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第9話 自由

 『空を飛びたい』


 それは、人であれば誰しも一度は抱いた夢だろう。

 ソフィアも漏れなくそんな夢を抱いていたが、まさか生きている間に叶うとは思ってもいなかった。


「わあああああああああっ……!!」


 雲に届きそうなほどの高さを飛行する、婚約者アランにして巨大な白竜の背の上。

 人生初めてとなる空からの景色に、ソフィアは興奮しっぱなしだった。


 青い空、煌めく太陽、流れ行く白い雲。

 全身を包み込む風は涼しく心地良い。


 まともに歩いたら走破に何週間もかかるであろう山脈が、眼下で物凄いスピードで流れていく。


 その爽快感たるや、言葉に言い表せないほどだった。


 ちなみに。


 今、アランの背中に乗っているソフィアとシエル、そしてハナコは精霊魔法で風の加護とやらを施されている。

 この精霊魔法をかけずにアランに乗って飛行したら、たちまち強風で吹き飛ばされてしまうとのことだ。

 精霊魔法は知識でしか存在を知らなかったが、フェルミの魔法でいうところの身体強化に近いものなのだろうとソフィアは考える。


「空の旅はどう、ソフィアちゃん?」


 後ろで優雅に紅茶を嗜むシエルが尋ねてくる。


「す、凄いです……!! 私、空を飛んでいます!」

「ふふ、気に入ってくれたようで何よりだわ」


 庭先ではしゃぐ子供を微笑ましく眺めるような笑顔をシエルは浮かべた。


『きゅいきゅい!!』


 ハナコも空を飛ぶのは初めてなのか、出発してからソフィアの肩から降りてアランの背中をせわしなく走り回っていた。

 落ちないのかと心配になるが、風の加護を受けているから大丈夫とのこと。


「私、知らなかったです! 世界がこんなにも広いだなんて……!!」


 無能の烙印を押されてから外聞を気にした両親は、ソフィアが人前に出る事を原則として禁じていた。

 なので今までずっと、屋敷の狭い部屋の中に押し込まれて育ってきた。


 毎日同じ光景、代わり映えのない日常、無機質な世界。


 今、目の前に広がる光景は、そんな窮屈な世界から飛び出した象徴のように思えて、ソフィアの胸の中を例えようのない解放感で満たした。


 清々しかった。

 気持ちよかった。


 そして何よりも、楽しかった。

 こんなにも楽しいと思えたのはいつぶりだろうか。


 例え、この先に待ち受ける運命が辛いものだとしても。

 こんなにも素晴らしい光景を見せてくれたアランには感謝したいと思った。


「ありがとうございます、アラン様」

『何に対する礼だ?』


 アランの声が頭に直接響くように聞こえてきてびっくりするソフィア。


「わわっ、聞こえてらっしゃったんですね」

『白竜だからな、当然だ』


 ものすごい聴力をしてらっしゃる。


『それで、何に対する礼だ?』

「私に自由を見せてくれた事に対してですよ」

『ふむ……? よくわからんが、どういたしまして?』


 そんな二人のやりとりを、シエルはうんうんと頷きながら眺めていた。


 ──どれくらい時間が経っただろうか。


 山脈を、街を、川を、山を、海を、街を。

 いくつもの土地を超え、最後に長い長い山脈を超えた先に現れた広い平野部。


「見えて来たわ」


 一面に広がる白い建物、木々の緑、奥の海に繋がる幾本もの川。

 そして何よりも目を引くのは、視界に収まりきらないほど大きな大きな大樹。

 

 世界樹、という単語がソフィアの頭に浮かぶ。

 今まで見てきたどんな木よりも大きくて逞しくて、美しい大樹だと思った。


「エルメルの首都、セフィロトよ」

「ここが……」


 これから、自分が生きていく場所。

 自然と調和したどこまでも広がる街を見て、綺麗だな、とソフィアは思った。

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聖女様になりたいのに攻撃魔法しか使えないんですけど!?



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