幼馴染とその友達そしてあたし。
諸星美来。
良い性格はしてないけど、イイ性格をしてる。
そう自覚してるから、だからあいつとあいつの友達を悪気なく振り回せる。
いつもやってる暇潰しの一つでマッコリィというものがある。
あたしはそこで呟いたりテキトーに顔のいい男のアイコンを探したりしていたら、とあるアイコンが目に付いて眉を顰める。
そのアイコンには、形の違う二人の女らしき片手のひらに何の変哲もないただの色違いの熊のキーホルダーがそれぞれ一つずつ乗せらているだけの写真。
けどあたしはそれに見覚えがあった、何故なら幼馴染であるあいつもこのアイコンを使っているからだ。
そしてユーザー名はあいつの物ではない。
ということは…。
「あいつの友達だっていう女のアカウントねこれ」
前にこの写真はなんなのよと聞いたら、友達とお揃いの買った記念に撮ったやつとあっさりと白状した。
それを聞いてはあっ?とあたしの機嫌は一気に悪くなった。あたしとのお揃いは写真に残さない癖に、この女との物は記念に残すとか生意気すぎて腹が立った。
だから腹いせにあたしとのツーショットを撮らせたら、あいつの自撮りがあまりに下手くそすぎて逆に溜飲が下がったわ。
あーもう思い出したらまたムカムカしてきたわ。
あっ。そーだ。
「良いこと思い付いちゃった」
せっかくならあいつの友達だというこの女をからかってやーろうっと。
ルンルン気分でそう決めたあたしは、さっそくそいつに《同い年なの?今度会って遊ばなーい?》とメッセージを送り付けてやった。
無理矢理遊ぶ約束を取り付けて待ち合わせ場所に行ったら、うびぃ。と変な鳴き声を上げた割と可愛い顔をした女だった。
ふぅん。こいつがあいつの友達ねぇ。と不躾に品定めをしてると気まずそうにする目の前の女。
こいつ気が弱いのかしら。メッセのやり取りでも押しが弱い感じだったし…よし決めたわ!
「よし気にいった!あんたあたしと付き合いなさい!」
別にこいつの事本当は気に入ってないし、あいつの友達って事でむしろ邪魔にしか思ってないけど、あいつの友達をあいつの知らないところで困らせられる喜びを考えたらワクワクするから付き合うでしょ?普通。女?性別?そんな小さい事どうでも良いわ。
って、最初は思ったけど、やっぱ女同士だと欲求不満が溜まるわ溜る。
だからあいつの友達…優佳莉に浮気についてどう思うか聞いたら、するのもされるのも嫌ときた。
つまんない女ね、じゃあもう優佳莉は用済みで良いわ。
それに優佳莉と付き合った。その事実があればあいつで遊ぶことができるしね。
「あんたみたいな浮気ダメダメ教と付き合ってたらあたしが浮気できないじゃない?だからさよなら〜もう連絡してこないでよね」
マッコリィを開いて優佳莉のアカウントをブロックしながら、呆けている優佳莉を放置してあいつに電話を掛ける。
「今すぐ駅近のカフェまで迎えに来なさい」
呼び出して暫くしてあいつがやって来た。
テイクアウトのコーヒーを奢らせて、相手が優佳莉って事を伏せて、女と付き合った、浮気出来ないから別れた。とそれを聞いたあいつの顔ときたら…笑えたわ。
頃合いを見て、あいつに前に話した女が優佳莉であるとバラそうとしていたけど、どうやら先を越されたみたい。
珍しくあいつからマッコリィを使ってメッセのが飛んできた内容を確認したら生意気な文面を見つけた。
《優佳莉をお前の気まぐれな恋愛観に巻き込むな。ps.私も優佳莉もマッコリィ辞めるから》
そして数秒後にあいつのユーザーネームが記されていた場所が、no nameの文字に変わっていた。
「ふぅん。なんだ、優佳莉があいつに話しちゃったのね。あの子の事だから話すにしても一ヶ月は寝かせておくと思ったのに」
読みが外れたわ。と少しがっかり。
あいつにヒント出し過ぎだったかしら?とちょっと反省。
それにしても…。
「あの流され面倒くさがりがこんな友達想いだなんてねぇ?このあたしに反抗するくらいに?あり得ないわね。何?あいつ優佳莉に惚れているのかしら?だとしたら…」
そんなの認められないわね。
あいつが惚れるなら相手はあたしじゃなくちゃ許さないわ。
それなのに他の人間になんて、ねぇ?
「反吐が出るほど腹が立つわ」
あたしの体の中を、どろり。としたくそ汚いヘドロが流れきたのを感じた。
まったく幼馴染の分際であたしを困らせるなんて、生意気が過ぎるってもんよ。
あいつの学校よりも近い学校に通っているあたしは、別に急ぐこともなく余裕であいつよりも先に家に帰り、クローゼットの奥に眠らせていた空手着を引っ張り出して着る。
少しサイズが小さいけど、許容範囲内ね。
手首につけている飾りの付いたヘアゴムを外し、引き出しの中からあたしの趣味じゃない上におしゃれ味も無い、平凡な黒いヘアゴムを取り出した。
髪型をポニーテールにして気合を入れる。
これから決行するバトルロワイヤルに備えて、しっかりと準備運動をするあたしは負ける気なんて当然ない。
end.