彼女達はここにいる
輝真は強烈な光で意識がもうろうとする中、目を開けるとそこは広い空間、もとい、まるで中世ヨーロッパ風の城の中のような場所だった。輝真は周りを見渡すと、そこには自分以外にクラスの生徒達全員がいた。
(ここは…?まるで城…。何がどうなって…)
輝真は状況を把握しようとしていると鎧を着た複数の兵士と見るからに国を治める王様のような雰囲気の人物が現れる。
「ほう!かなりの数を召喚できたようだな!」
王らしき人物は召喚された輝真達を見て何やら嬉しそうな感じだった。
「これで戦争の駒がたくさんできるな!」
「「「!?」」」
輝真達は目を見開く。なんとこの王らしき人物、輝真達を戦争の道具にしようとしていたのだ。すると男子生徒の1人が声を上げる。
「おい!ふざけんな!いきなりこんなとこに連れてこられたと思ったら戦争だと!?俺達をなんだと思ってるんだ!!」
1人の男子生徒を筆頭に次々と他の生徒達も抗議する。すると側近らしき人物が前に出る。
「お前達に拒否権はない!先程から頭が高いぞ!このお方はこの地、ガレット帝国を治める皇帝、オレンス・カンケ・ガレット様であらせられるぞ!」
「知らねえよ!」
「てか何だよ皇帝って!」
(まあ、いきなりそんなこと言われてもなー…)
生徒達が抗議する中、輝真はどうしたものかと考える。色々情報量が多過ぎて逆に冷静になっているのかもしれない。
「俺達を元の世界に帰してくれよ!」
「そうよ!スマホのWi-Fiも使えないし!」
「残念だがそれは不可能だ」
「「「えぇ!?」」」
「「「はぁ!?」」」
皇帝であるオレンスのその一言で輝真達は驚きを隠せない。どうやら元の世界に帰す気など微塵もなかったようだ。
「連れていけ!」
オレンスがそう指示すると兵士達が輝真達を取り押さえ、どこかに連れていく。そして1人1人、牢屋に放り込まれた。
「……っ」
牢屋に乱暴に放り込まれた輝真は頭を強打し、悶える。そして痛みが引いていき、落ち着いたところを周りを見渡す。とはいっても何もない。扉は鋼鉄製、で壁は石レンガ、明かりは薄暗いランタンだけというなんとも殺風景な場所だった。
(駄目だ…。情報量が多過ぎて何が何だか…)
輝真はそのまま倒れこみ、眠りに堕ちていった。
◇
バシン!!
「…っつ!!」
「起きろ!」
突如頭に衝撃が走り、輝真は目を覚ます。そこには1人の兵士が棒を持っていた。どうやらその棒で輝真を叩き起こしたようだ。
「来い!」
気持ちよく寝ていたのを無理矢理叩き起こされたことに文句を言う暇もなく、腕を掴まれて連れていかれる。すると、オレンスの側近らしき人物が手から魔法陣を出しながら生徒の1人を調べるかのように見ていた。
「ミエイルよ、この者のジョブはなんだ?」
「剣士のようです」
「うむ」
どうやら生徒達が召喚された時に得たジョブというのを調べているようだ。オレンスの側近らしき人物、ミエイルは生徒を1人1人と見ていく。弓使い、槍使い、体術、魔術師、暗殺者等々…。輝真は自分のジョブはなんなんだろうと少し楽しみになってきていた。そして遂に輝真の番になる。
「彼のジョブは…作製士!」
「なんだ、物を作るだけの役に立たないジョブではないか」
「え?」
「こいつは捨ててこい」
「皇帝、今ここで始末してもよろしいのでは?」
「面倒だ。どうせ捨てても野垂れ死だろう」
「え、ちょ…」
輝真は状況がいまいち理解できてないようだった。ただ分かったのは、自分のジョブは役に立たない。そして捨てられること。
「戦力にならないジョブは必要ない」
すると兵士達が輝真を担ぎ上げ、窓に向って運んでいく。
「え、まさか、ちょっと…!」
兵士達は輝真をそのまま外へ放り出した。
「は、伯崎ー!」
輝真は放り出された先の川に落ちた。その川はとても流れが激しく、輝真はなすすべなく流されていった。
(や、やばい!息が!し…死ぬ…!)
輝真はどうにか水面に顔を出して息継ぎをしながら流されていった。
◇
「ハァ…ハァ…、なんとか助かった…。」
輝真は息継ぎをしながら耐えた結果、流れが穏やかになったところでようやく陸に上がり、一息をついた。
(ここは…どこだ?)
輝真はあたりを見渡し、今の状況を把握しようとする。どうやら森の中に流れ着いたようだ。すると森の奥からキラッとなにかが光った。
「……?」
その光はやたらと不規則でゆっくり点滅したり、速く点滅したりを繰り返していた。不思議に思った輝真はその光があるであろう場所に足を進めると、そこには泉があった。
「泉?こんなところに何があるんだよ…」
輝真は泉を覗き込んでみる。それはとても透き通っており、誰が見てもきれいだと言いたくなるような感じだった。そんな泉に見とれていると突然泉が勢いよく水しぶきを上げたかと思うと中から一人の女性が現れた。
「だ、誰だ?」
泉の中から現れた女性は背中に羽のようなものが生えており、まるで天使のようだった。
「異界からの人間よ、私はローウェル、あなた達が天使と呼ぶ存在です」
「て、天使?」
ローウェルと名乗る天使は話を続ける。
「あなた達の事はここに召喚されてからずっと見ていました。いきなり知らぬ地に飛ばされた上に戦争の駒にされ、挙句の果てにあなたは役立たずのジョブ持ちだからという理由で無残に捨てられ、さぞ大変だったでしょう」
「ま、まあ…」
どうやらローウェルは輝真達が召喚されたことを知っているようだった。
「私はあなたを……って、あーもう!こんな堅っ苦しい口調は慣れないわ!もういい!いつも通りの方がいいや!」
「は…?」
輝真は突如口調が変わったローウェルに困惑した。どうやらこっちの方が素のようだ。
◇
「まあ要するにね、あなたがあまりにも可哀想だったからここに呼んだってわけなんです。川の流れを操作してここに来るようにね」
「あの川を…?」
さっきとは打って変わって、ローウェルの気さくな話し方に輝真は複雑な心境になる。
「あなたが泉を覗いたときに少し記憶を覗かせていただきました。7人の女性を探しているようですね。でも彼女達は外国に売られてしまって、助け出したくもどうしようもないと……」
輝真は驚きつつも、ゆっくりと頷く。
「それなんですが、彼女達はどうもこの世界にいるみたいです」
「え!?」
ローウェルの発言に輝真は目を丸くする。そしてふとあの映像を思い出す。周りにあった謎の文字、それはあの皇帝の城にも似たようなものがあった。
「1ヶ月くらい前でしょうか?その時にあのガレット帝国に七人の女性が転移されてきたんです。彼女達はどうやら奴隷として売られることを前提として召喚されて、好き放題にしたあげく1人1人を別の場所に売り飛ばしたとか…」
「は、はぁ!?」
なんと輝真が召喚された帝国で彼女達も召喚されていたようだ。しかもすでに売り飛ばしているという最悪なおまけ付きで。
「あの帝国、あなたの世界の人とグルでしょうね。全くあのクソ皇帝は…」
ローウェルもオレンスのことが気にくわないのか悪態をつく。すると輝真はローウェルを睨みつけながら口を開く。
「彼女達が召喚されたのを知っていたのか…!何故助けてくれなかったんだ!?天使が見て見ぬふりか!?」
輝真はローウェルに怒りをぶつける。彼からすれば売り飛ばされる彼女達を見ていたのにもかかわらずほったらかしにしていたという認識になるだろう。だがローウェルは気まずそうに口を開く。
「私は監視はできても過剰に干渉することはできません」
ローウェルはそう言いつつ輝真に触れようとする。すると彼女の手がすり抜けてしまい、輝真は目を丸くする。
「このように私はこの世界に干渉ができないので助けようにも助けられないのです。天使は世界に直接干渉してはならないという決まりがあるんです。まあ、干渉とはいってもさっきみたいに川の流れを操作するようなちょっとしたことしかできませんけどね。だからあなたを呼んだのです。私が彼女達を救う手伝いをしますし、元の世界に帰る方法も教えます!その代わり、あのガレット帝国を滅ぼしてほしいんです!」
「滅ぼす?そんなことしていいの?」
「いいんですよ!あのクソ皇帝は前々から異世界から人を召喚しては武器の材料にする禁忌を平気で行い、女性を召喚しては好き放題にした後、飽きたらポイしたりしてるんです。それで今回はあなた達を召喚しては戦争の駒として!あれほど性根の腐った人間は容赦なく地獄に突き落として上げればいいのですよ!これは天罰です!」
(凄え言われよう…)
どうやらオレンスは今まで異界の人を召喚しては好き放題にしていたらしい。そりゃあ天使も怒るのも無理はないだろう。
「でも、俺のジョブは役に立たないって…」
「それはあのクソ皇帝の目が節穴なだけですよ。作製士だってちゃんと戦えるんです。少々癖はありますが」
輝真は少し考え込んだ後、おもむろに口を開いた。
「本当に協力してくれるんだな?彼女達を救うのと元の世界に帰るのを。その代わりにあの帝国を滅ぼすと」
「はい、もちろんです。それだけじゃなく褒美も与えますよ」
「褒美はどうでもいい。第一は彼女達を救う事、帝国はついで。それならあんたの話に乗る」
「ワオ!それなら交渉成立ですね!」
その瞬間、ローウェルが光り輝いたかと思うと十字架の付いた首飾りとなり、輝真の手に渡った。
『私はこの状態であなたをサポートします!干渉はできなくても導くことはできるんです!どうぞよろしくお願いしまーす!』
「…よろしく」
『とはいえ、先ずは準備が必要ですね。準備に最適な場所があるので案内しますね』
すると十字架が光りだし、一点の方向に向って光を放った。
『さあ、行きましょう!』
「ああ…」
輝真はローウェルに従いながらその光についていった。果たして彼女達を救うことはできるのか?そして帝国を滅ぼすことができるのだろうか?彼女達の無事を祈りつつも輝真は光の指す方向へ進んだ。