カオスギア
洞窟の主に追い詰められた輝真は突如ひとりでに動き出したキューブにベルトのようなものを装着させられ、気を失う。ローウェルはいきなり意識を失った輝真を起こそうと呼びかける。
『輝真さん!?なんでこんな時に寝ちゃうんですか!?それじゃあ殺してくださいって言ってるようなものですよ!?起きてください!っていうか起きろ~!!』
「……」
◇
「……ん?なんだ?ここは…?」
輝真は辺りを見渡すとそこは白い空間に緑の数字が何かのプログラムのようにびっしりと連なっていた。すると機械的な女性声が聞こえてくる。
【ここはカオスギアのデータ内部です。ようこそ、伯崎輝真様】
その機械的な声と共に目の前にあのキューブを大きくしたものが現れる。声はそこから発せられているようだった。
「誰だあんた?何故俺の名を知っている?それにカオスギア?なんだそれ?」
輝真の次々と出る質問にキューブは1つずつ答えていく。
【私はカオスギアに搭載された人工知能、ピクセルと申します。カオスギアとはあなたが装着しているベルトのことです。使用者の身体能力を大幅に上昇させるパワードスーツと言っておきましょう】
「パワードスーツ…」
【あなたの行動は博士が作った隠れ家に来てから、あのキューブを通して見てきました。よってあなたをマスターにする判断に至りました】
「人工知能…、AIか…!博士ってのはあのかつての転移者のことだよな…。てかマスターってどういうことだよ?」
ピクセルと名乗るAIはかつての転移者が作りだし、カオスギアと呼ばれるベルトの所有者に相応しい人物を探していたのだという。ピクセルは話を続ける。
【博士は病弱の身であったため、このカオスギアを使うことはできませんでした。そして私を作り、カオスギアを使うのに相応しい人物を見定めて欲しいと託されました。悪用されるのを防ぐ為に。そしてあなたが適任と判断しました】
「それがマスターってことか…」
【その通りです。そしてマスターなった人物の為に尽くすのが私の使命。あなたの事情もある程度把握しています。キューブを通して天使との会話を聞きました。あなたに力を与えます。博士が作り出したカオスギアの性能を】
輝真は唖然とする同時に少し考える。だが答えは1つだった。
「…なんだかよくわからんが、あいつらを救えるのなら悪魔の手だって使うつもりだ。なってやるよ!マスターってやつに!」
【認証、伯崎輝真をマスターに任命しました。カオスギアの権限が全てマスターに渡りました。カオスギアのロックを解除します】
「確かカプセルだったか?カオスギアを存分に使わせてもらうからな!」
【ピクセルです。カオスギアは正式にマスターのものとなりました。カスタムも自由にしてもらって構いません】
輝真はふっと笑うとピクセルが光輝き、目の前が真っ白になった。
◇
「ふぁ…!?」
『わあ!?急に寝たと思ったら急に起きたぁ!?』
突然目を覚ました輝真にローウェルは驚く。輝真は何か手に持っているような感触がして、見てみると、そこにはキューブが点滅していた。するとピクセルの声がキューブから聞こえてくる。
【マスター、このキューブをカオスギアに装填してください。これでカオスギアは完成します】
『キューブが喋ったああああ!?え!?何これ!?どうなってるの!?』
驚くローウェルをよそに、輝真はカオスギアの中央にある四角い窪みを確認し、ここだなと確信する。そしてキューブを嵌め込むとぴったりと嵌まった。
CHAOS GEAR BOOT
機械的な音声が流れ、カオスギアが起動した。するとピクセルが声をかけてくる。
【カオスギア起動、システムオールグリーン。マスター、隠れ家に入るときに使った鍵を取り出してください】
輝真はピクセルの言われた通りに鍵を取り出した。
「これをどう使うんだ?」
【カオスギアの上部に鍵穴があります。そこに差し込んでください】
「差し込む…、こうか…」
KEY SET ON
鍵を差し込むと機械音声が鳴り、キューブ部分が展開する。
【最後に装着コードを設定してください】
「装着コード?」
【いわゆる、掛け声です】
「そういうことね…。…じゃあ変し…いや、やめとこ。うーん、よしっ決めた」
『あのー、ちょっと?さっきから状況が追い付かないんですけど…』
「後で説明するから今は黙ってろ」
状況が理解できていないローウェルをスルーし、輝真は少し間をおいたあと、意を決したかのように口を開いた。
「……着装」
【認証コードを設定しました。カオスギアシステム、フル稼働】
SYSTEM ACTIVE
すると、カオスギアのキューブ部分からエネルギー体のキューブが現れ、輝真の頭上に移動し、大きくなると、輝真に覆い被さった。そして高速回転をした後、たくさんの小さなキューブに分裂して弾け、消滅する。そこにはメタリックなフルアーマーを身に纏った輝真がいた。
ATTACHMENT CONPLETION
【戦闘鎧カオスアーマー、装着完了しました】
「カオスアーマーか…!おぉ…!これはすげえ…!」
『えぇ~!?ちょっとちょっとぉ!?なに!?なんなのこれ!?どうなってるの!?』
「ローウェル、うるさいぞ」
輝真はカオスギアの機能でフルアーマーに身を包んだ自分の姿に感激していたらローウェルが騒ぎだして不機嫌になり、黙らせる。ふと近くにあった鉱石が鏡のようになっており、自分の姿を確認する。そこには銀色のようなメタリックなヒーローっぽさを思わせる風貌で、装備していた籠手とブーツはアーマーと融合しており、アーマーの所々には水色の光が流動経路のように流れており、顔は下を向いた矢印のような水色のバイザーが覆っていた。そして自分の目線も画面のようになっており、両端にダメージレベルやマナンの残量などが色々と表示されている。
『ちょっと輝真さん!?なんでそんなに驚いていないんですか!?』
「いや…、俺のいた世界ではこういうのが──」
『あったんですか!?そういうのが!?』
「話最後まで聞けよ…」
ローウェルの早とちりに輝真は呆れていると洞窟の主が起き上がっており、突進しようとしていた。
「あ、忘れてた……」
「グガアアアアアアア!!!」
洞窟の主が忘れられていたことに怒っているかのように突進してきた。輝真はそれをジャンプで避けた。すると変身前以上に高くジャンプし、輝真は思ってたよりも身体能力が大幅に向上していることに驚く。
「うおっ…!?ここまで飛べるとは思ってなかった……!」
【籠手やブーツはアーマーと一体化させました。これにより前より機能が向上したのです】
「……なんか行ける気がしてきたぞ!」
テンションが高くなった輝真は洞窟の主に目掛けて走り出した。
「これでもくらえ!」
輝真は洞窟の主に目掛けて拳を叩き込んだ。だが、効いている様子はなかった。
「あ、あれ?」
【只今威力加減を最適化中です。高い状態で使えば逆に体が壊れてしまいます】
「早く言えよ!てかそれ今やるのかよ!せめてここに来る前にギア渡して調整すればよかったじゃねえか!」
【そうですね、迂闊でした。申し訳ございません。博士はこういうピンチな時に力を与えるのがいいと言っていましたので試してみたのですが、効率的ではなかったようですね】
「ちくしょう!作成者が生きてたら文句を言ってやりたかった!!」
輝真が悪態をついていると、洞窟の主が大きな腕を振るってきた。輝真は回避が間に合わず、直撃する。
「痛ってえ!…って、あれ?痛いのは痛いがそれ程ってわけでもない…」
【カオスアーマーの防御力は高めに設計されています。そう簡単にはこの防御は貫けません。限度はありますが】
カオスアーマーのお陰でダメージは最小限に抑えられたが何度も耐えられるわけではない。すると洞窟の主がまた突進してきた。
「また来るぞ!?」
『しょうがないですね。目を閉じてください。フラッシュしますよ』
「ふぁ!?ちょ、待っ──」
すると十字架からまた強力な光が発せられ、洞窟の主は怯む。そして光が止むと輝真の姿はなかった。
「グウウウウ…」
洞窟の主は輝真を探して洞窟内を歩き回る。一方の輝真本人は近くの岩の後ろに隠れていた。
【マスター、お待たせいたしました。調整が完了しました】
「お、終わったのか?よし、なら気を取り直して……」
カオスアーマーの調整が終わったと聞いた輝真は洞窟の主が後ろを向いている隙に背中に向かって飛び蹴りを放った。
「オラアアアア!!」
ドゴォ!
「グルァ!?」
洞窟の主は蹴られた衝撃で前に倒れる。だがすぐに立ち上がり、輝真の方を向いた。
「グガアアアアアアア!!」
「第2ラウンドといこうか!」
輝真は洞窟の主の懐に素早く潜り込むと、その体に拳を叩き込む。すると洞窟の主は怯んだ。
「よし、今度は効いてるな…!」
『さっきは効かなかったのに…』
【マスター、あのモンスターは攻撃が大振りです。よって攻撃の後にできる隙を狙っていくことをお勧めします】
ピクセルの言う通り、洞窟の主の攻撃は破壊力はあるものの外したときの隙が大きいのだ。輝真はその隙を狙ってさらに同じ場所を重点的に攻撃していく。
『なるほど、同じ場所を攻撃していくことでいずれ大きなダメージになるってことですね』
ローウェルがそう納得していると、洞窟の主はこれ以上攻撃を受けないようにするためか、翅を広げて後ろに飛んで距離を取った。
【洞窟の主が戦法を変えるようです】
「あいつ結構知能あるんだな…」
洞窟の主は飛ぶことによって攻撃を回避し、さらに空からの攻撃で優位に立つつもりだ。そのまま角を突き立てて突進攻撃を仕掛けてきた。
「だったらこっちも地形を利用してやる」
輝真はそう言うと背後にある岩盤に向って走り出す。洞窟の主も逃がすまいと飛んで追いかけてくる。カオスアーマーで強化されているとはいえ、洞窟の主の飛ぶスピードの方が断然速い。だが輝真は方向を変えることはなく、そのまま岩盤目掛けて走る。そしてジャンプして岩盤を蹴り、そのまま洞窟の主の突進を避けると同時に後ろに飛んだのだ。
「とおっ!!」
「グルア!?」
洞窟の主は輝真のその動きは予測できなかったのか、岩盤に勢いよく突っ込み、角が深々と刺さってしまう。必死で抜こうと翅を羽ばたかせているところを輝真は見逃さない。
「そこじゃー!!」
輝真は洞窟の主の背中に乗ると固い鞘翅を引きちぎった。
「グガアアアアアアア!!」
「思った通りだ。固い鞘翅の内側は柔らかいのは甲虫と同じだな!」
さらに薄い翅をもぎ取ることによって洞窟の主の飛行手段を断つ。翅をもぎ取られたことで洞窟の主は輝真振り払おうとするが、岩盤に刺さった角が抜けないため、思うように動けない。
【カードキースロットルのロックを解除。マスター、これをお使いください】
すると、カオスギアのベルト部分の右側に付いているパーツ、カードキースロットルが展開し、1枚のカードキーが出てきて輝真の手に収まる。そこには拳の絵が描かれていた。
「これは…」
【これはバトルカードキーです。カオスギア本体に装填してください。そうすることで強力な攻撃を行うことができます】
ピクセルがそう言うと、カオスギアの矢印の模様が発光しており、その矢印の示すパーツがカードキーの挿入口のようだ。輝真はその挿入口にカードキーを装填する。
PUNCH ABILITY
すると、アーマーの腕が発光し、矢印が浮かび上がった。輝真は拳を握り締め、洞窟の主の柔らかい背中を殴りまくる。洞窟の主はこれにはたまらず、叫び声をあげた。
【キーを回して必殺技をチャージしてください】
「あぁ!」
CHARGE UP
カオスギアから音声が流れると、腕の光がさらに強くなり、輝真は拳を強く握り締めた。
「これで……終わりだぁ!!」
PUNCH ABILITY STRIKE
そのまま背中に向けて拳を突き出す。すると拳は洞窟の主の体を貫いた。洞窟の主は断末魔を出すこともなく、静かに事切れた。
『わーお!?予想以上の威力……!』
「か、感触が気持ちわりぃ……」
輝真は洞窟の主の体を貫いた拳をゆっくりと抜く。それと同時に洞窟の主は消滅し、光球となって輝真に吸収された。輝真はカオスギアから鍵を引き抜くと、カオスアーマーが解除されて元の姿に戻った。
【コーカサスケイブのコアがマスターに吸収されたのを確認。おめでとうございます。これによりマスターの身体能力もレベルアップしました。それに合わせ、カオスアーマーの調整を行います】
「あの洞窟の主、そういう名だったのか」
『やりましたね輝真さん!さあ、奥へ行きましょう!』
「あぁ、そうだな……」
◇
『なるほど、輝真さんの世界にはそういうAIなるものがあると…。そしてそのカオスアーマーでしたっけ?それに似たものがバングミっていう演劇に似たものであると…』
「まあ…な。だがピクセルは規格外だが…」
輝真はローウェルに自分の世界のことを話していた。とはいえ、自分の世界とこの世界はある物とない物の違いがある。
『でもすごいですねそのカオスギアっていうアイテムは!さっきのモンスターも倒しちゃったし!』
「バトルカードキーっていうのも種類があるみたいだし、今度試してみようかな」
そんな会話をしているとついに最深部にたどり着いた。そこには台座がポツンとあり、その台座の上には緑色のリングが輝きを放ちながら鎮座していた。
『あれは…!インフィニットリング!?』
「えっ?あれが?」
『はい、間違いないです。まさかこんなところにあったなんて…』
なんと洞窟の最深部にあったのは輝真が集めるべきアイテム、インフィニットリングだったのだ。輝真は台座に近づき、そのリングをまじまじと見る。
「結構大きさあるな。腕がすっぽりとはまりそうだ」
輝真がそう呟いていると、ローウェルが口を開く。
『おかしい…私はインフィニットリングの気配を感じ取れるのに…』
「おい、そんなの聞いてないんだが?」
輝真は苛つきながらローウェルを睨む。ローウェルは声を上げて言い返す。
『そんなこと早々に教えたら輝真さん準備もせずに突っ走るしょうが!』
「……」
輝真は否定できないのか、目を逸らしてしまう。すると、ピクセルが輝真に話しかける。
【マスター、インフィニットリングの台座には探知されないための妨害電波システムが備わっているようです。天使が探知することができなかったのはそのためでしょう。それと結界も張られています。簡単には回収できません】
輝真は手を伸ばしてみると、見えない何かに触れた。すると台座の周りを囲うように結界が張られているのが確認できた。
「…もしかして、もっと昔にも凄腕の作製士がいたのか?」
『……一応心当たりはあります。ですが今はインフィニットリングを回収しましょう。輝真さん、私を台座の結界に近づけてください』
輝真は言われた通り、十字架を台座の結界に近づけると、十字架は光り輝いたかと思ったら、パリーンとガラスが割れるような音が鳴り響くと同時に結界が消滅する。
『これで結界はなくなりました。さあ、輝真さん』
ローウェルに促され、輝真は頷くとインフィニットリングにゆっくりと手に取った。すると、インフィニットリングは輝きを放つと輝真手首に嵌まった。
「まずは1つ……」
インフィニットリングを手に入れた輝真は静かにその場を後にしたのだった。