンを消費することで発動ができ、インビジブルアビリティーは発動してるだけでマナンが消費され、発動時間も長かったためマナンがより多く消費されたとピクセルは語る。
「……ならバトルカードキー以外ならいいんだな?ローウェル、フラッシュだ」
『輝真さん、何をする気なんですか?』
ローウェルは輝真が何を考えているか疑問に思いつつもフラッシュで周囲の盗賊達を怯ませる。夜なだけにかなり効いたようだ。その隙に輝真は木の枝を集めだす。
「よし、これくらいあれば…」
そして枝を持っている手が光りだした。
「クリエイト!!」
クリエイトは作製士だけが持つ唯一の能力で生物以外の物を好きな形や切ったりなど何でもできるいわゆる人間万能ツールである。輝真は枝を粘土のようにこねて1つに纏め、長く伸ばすと、長い棒を作成した。
「チェストー!」
ドゴン!
「ぐべぁ!?」
その棒を棒術のように振るい、その場しのぎの武器としたのだ。棍棒を振るってくるオーガに対しても容赦無く振るう。
「くらぇぇぇ!!」
バゴン!!ドガァン!!ドゴン!!
「グギャアァァ!!」
輝真の棒での連続攻撃が決まり、オーガは顔面を何度も打たれたため倒れてしまい、気絶する。木の棒であれ、たくさんの枝を集めて作ったためか、かなり頑丈にできており、それで思いっきり殴打されればひとたまりもない。さらにカオスアーマーによって身体能力も強化されているのでなおさらである。
「うおおおおお!!こいやー!!」
そこから湧き出ててくる盗賊達を蹴散らし続け、気が付くと盗賊達の山ができていた。どうやら全員やっつけたようだ。だが輝真はせっかくの潜入が台無しと思っていた。
【コーカサスケイブという高レベルモンスターを討伐したマスターに盗賊達は手も足も出なかったようですね】
「はぁ……はぁ……。こんなことなら最初から力ずくでいったほうが早かったかもな……」
『そうですね。ですがインビジブルアビリティーのマナン不足がなければうまくいってましたよ』
ローウェルがフォローを入れ、輝真は無力化した盗賊達を1人1人縛り付けて拘束しておく。
「よし、いくか…」
疲れた体に鞭打つように輝真は一希がいるであろう小屋に向かった。
◇
「クソ!なんだあの侵入者は!」
一希が囚われている小屋に1人の盗賊が入ってくる。一希は慌てた様子の盗賊に疑問を持つ。
「たった1人の鎧野郎に俺が操ったオーガもあっさりやられちまうし!棒だけでほぼ全滅させられるし!いったいなんなんだあいつは!?」
一希は盗賊がそう呟きながら準備している様子を盗み聞きするが、彼女はまた別のところに連れていかれるのだろうかと思うだけだった。すると盗賊が一希に近づき、針を取り出すと、彼女の首に刺した。
「うぅ…!?」
刺された一希はチクッとした瞬間、意識が遠のいていく。盗賊はニヤリと笑っている。
「こいつだけは絶対渡さん。俺が所有者だからな。またどこか場所を見つけて――」
ガツン!
「ゲバァ!?」
突如、その盗賊が何者かによって頭を殴打され、無力化される。一希は意識を失う寸前に顔を見上げる。しかし、相手の顔はよく見えない。
(だ……れ……)
◇
輝真は一希がいるであろう小屋に入ると、盗賊の1人が一希の首に針を刺しているところだった。咄嗟に輝真は棒で盗賊の頭を思いっきり殴打する。それと同時に棒は折れてしまった。
「一希!」
輝真は一希に駆け寄り、彼女の状態を確認する。どうやら眠っているだけのようだ。輝真は彼女の首に刺さっていた針を持つとピクセルが解析する。
【強力な薬物を検出。睡眠効果があります】
「一足遅かったらどこかに連れていかれていかもしれなかったってことか…」
輝真は一希がそうなる前に見つけることができてよかったと思うと同時に彼女の体の状態に言葉を失う。
『これは……酷いですね……』
一希の体は傷だらけで、中にはまだ新しいものもあるようだ。おそらく盗賊たちによって受けた拷問か何かだろう。そして右足は膝から先がなく、切断されたということに心が痛む。
(あいつら……!)
輝真は怒りに震える。そして盗賊たちに対する憎しみが湧き上がってくる。
「ただでは済まさないぞ……」
輝真は低い声で呟くと同時に、何か考え事を始めた様子でじっと周囲を見渡す。そして彼の視線は建物の外に倒れているオーガに向けられた。
「……いいことを思いついたぜ」
『輝真さん…?』
輝真はニヤリと笑みを浮かべる。その表情には狂気が宿っていた。彼は冷静さを失いつつあったものの、頭の中では計画が着実に形作られていた。ローウェルは輝真の内の黒い野心を感じ取っていた。