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売られた彼女達

俺は送られてきたUSBメモリに入っていた動画ファイルを開く。そこに映し出されたのはカナだった。しかし、服は着ておらず、ボロボロの布を纏っただけでよく見ると体中に暴行を受けたかのように痣があり、首には鉄の首輪のようなものがつけられており、鎖で繋がれていた。周囲は薄暗く、地下みたいで、牢屋っぽくもあった。


『テマ…久しぶり…私達がいなくなってどれくらい経ったのかな…?』


カナは笑顔で話しているが、無理にその表情をしているだけであり、その顔は明らかに泣いていた。すると屈強な体格の男が現れ(顔は見えない)、カナを殴り付ける。


『ぐぅ…!や、やめてください!話します!話しますから殴らないでぇ…!…ごめんねテマ、実は私達、どこかに売られるみたいなの...。どこかわからないけど…』


売られる…。明らかに人身売買で論理感の欠片もない非道な行為に吐き気を催す。


『あ、あはは……。まさか、私の人生でこんなことが起きるなんて思ってもなかったよ……。』


カナは笑顔でそう話すが、涙はボロボロとこぼれいる。すると先程殴った男が今度はカナの腹に蹴りをいれた。


『ゔぉえ…!?がはぁ…ごほ!げほっ…』


カナは蹲り、嘔吐する。すると男がまた殴ろうと拳を振り上げる。


『待っでくだざい…。話すからぁ…。フー...フー...だからこれを通してお別れを言おうと思ったの…もう会えないから…ごめんねテマ…』


すると画面が移動し、別の場所が映される。そこにはカナと同じく首輪に繋がれ、暴行されたであろう怜衣、真弓、由紀乃先輩、有紗、一希、エリジェの6人の姿があった。皆酷い状態で思わず目をそらしてしまう。


『よ、よおテマ、久しぶりだな。ごめんな、急にいなくなったりして…まあ、アタシたちも大体叶の言った通りだ』


普段は強気だった玲衣がここまで弱気になっていた。よく見ると彼女が一番暴行が酷いようだった。


『あぁ、あと真弓はあまりにも叫ぶから口をふさがれちまってな…、何か言わしてやりたかったけど…』


『んんー!!』


口に布を噛まされている真弓は助けてとでも言いたげに泣きながら訴えているようだった。すると今度は由紀乃先輩が口を開く。


『テマ君、このことは誰にも言わないでほしいの。もしそうすれば、家族やテマ君にも危害が及ぶかもしれないから…』


『先輩なら大丈夫ですよ…!それに先輩ならまたいい人がきっと見つかりますって信じてますから…!』


有紗も泣きながら無理矢理笑顔を作っていた。


『だからテマ、僕達の事は気にしないでいいから…。僕達のことは忘れていいから…』


『テマ、Goodbye(さようなら)…』


一希とエリジェは涙ながらにそう言った。しかし、その顔はまるで助けを求めているようだった。


『じゃあね、テマ…。大好きだよ…』


カナがそう言い終えると屈強な男達が彼女達の纏っているボロボロの布に手をかける。


「終わったぞ、おいさっさと続きをしろ』


『いや、もうやめで!これ以上は…お願いだからぁ!』


『うぅ…嫌だよぉ…もう会えないなんて嫌だよぉ…』


『なんでこんな目にぃ…助けてよぉ…』


『嫌だぁ……帰りたいよぉ……』


その瞬間、俺は限界が来て、近くにあったゴミ箱を手に取り、中に向って嘔吐する。そこからは見ていないがビリビリと敗れる音と共に彼女達の悲鳴が聞こえる。俺は耐えられずPCの電源を直接切ろうとしたその時だった。


『このことは決して誰にも言うな』


加工した声が聞こえ、画面を見る。画面は真っ黒で声のみのようだった。


『このことを警察や誰かに話せば命はないと思え。彼女達の想いを無駄にしたくなかったらな』


そこで動画が終わった。俺はUSBメモリを引き抜き、地面に叩きつけようとするが思いとどまる。


「…待てよ」


手に持ったUSBメモリをじっと見つめ、あることを思いつき、それをポケットに入れる。


「こいつを逆に利用してやろう…」


そうと決まれば善は急げ、自室の机の引き出しを開けると小型カメラが出てくる。俺は出かけるときにいつもこれを持ち歩いている。何かあったときの為の証拠として提出するように。何故そんなことをするのか、俺は5歳の時に両親が事故で亡くなった。犯人はひき逃げで証拠もなく、いまだに捕まっておらず、その時から俺は証拠を集めることに人一倍執着するようになっていた。


(とはいえ、彼女達がどこにいるのか検討も着かない。これを警察に出せば、捜査はしてくれるだろうが、そうすればあの映像の言う通り、カナ達の家族に牙が向くだろう。もしかしたら警察の方にも奴らと結託している人物がいるのか?)


考えれば考える程、余計とわからなくなってくる。こうしている間にも彼女達は…


(ダメだ。想像するだけでまた吐き気がしてきた)


気持ちを落ち着かせる為に一旦考えるのをやめ、気晴らしに外へ出る。


「ワンワンッ!」


家を出た瞬間、犬の鳴き声がした。鳴き声が聞こえた方を見ると1匹の柴犬がリードを引きずりながらこちらに向っていた。


「コ、コタロウ?」


「ワンッ!」


コタロウはカナが勝っている犬だ。俺も散歩に連れていったことがある。その為すっかり懐かれている。


「コタロウ!あぁ、テマ君?」


どうやらカナの母親がコタロウを散歩していたらしい。コタロウは俺に飛び付き、尻尾を振りながらペロペロと俺の顔を舐め回す。


「ワンッ!ワン!」


「こらっコタロウ!やめなさい」


俺はコタロウを優しく降ろす。するとコタロウは辺りを見渡した。


「…叶を探しているんだろうね…。叶はいつもテマ君といることが多いからテマ君の傍にいれば叶が見つかるんじゃないかと思っているのかも…」


カナの母親は悲しげにそう話す。俺もそのコタロウの姿を見て泣きそうになる。USBメモリの事を話したくなるが、話せばどうなるかを思い出し、なんとか堪える。



(そうだ、真弓の家に行ってみよう。爺さんから何か聞けるかもしれない)


「ニャ~オ」


「…ん?」


真弓の家に行こうとしたとき、下から猫の鳴き声がした。下を向くと俺の足元に1匹の黒猫が座り込んでおり、こちらをじっと見ていた。


「クロネ…?」


何故玲衣の飼い猫のクロネがこんなところにいるんだろうか?もしかしてコタロウと同じように俺の所に行けば玲衣がいると思っているのだろうか…。


「残念だが、今は玲衣はいないんだよ…」


「ニャ~」


俺はクロネの頭を撫でる。理解しているかどうか分からないが取りあえず玲衣の家に連れていくことにした。



「ありがとねテマ君、この子は玲衣がいなくなってから家を空けることが多くなってね…。まあ、玲衣もこの子を可愛がっていたし、この子も玲衣によくなついていたからね」


「確かにそうでしたね…」


「テマ君も気を付けるんだよ。君は1人暮らしだから色々なことに巻き込まれるかもしれないからね」


「わかりました」


クロネを玲衣の家に届け、真弓の家に向う。途中で黒服の人と出会い、車に乗せてもらった。


(相変わらずでかい屋敷だな)


俺はそう思いながら車から降り、屋敷に近づくと真弓の爺さんに迎え入れられ、現状を聞いてみた。


「足取りがつかめない…!?」


「うむ…部下達を総動員させて、さらには海外まで捜索を広げた。なのに手掛かり一つ掴めない。まるで神隠しでもあったかのようだ」


(この人一体何者なんだ…?)


それ以前にこの爺さん持っている影響力に疑問を抱いてしまうのであった。しかし、神隠しなんてそんな馬鹿げたことが…。だがふと思い出した。あの映像の背景は地下牢獄だったが一瞬文字のようなものも見えた。あれは見たこともない記号のような文字だった。世界の文字に詳しいわけじゃないが、あんな文字はどの国にもなかった気がする。あれは一体何なんだろうか。秘密裏に存在する国?暗号?駄目だ、考えれば考える程謎が深まるし、頭も痛くなってくる。…もう帰ろう、色々ありすぎて疲れた。


「爺さん、そろそろ俺はこれで…」


「帰るのかい?1人では危険じゃ、送ってやろう」


「いいんですか?」


「遠慮はいらん、君も疲れているように見える」


どうやら爺さんに疲れていることを見抜かれていたようだ。俺はお言葉に甘えて送ってもらうことにした。明日学校だしな。



【Side out】


翌日、輝真は失意のまま学校に向かう。登校中にはあれほど絡んできた彼女達はもういない。重い足取りで教室に入り、席に着く。今こうしている間にも彼女達は酷い目に遭わされているというのに。


「おいテマ、大丈夫か?なんだかこの世の終わりみたいな顔してんぞ」


輝真を心配して話しかけたのは、輝真の友人のだった。


「なんでもないさ…」


「なんでもないわけないだろ。いつもお前につるんでいた清川が行方不明になったのが気がかりだろ?最も、清川だけじゃなく井本や澤木、天野までいなくなってるらしいが…」


学校ではこの話題で持ちきりだった。突然、複数の女子生徒の行方がわからなくなったのだから。輝真はその真相を知っているが、動画での忠告から誰にも相談することは出来ない。どうしたものかと机に突っ伏すと、突然床が光りだす。


「なんだ!?」


「え、演出!?」


生徒達が混乱する中、輝真は光っている床が妙な形を描いているのを確認した。


(魔法陣…!?)


その瞬間目を覆うような強い光が一瞬放たれると、そこには誰もいなくなっていた。

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