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第27話 屋敷を散策

「こちらが調理室、そしてこちらが使用人の控室。この先にある奥の部屋が……」


 クラリスの案内で、ソフィアは屋敷内を散策していた。

 アランの邸宅は広く、どこにどんな部屋があるのかを一度で覚えるのは不可能なほどだった。


「へ、部屋がたくさんありすぎて目が回りそう……」

「すべての部屋を覚える必要はありませんよ。ソフィア様が普段お使いになられそうな部屋は入念に説明いたしますので、そこだけ押さえていただければ」

「わかったわ」


 クラリスのありがたいアドバイスに従って、とりあえずは特定の部屋を覚える事にした。


 とは言っても食堂や大浴場などは昨日案内してくれて把握していたので、実質の数は少ない。

 追加で覚えたほうがよさそうなのは客人を迎え入れる応接間、そして……。


「こちらが、アラン様が普段、政務を行なっておられる執務室でございます」

「アラン様の……」


 他の部屋よりも一際大きく仰々しい装飾がなされた扉。

 

(この中に、アラン様が……)


 そう思っただけで、胸の奥がとくんとくんと高鳴った。


「……ちなみにアラン様は現在、王城にて会議をしておられるので、こちらにはいらっしゃいません」

「あ、そうなんだ……そうなのね……」


 しょんぼり。

 わかりやすく肩を落とすソフィアを見て、クラリスは微笑ましい気持ちになるが表情には出さない。


「心配しなくても、午後には会えますよ」

「うん……そうね、そうよねっ」


 元気が帰ってきたソフィア。

 わかりやすく声を弾ませるソフィアを見て、クラリスは思わず小さく笑みを浮かべてしまう。


 屋敷内の案内は続く。


 途中、すれ違った使用人たちはソフィアの姿を見て一様に廊下の隅に避け、頭を下げたり、挨拶をしてくれる。


(なんだか、新鮮な感覚ね……)


というよりも、あり得ない光景だった。


 実家では使用人とすれ違っても挨拶や礼なんてなし。

 それどころか、わざと肩をぶつけてきたり聞こえるように影口を叩いてきたりと、海水もびっくりな塩対応だった。


(本来はこれが普通、普通……)

 

 昔いた場所と、今いる場所は違う。

 

(早く慣れないと……)


 意気込むソフィアだったが、それはさておき。


(さっきの方はうさぎ耳……あの方は猫耳……ふおおおお狐耳まで!)


 この屋敷で従事している使用人たちの獣族率が高い事に、ソフィアは抑えきれない興奮を覚えていた。


 なるべく平静を装っているつもりだが、知らず知らずうちに興奮が身体に浮き出てしまっているかもしれない。


「ソフィア様? 先ほどから鼻息荒いようですが、お疲れですか?」

「あっ……これは違うの、もふもふが凄くてちょっとテンションが上がっていただけ」

「……? よくわかりませんが、お疲れでしたら遠慮せず仰ってくださいね」


 正直に明かせば、すれ違い様に一人ずつ呼び止めてふわふわそうなお耳や尻尾を是非ともさわさわさせていただきたく存じるソフィアだったが、そんな事をしては気でも触れてしまったのかと思われかねないので頑張って我慢。


 でもいずれ、どこかのタイミングで是非とも仲良くなりたいと思うソフィアであった。


 ここの使用人の皆さんだったら仲良くなれそうという、純粋な意味で。

 もふもふ触りたさはちびっと……いや多少、ううんそれなりにあるけども。


「こちらが図書の間です」

「図書の間……」


 クラリスが通してくれた一室に、ソフィアは心を奪われた。

 

 カカオを薄めたような紙の匂い、森奥の泉のような落ち着いた雰囲気。

 自分と部屋と同じくらいの空間に、かなりの冊数の本棚がずらりと並んでいる。


(そういえば……子供の頃はよく、お母様に絵本を読み聞かせてもらっていたわね)


 魔力ゼロ事件の前の話だ。

 まだ優しかった母メアリーの話すたくさんのお伽話に、ソフィアは夢中で聞き入っていたものだ。


「……本、好きかも」


 思わず呟いていた。


「何か、お読みになられますか?」


 クラリスが尋ねてくれたが、ソフィアは首を振った。


「ううん、今はいいわ。ありがとう」


 ここで本を読み始めてしまったらあっという間に時間が過ぎ去ってしまう。

 なんとなく、そんな気がした。


 そうなるとクラリスに迷惑をかけてしまうので、また後日、時間のあるタイミングで訪れようと思った。


 明日には足を運んでいる可能性が濃厚だが。


「気になった本を何冊か、部屋に持ち帰ってお読みになられてもよろしいですよ?」

「いいの?」

「ええ。アラン様の夫人になられた以上、この図書の間の本は自由にしていただいて構いません」

「なんと素敵な……ありがとう、じゃあお言葉に甘えて……」


 ソフィアは入り口に近い本棚の前に立ち、ざっと本のタイトルを眺め気になった一冊を手に取った。


「こちらですね、受け取ります」

「あ、ありがとう……」


 自分で部屋に持って行こうとしたが、さりげなくクラリスが引き取る。

 

(こんな楽をして、いいのかな……)


 そんな罪悪感を抱いているなんて、クラリスは露知らなかった。


「さて、これで一通り回り終えました」


 屋敷ぐるっと回って、エントランスに戻ったタイミングでクラリスが言う。


「案内ありがとう、クラリス。とても丁寧でわかりやすかったわ」

「いえいえ、それが仕事ですので」


 相も変わらずクールに言ってのけるクラリス。


「それではソフィア様、これより昼食を……」


 その時だった。

 

「おや、貴方は……」


 ソフィアでもクラリスでもない、第三者の声が廊下に響いた。



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聖女様になりたいのに攻撃魔法しか使えないんですけど!?



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