1人目のいる場所
輝真は鉱石を採取しながら入り口に戻っていた。そしてふと気付いた。洞窟の主であるモンスターを倒してしまったことでこの洞窟はどうなるのだろうと、ローウェルに聞いてみる。
「なあ、この洞窟の主を倒しちゃったからこの洞窟の鉱石めっちゃ採られるんじゃないか?」
『その心配はありません。さっき調べてみたのですが、あの洞窟はコーカサスケイブや虫型モンスター達を湧かせて難易度を保ち、鉱石の乱獲を防ぐという構造になっているようです。また来るときはコーカサスケイブはまた湧いてますよ』
「えぇ~…何そのセキュリティシステムみたいな…」
『モンスターは地中で蓄積したマナンが形を作って実体化した姿なんです。だからモンスターは定期的に討伐する必要があるんです。放っておけばモンスターだらけになって面倒なことになりますからね』
「つまりは、モンスターは無限湧きするってことか…」
【現にあの洞窟は希少な鉱石が乱獲されるのを防ぐ為、コーカサスケイブというモンスターが調和を保っていると言っていいでしょう】
「じゃあ俺はその調和を乱したと?」
『輝真さんなんかよりあのクソ皇帝の方がよっぽど世界の調和乱してますよ』
(ローウェル、あの皇帝のこと嫌ってんなぁ。まあ俺もだが)
そんな会話をしながらも輝真は無事、洞窟の外に出ることができた。日の光が眩しく輝真は思わず手で顔を覆う。
「おめでとう、約束通り手に入れてきたみたいだな」
輝真は聞き覚えがあるその声に少し手を退けて見てみるとそこにはラーペが立っていた。
「もしかしてお前の目的はこれか?」
輝真はインフィニットリングを出してラーペに問うが彼は首を横に振る。
「そんなもん、俺には使えない。重要なのはただ単にお前の力が知りたかっただけだ。そしてお前はそれに合格したわけだ」
「……?」
輝真は何が合格なのかわからず困惑する。ラーペはへらへらと笑っていたが急に真面目な顔になった。
「さて、おふざけはそこまでにしてお前に有益になるであろう情報を与えてやろう」
ラーペは少し間を置き、咳払いをすると話し出した。
「この町からずっと東へいくと廃れた村がある。そこは所謂、無法地帯で主に盗賊が根城にしている。その廃村には最近、女を仕入れたとかどうとか聞いたな」
「……っ!」
「最もその女は奴隷として買われていたが、盗賊の襲撃を受け、買い手は死亡。残った奴隷は盗賊に所有権が渡り、今では盗賊達のお楽しみにされているようだな」
「……」
輝真は拳を握りしめ、爆発しそうな怒りを必死で抑える。ここで感情的に動いたら失敗しかねないと思ったからだ。輝真は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「…今の話、本当か?」
「悪魔は嘘はつかねえよ。寧ろ人間の方がよっぽど大嘘つきだ」
「なんで悪魔が俺にそれを話すんだ?あんたは一体何を企んでいる?」
輝真は情報を教えてくれるのはありがたいが、何故こうも詳しく教えてくれるのか、何か裏があるんじゃないか、そう思っていた。だがラーペからの返答は輝真の耳を疑うものだった。
「あのガレット帝国の皇帝を報復するためだ。アイツとはちょっと因縁がある」
その言葉に輝真は意外だなとでも言いたげに目を見開く。ラーペは話を続ける。
「だが、ただ報復するだけでは面白くないと思ってな、それでお前に目を付けたってワケだ。お前の内に眠る衝動に興味がある」
「……どういうことだ?」
「なーに、近い内にわかるさ。近い内にな」
ラーペはニヤリと笑うとその場から姿を消した。輝真は少々モヤモヤしつつも、隠れ家に戻り、ローウェルにラーペが言っていた廃れた村について聞いてみる。
「廃村について何か知ってるか?」
『あの廃村は盗賊の他にもモンスターが蔓延ると聞いています。その為、協力な用心棒が雇われているらしいです。その用心棒には気を付けた方がいいでしょう』
「だろうな。用心棒がいるのもなんだか在り来たりな気がする。……よし、できた!」
輝真は作製士のジョブを駆使して何かを作り上げたようだ。それは片手に収まる何かしらの台のようなものだった。
『……なんですかこれ?』
「スマホの充電器」
『え?すま…ほ…?』
困惑するローウェルを他所に輝真はその台にスマホを置くとぴったりと嵌まり、スマホの後ろから魔法陣が展開し、画面に充電中と表示された。
【この端末はマスターが元いた世界で使われる物。この世界では電波は存在しないので通信は不可能と思われます】
ピクセルはそう指摘するが輝真はふふんと笑う。
「確かに通話やネットはできない。でも一部のアプリは使えたりするんだよな。例えばカメラとか…」
『その使えるアプリってやつをどうするんです?』
「それはまぁ…色々とな…」
輝真はそう呟きながらまた作業に戻る。ローウェルは輝真が作ったであろう充電器を見つめる。
(エレクト鉱石…、マナンを流すと帯電する鉱石...。この鉱石は多く使えば電気も強力になるが、これはほんの微量しか使われていない。少量だけの有効活用は初めてだわ…。それにこの魔法陣もマナンを溜め込む仕組み…。なるほど、あらかじめマナンを溜め込み、それをエレクト鉱石に流して電気を発生させて自動的に充電されるってことか…)
ローウェルは輝真が作った充電器の仕組みを分析していると、輝真が口を開く。
「なあ、あの洞窟に隠されていたインフィニットリング、天使でも気付かない程の結界が張られていた…」
『魔王がいた時代…、7人の勇者を支えている作製士がいたと言われています。言わば、縁の下の力持ちのような存在だったみたいです。その者は他の7人からは8人目の勇者に相応しいとされていましたが、貴族や王族は作製士が勇者と呼ばれるのは贅沢過ぎと認められなかったそうです。魔王や私ですら気付かない結界を張れる優秀な人材だったにも関わらず...』
(王族や貴族は作製士に何か恨みでもあるのか?)
作製士の扱いの悪さに輝真は思わず顔をしかめてしまう。とはいえ、今の輝真はそんな名誉とやらに構ってる暇はない。彼はピクセルに話しかけた。
「ピクセル、ここから廃村までどのくらいかかる?」
【徒歩で行く場合、推定半日かかると予想します】
「遠いな…」
【ですので、こちらをお使いください】
ピクセルがそう言った瞬間、何もない筈の壁がシャッターの様に上に上がる形で開き、そこには輝真が見覚えのあるものがあった。
「……エレベーター、なのか…?」
【その通りですマスター、どうぞお乗りください】
ピクセルがそう言うと、エレベーターのドアが開く。輝真はピクセルの言う通りに乗り込むと、エレベーターは下へと降りていった。そして止まり、再びドアが開くと少し薄暗くて見にくいが、その先にはこれまでの隠れ家とは違い、正に研究所そのものとも言える場所があった。輝真はその光景を目にして呆気にとられる。
「ここは……」
【博士のラボへようこそ】
輝真はエレベーターから出ると、辺りを見渡しながら歩いていく。するとカオスギアのキューブから一点の方向に向って光が放たれた。その光は一番奥の部屋を示していた。その部屋に近づくと、ドアが自動で開き、まるで入ってくださいとでも言っているかのようだった。輝真は少々戸惑いつつも中に入る。
「これは……!」
『わーお……でっかいキューブ…』
そこには部屋の中央にゆっくりと回転しながら浮いているカオスギアのキューブを大きくしたようなものだった。そして輝真は察する。
「もしかしてピクセルか?これがお前の本体なのか?」
【ご名答ですマスター、それと同時にこのラボのコアでもあります。これよりこのラボの権限をマスターに移行するためのスキャンを行います。私の前に立って下さい】
輝真はピクセルの言われた通りに、本体である大きなキューブの前に立つとピクセルから光が放たれ、輝真をスキャンしだした。
【スキャン完了。ラボの全権限がマスターに移行が完了しました】
その瞬間、薄暗かったラボが明るくなる。どうやら照明が作動したようだ。すると輝真の元に何かがやってくる。その姿は丸みを帯びた体に可愛げのある顔、マジックハンドのような手をした2本の腕と、2本の脚が生えたロボットだった。
「ロボット…?」
【いえ、マスター、これは博士が作りだした小型ゴーレムです。私がこのゴーレムを通してラボの案内を務めます】
「お、おう…」
ピクセルはロボット型の小型ゴーレムを通して輝真にラボの案内をした。素材置き場と制作を行う部屋や実験を行う場所など、一通り案内するとピクセルは輝真の方を向くと手を差し出す。
【マスター、これを】
「ん?」
ピクセルから渡されたのは、1枚のカード。そのカードには何やらバイクのシルエットのようなものが描かれている。輝真はこれがなんなのか察する。
「これは、バトルカードキーか?」
【はい、これは乗り物を召喚するバトルカードキーです】
「乗り物!ということは…!」
輝真はそのカードキーをカオスギアに装填する。
VEHICLE ABILITY
するとカオスギアから光が照射され、そこからバイクのようなものが生成されていく。しかしよく見ると普通のバイクとは違い、前輪が2つあった。
「これは……三輪バイク?」
【これはマナンストライカーという乗り物です。この世界では道がほとんど整備されていないところが多いため、転倒防止対策のために三輪になりました。これを使えば廃村まで早く着くでしょう】
輝真はマナンストライカーを見て興奮し、早速乗りこんだ。
「すげえ!なら早速廃村まで――」
【その前に操縦の仕方を覚えてください】
『だから早まらないでって言ってるでしょうが!』
ローウェルとピクセルに突っ込まれ、輝真は渋々マナンストライカーを降りてピクセルの指示で操縦方法を教わることになった。