◆1話◆ 始まりは気だるげに
ここはカニア村大通り。
沢山の出店や商人達の集団が俺の横にびっしりと広がっている。
いや、いつも通りの光景なのだが今日は普段と訳が違う。
―――ん、何が違うって?
そりゃ町の活気に決まってる。
今日は朝からどんちゃん騒ぎでもう耳が痛くて仕方がない。
どこを歩いてもうっさい輩がうろちょろうろちょろ、いい加減やめてほしものだ。
まあ、仕方のないことなのかもしれない。
なにせ今日は一年に一回、剣に選ばれし者を探す『剣の審判』がとりおこなわれるのだから。
「やるだけ無駄、やるだけ無駄」
そうやってうわ言を放ちながらカニア村の大通りを歩くのは、俺、シンゴだ。
普段は家に引きこもっているためか、まともに外へ出ない俺は緑のスーツ姿に白のジャージといった明らかなニート姿で外を歩いているのである。
人の目が気にならないのかって?知るか、そんなこと。
俺は俺の好きなように生きたい、いちいち人の目を気にする人生なんて生きてられっか。
...ととと、なんか急に話が逸れたな。
「おいそこのニート予備軍みたいなお兄ちゃん!」
ん、話の途中だったが誰かに話しかけられたようだ。
いやまて、こいつ今なんて...
「誰がニート予備軍だ。人を見た目で判断するな。―――てかあんた、俺と知り合いか?」
「ははは、悪かったな兄ちゃん。別に兄ちゃんと俺に面識があるかって言われたら答えはNOだが、でも今日は『剣の審判』が始まるだろ?」
「ああ、そういうことか。まあ一応俺も参加する流れらしいが、ここ数年この町からは剣聖なんて現れてないからな。どうせ今回も空振りだろ」
「何を言う兄ちゃん、確かに最近は剣聖がなかなか選ばれねぇが、俺には感じるぜ。兄ちゃんには剣の才能がある」
「止めてくれ、俺は生まれてこの方ナイフさえ手に取ったことがない。ニート...社会に貢献出来ない俺に取ってはこのままぬるま湯に浸かったような人生を送りたいんだよ」
おっと、なんかよく分からん単語が出たっぽいが解説していこうか。
まず、『剣の審判』のことから話そう。
これは毎年ありとあらゆる町でとりおこなわれる世界規模の儀式だ。
成人した人間は男女を問わず、『霊剣』と言われる剣を握り、剣に選ばれし者を探し出すのだ。
剣に選ばれると、人それぞれに霊剣に能力が宿り、自分にだけしか扱うことのできない剣ができるとかなんとか。
次に剣聖についてだが、まあさっきの儀式で剣に選ばれた人のことを指す。
まあ剣に選ばれれば剣聖という称号が得られる、というわけだ。
それだけ。
「じゃあな、おっさん」
「おう、いっぱしの剣聖になれよ」
「なるかよ」
てな感じでさっきのおっさんとは別れて、俺は大通りを再び歩き出す。
「ま、こんなニートの俺が剣聖になるわけなんかないか」
ん、これフラグじゃね?
......まあいい、どうせ回収されない不発のフラグと信じよう。
「よお、お前も儀式に参加すんのか?」
「おお!びっくりするなあ、誰だよ」
唐突に横からまた話しかけられたと思えば、そこにいたのは眼鏡をかけた少し痩せぎみな同年代ぐらいの男がいた。
まあもちろん面識はない。
「儀式?ああ、そうだよ。だからとっととどっか行け」
「けっ、冷てぇなあ。ちょっとぐらい語ろうぜ。もし剣聖になった時の夢物語とかさ」
「俺は剣聖になんてならないし、なりたくない。第一、なってなんになる」
「なってなんになんのか?そりゃあ、超一流の剣を専門とした学校『ダイナス』に通えるんだぜ、こんな名誉なこたぁねぇだろ」
ああ、そういえばそんなとこ、聞いたことがあるな。
この町からは北に行ったところにある、世界中の剣聖が集まる学校とかなんとか。
まあどうせ、暑苦しい輩しかいないんだろうがな。
「オラも剣聖になって、美人に剣の稽古を付けられてぇなあ」
「あんたの目的は女かよ。そんなんのために俺は剣で遊んでらんない」
「お前は強情な奴だなぁ、男なら誰でも夢見る剣聖だぞ、剣聖」
「悪いが、この時まで生きてきて、剣聖になろうなんて一度たりとも思ったことがない」
「かーっ、こりゃ筋金入りの引きこもりだな」
へっ、好きなだけ俺の悪口を言っとけ。
てゆうか、初対面の相手に罵倒される謂われは俺にはないんだがな。
「―――お」
「いてっ、お前何急に止まってやがんだ」
あー、すまんすまん。
でもよーく目の前を見てみろ、なんか凄いから。
「ここが儀式の場『剣の審判』が始まる場所か」
そこは大勢の同年代が集まる空間。
沢山の青い灯火が吊るされている場所の中央には、鞘の付いた剣が数本、赤い箱のようなものに置かれている。
そう、これが霊剣。
この剣を触ったものに素質があれば、能力を覚醒させる力を持っているのだ。