消えた彼女達
心機一転して新作を書いてみました。
とある一軒家に1人の少年がリビングに座っていた。彼の名は伯崎輝真。普通の高校一年生だが幼い頃に両親を事故で亡くしてしまい、以来、ずっと一人暮らしをしていた。だが彼は寂しくはない、なぜなら……
◇
ピンポーン
インターホンの音が鳴り響く。俺は席を立ち、ドアへ向かう。彼女達がやって来たんだろう。俺は7人の女から好意を寄せられている。普通の人なら戸惑うだろうが、俺の場合はすっかり慣れてしまった。慣れとは怖いものだな。俺はドアに手をかけ、開けるとそこには色んなものを持った見慣れた7人の女がいた。
「テマ、来たわよ」
清川叶、愛称はカナ。俺とは一番付き合いが古い幼馴染だ。近所同士っていうのもあって赤ん坊の頃から親同士で関りがあったらしい。最近俺を自分のものにしようと躍起になっている。因みにテマっていうのは俺のあだ名だ。
「よお!テマ!来たぜ」
井本玲衣、一言で言うなら男勝りなギャル。金髪をよく自慢してきていた。それに力が強くてよく抱きしめるという名の締め付けを喰らったものだ。しかも脳筋でなんでも力で解決しようとする結構危なっかしい奴。その為、不良のレッテルを貼られている。
「えっと…お邪魔します…」
眼鏡をかけた控えめな彼女は澤木真弓。一緒にいるとなんだか落ち着く。実はかなりのオタクで俺も一緒になってアニメとか特撮を見たりした。こう見えてかなりいいとこのお嬢様で厳つい顔の祖父と黒服の使用人達がいてめっちゃ怖かった記憶がある。(とはいえ爺さんは厳ついだけでやさしかった)
「お待たせテマ君、待った?」
篠原由紀乃、俺の先輩にあたる。おっとり系だがよく俺をからかってきて少し鬱陶しいときがある。しかも俺が目の前にいるのにお構いなく着替えたりするなど少々過激なところがある。
「テマ先輩やっほー!」
篠原有紗、由紀乃先輩の妹で俺の後輩。天真爛漫でいつも笑っていることが多く、明るい少女だ。体操部で柔軟な動きができる。
「やあテマ、僕も来たよ」
この僕っ娘は天野一希。ガキの頃、一人称が僕だったこともあり俺は彼女を男だと思っていた。しかし女だということがわかって驚いた。男にも女にも見える中性的な見た目で顔付きも整っているから女子からもモテる。本人は複雑な心境らしいが。
「ハ~イ、テマ!」
エリジェンヌ・オリーヴィ、愛称はエリジェ。家の事情でアメリカから日本に引っ越してきた。俺の名前をテマといい間違えたのがきっかけでそのあだ名が広まった。いわばあだ名の張本人。スキンシップが激しく、俺と会う度によくハグしてくる。
来たとはいえ…、早すぎる。まだ30分ほど早い。
「…まだ30分ほど早いぞ?」
「いいじゃねえか別にそんなの」
「そうだよ早いに越したことはないからね」
玲衣と一希の言う通り、確かに早いに越したことはない。
「まあ私は別にもう少し後でもよかったけど…」
「あら叶ちゃん、そう言いながら一番最初に準備してたじゃない」
「叶先輩、抜け駆けは良くないですよ」
「な…!」
由紀乃先輩と有紗から指摘され、顔を真っ赤にするカナ。カナはいつも言ってることとやってることが違うことが多くてそれで失敗することが多い。彼女達との出会いは追々話すとして、今日どうして俺の家に集まったかと言うと…。
「そろそろ上がろうよ、今日はテマの誕生日なんだから」
「うん…料理とか色々準備しないと…」
一希と真弓の言った通り、今日は5月15日。俺の誕生日なのだ。だから皆でお祝いしようとなってこうやって集まっている。
普段は誰か1人が1日交代で俺の家にやってきている。両親がいない俺の為にと彼女達が提案してくれたのだ。
「じゃあテマ、上がらせてもらうわね」
「ああ」
俺はカナ達を家に上げる。そしてリビングでテーブルを囲んで座る。テーブルの上にはケーキやチキンといった料理が並べられている。
「じゃあ……テマ君、お誕生日おめでとう!」
「「「おめでとう!」」」
由紀乃先輩がそう言うと他の皆も続いて言う。そしてクラッカーを鳴らす。俺は紙吹雪を手で払い除ける。すると皆、料理を食べ始める。
「いっただきー!」
「ちょっと玲衣!チキン独り占めする気!?」
「そこはテマ先輩にやるのが普通でしょ!?」
大きいチキンを玲衣が食べようとし、カナと有紗に止められる。
(やれやれ…こう集まると賑やかだな…)
何故俺の家に彼女達が来るようになったのかは今でも鮮明に覚えている。
◇
遡ること半年ほど前、中学を卒業する時、突如カナに校舎の裏に呼び出された。
『カナ、一体何の用だ?』
『…それは、えっと…』
『告白か?』
『ちょ!当てないでよ!せっかく言おうと思ったのに!』
『いやー、このシチュエーションはまさかと思ってね。冗談のつもりだっけど…』
『…まあいいわ。私ね、ずっとテマが好きだったの。単なる幼馴染みとしてではなくテマの女として一緒にいたいの』
『カナ…』
俺が答えようとした時、大声で制止がかかる。
『ちょっと待てーーーー!!!』
そこには玲衣、真弓、由紀乃先輩、有紗、一希、エリジェがいた。
『おい叶、抜け駆けはなしって言ったよな?』
『そうだよ、それに叶ちゃんだけずるいよ』
『私もテマのことが好きなのに……』
『叶先輩、抜け駆けは良くないですよ?』
『テマ君、私も好きよ』
カナ以外の6人が俺に向かって言う。俺は思わず呆然としてしまう。すると彼女達が詰め寄ってくる。そして……
『テマ君!私を選んで!』
『僕を選んでよテマ!』
『あたしを選べよテマ!』
『私を選んでくださいテマ先輩!』
『私を選んで…!お願い…!』
『Choose me!テマ!』
『お、おい…』
6人の圧に押され、俺は思わず後ずさる。するとカナが俺の左腕に抱きついてきた。
『ちょっと!テマは私のものよ!私の方が付き合いが長いんだから!』
『叶先輩、長いからとかそういうのは関係ないんですよ?』
『Yes!幼馴染みとか付き合いが長いとか関係ないデス!』
『てかお前、テマの家にしょっちゅう行ってるみたいじゃねえか!!』
7人が言い争いを始め、俺はなんだか帰りたくなってきた。
『ハア…ハア…これじゃあ埒があかないわ…。だったらこうしましょ!これから1日交代制でテマの家に泊まるの!テマは一人暮らしだから家のこととか大変だからそれを支えてあげるの!最終的に誰が一番よかったかテマに決めてもらって、その人がテマの彼女になるってのはどう!?』
カナがそう提案し、他の皆はそれに賛同した。俺はというと…
『いや待て、それはちょっと……』
『いいわよね!?テマ!?』
カナの迫力に押され、思わず頷いてしまった。その時のカナの目は有無を言わせない圧力があったのだ。あの時ほど彼女を怖いと思ったことはなかったな。
◇
「どうしたの?テマ」
「…!いや…なんでもない…」
カナに声をかけられ、ハッとする。どうやらボーッとしていたようだ。俺は今、彼女達が作ってくれた料理を食べながら回想に浸っていたらしい。
一通り料理堪能し、その日は全員が泊っていった(なんで?)。因みに一線は超えていない。だが、そんな日常は突如終わりを告げる。
◇
学校から帰った俺はいつものように7人の内の誰か1人がやってくるのを待つ。しかし、いくら待っても来ず、そのまま夜になってしまった。
(どうなっている…?)
流石に心配になり、席を立った瞬間、電話が鳴り響いた。受話器を取り、電話に出てみる。
「もしもし?」
『もしもしテマ君?叶は今そこにいる?』
電話を掛けてきたのはカナの母親だった。
「いや、来てないですけど…」
『そう…』
「…なにかあったんですか?」
『実はね、叶が帰ってこないの』
「ええっ!?」
カナが帰ってきていない?一体何故……?俺はカナの母親に訳を尋ねてみる。
「カナが!?どういうことですか!?」
『それが…わからないのよ…』
「そうなんですか……」
『ごめんなさいね、テマ君。とりあえずあの子が見つかったらすぐに連絡するわ』
「はい、わかりました」
そう言うと電話は切れてしまった。すると再び電話が鳴り響いた。
「もしもし…?」
『…テマ君かい?』
「貴方は…!」
次にかかってきたのは真弓のお爺さんだった。
『孫の真弓が帰ってこないんじゃが、何か知らんかね?』
「真弓が帰ってこない…!?彼女まで...」
『まさか、他の子もか?』
「はい、ついさっき、カナのお母さんから電話があったんです。カナが帰ってこないって…」
『そうか、叶ちゃんもか…。これはただ事ではなさそうだ…。わかった、此方の方で部下達に捜索させる。何かわかったら連絡する』
「お願いします」
電話が切れ、俺は再び考える。一体カナ達に何があったんだ……?するとまた電話がかかってきた。
「はいもしもし?」
『テマ君かい?』
今度は玲衣の母親だった。まさかとは思うが…
「玲衣も帰ってこないんですか!?」
『そうなんだよ、全くこんな時間までどこほっつき歩いてるのかしら』
どうやら玲衣も帰ってないみたいだ。俺はカナと真弓も帰ってないことを伝える。
『叶ちゃんと真弓ちゃんも帰ってないのかい!?一体どうなってるんだい…』
「わかりません…」
『取り敢えず警察に捜索願を出すから、テマ君も気を付けるんだよ』
そう言うと電話は切れた。その後も電話があり、由紀乃先輩と有紗、一希、エリジェも帰ってないとのことだった。一体何が起きているのか俺にはわからず、取り敢えず座り込む。…いつも誰かがやって来ていたから家の中はいつも以上に静まり返っている気がした。
◇
彼女達が行方不明になって1ヶ月が経った。俺は今でも独自で彼女達の捜索を続けている。だが、未だに手掛かりは掴めていない。それどころか日に日に不安が募るばかりだ。その日、家に帰り、郵便受けに封筒が入っていた。
「なんだこれは?」
封筒を開けると、そこには手紙ではなく1本のUSBメモリだった。俺は家に入ると自室にあるPCを立ち上げ、USBメモリを差し込む。
「ウイルスとかじゃないよな…?」
そんな不安を抱えつつもメモリの中を見ると、そこには1つの動画ファイルがあった。俺はその動画ファイルを開く。そこには目を疑うような光景が映されていた。