友達の幼馴染がまさかの私の元カノだった。
「まじかぁ…まじかよー…はあぁーっ」
朋恵に昨日の私がとんでもない理由で振られた事を話したら、普通だったら彼氏にって思いそうなのに、朋恵の勘が鋭かったのか、私が上手くぼかして説明できていなかったのか、どういう訳か疑問形ではありながらも、私を振った相手が女であると言い当てられたのに驚いていると、急に天を仰ぎ始め何やらボソボソ。と呟いている。
その反応を見てもしかして朋恵…。
同性同士の恋愛関係をあまり良く思ってないとか…?
サァーッ。と血の気が引いた。
ど、どうしよ、朋恵に嫌われたくないよっ。
「優佳莉…ちょっと3階の空き教室まで来てくれない?」
まさかの友情の危機に不安になっていると、言いたい事があると、固い声で呼び出しのお知らせ。
教室では言えない事を言うつもりなのかな…もしかして絶交を言い渡されるの⁉
そんなの嫌ー!
浮気できないから別れるって諸星さんに言われたよりももっと嫌ー‼
涙目になりながら1人絶望して体が固まっている隙に、腕を掴まれていつの間にか教室の外へと連れ出されていました。
「まじでうちの阿呆な身内が申し訳ない」
目的地である空き教室の扉が開かれ、私の脳内が絶交の二文字で覆い尽くされている中、何故か朋恵に綺麗な土下座をされていた。
「へっ?」
「いやそもそもの話私が自分のストレス軽減の為だけに、優佳莉をマッコリィに誘ったのがそもそもの間違いだった本当にごめんなさい」
「えっ…あっ。ちょっと朋恵!何で土下座してるの⁉はっ早く表を上げてよ!あと話が全く見えないんだけど⁉」
ちょっと言い方が変になった気がするけどそんなのどうでも良くなるくらい、私は混乱していた。
だってこっちは絶交って言い渡されるかもって、凄いビクビクしていたのに…まさかの入室してすぐの早業土下座だったんだもの。
そろそろ。と顔だけを上げた朋恵。
いやあの…全部起こして下さい。
「あーごめん。何分自分の中で線やら糸やらが絡まらずきれーいに繋がってしまった事に驚いてて…ちゃんと話すと、昨日優佳莉を振った奴…そいつね。私の幼馴染」
………。
…え?
「わ、わんもあ?」
「だから優佳莉を浮気できないからって振った女は私の幼馴染である諸星美来だって話。本当にすみません代わりにまず私が謝ります」
そして再び伏せられる朋恵の顔。
ああうん。諸星美来。名前あってるね。
そっかそっか幼馴染だから身内って表現したんだね。
確かに幼馴染って身内感あるよね。
幼馴染いないから実はよく分かってないけど…ああでもこれだけは分かる。
「世間…狭すぎる」
しかも極狭である。
あまりの狭さに、そして友達が元カノの幼馴染という事実に一瞬意識が遠のきそうになったけど、友達を土下座させたまま気を失っては駄目だと踏み止まった。
「と、朋恵とりあえず本当に土下座はやめて?逆に困っちゃうよ私…」
「それはごめん。そっか…困るのか…じゃあ正座で…」
「それも困るから直立不動でお願いします!」
「…分かったよ」
渋々といった風にゆっくりと立ち上がる朋恵。
いくら諸星さんが朋恵の幼馴染とはいえ、何も悪くない朋恵に謝らせるのは心臓に悪い。
「よしちゃんと真っ直ぐ立って偉いよ朋恵」
よしよし。と頭を撫でる。
うん髪の毛サラサラ。
「いや立ったくらいで幼い子に対してみたいな褒め方されても…何はともかく本当にごめん。マッコリィってアカウントもう削除した?」
「ううん。もうアプリ開いてはないけど削除はしないよ」
「え、まだしてないの?もしかして削除の仕方が分かんないとか?だったら教えるよ」
ほらスマホ貸してと手を差し出す朋恵に慌てて首を横に振る。
「やり方を知らない訳じゃないよ!」
「え、そうなの?じゃあどうして」
本気で分からないという顔をしている朋恵。
いやいや朋恵ったら、さっき自分でも言ってたのに…。
もしかして朋恵の中での私って結構薄情なのだろうか。
いやそんな事はないと信じたいよ。
それともわざわざ伝えないといけない程、この友人は鈍感だったのか、はたまた諸星さんの事で理解度が落ちたのか…だって。
「だって理由はどうあれ、朋恵が一緒にって誘ってくれたんだよ?確かに思うところはあるけどそれは諸星さんに対してだし、しばらくはマッコリィを利用するのはちょっと…って思うよ。けど朋恵が言ったんだよ?安心感を覚えたいって、だからアカウントは消しません」
「あー…そっかそゆうこと…やっぱあの日誘ったのは軽率だったか。よし優佳莉私の事は気にせず今すぐマッコリィを…あいつの残り香が蔓延しているものは即刻抹消しなさい」
「やだ。朋恵の例の幼馴染が諸星さんと分かった今絶対に消さないから!」
「いつになく頑固だな!ああもうっつまりその言い分だと優佳莉は私がマッコリィやってなきゃ消すんだな!じゃあ私も消すから優佳莉も消せっ!」
「えっ⁉大丈夫なのそれ⁉」
半ギレの朋恵の発言に少し冷静になったし心配になった。
だってもし辞めたのバレたら諸星さんから何か言われるかもしれないんだよね?
「全然大丈夫。今まではあいつ関連の事は面倒臭すぎて色々と自分の楽な方に避けていただけ」
「でも逆ギレ…」
「あーそれ?“無断”でじゃなくてちゃんと“報告”すれば一先ず躱せると思う」
「あっそうなの?」
そっかそれなら良かっ…。
「代わりに、あいつの機嫌が良い時とタイミングが被ればスルーもしくはこき使われるだけ、逆に機嫌悪くてもちょっと久し振りにバトルロワイヤルになるだけ。ほらとりあえず逆ギレは回避されてるから問題ないでしょ?」
「いや問題あるんじゃないのかなそれは⁉」
どっちにしろ理不尽!
機嫌良かったとしてもこき使われるとか…流石諸星さんだなぁ。
そして朋恵はそんな麻痺した生活に慣れてしまっているんだね。
それから暫く朋恵との押し問答は続き。
結果私が折れるという形で落ち着いた。
マッコリィのアカウントの削除を終え、朋恵に終わったよー。と声を掛ける。
朋恵はあと少しで終わるそうだ。
「うんこれで、と。よし出来た」
「本当に良かったの?」
もうアカウント消しちゃったから意味のない問いかけだけど、やっぱり今後の諸星さんの対応を考えたら早まったんじゃないのかとどうしても考えてしまう。
最悪バトルロワイヤルになるらしいし…。
幼馴染同士の戦い…うんなんか、遠慮なさそうだなぁ。
「良いの良いの。むしろせいせいした、かな?」
それになんだか物理的に肩の荷が下りた気がすると、軽やかに肩をぶん回す朋恵にちょっと笑ってしまった。
後日。
どうやら本当にバトルロワイヤルなるものをしたらしく、いつもより遅れて登校した朋恵は良い笑顔で「あっはは!今回は珍しく引き分けだった!」と誇らしげに胸を張っていた。
あ、あれ?
朋恵ってこんなに豪快に笑う子だったけ?
友達の新たな一面に何故だかドキドしたのも束の間…よく見たら松葉杖をついている朋恵の姿に気付いた私含むクラスの全員が「「「はよ帰れー!」」」と声を揃えてツッコんだ。
合唱コンクールで歌った時よりも息があっていたと思う。